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1人ぼっちの絶滅危惧種 第8話

ラーグリバットは他種族とつがう事を忌み嫌う。俺だって例外ではなかった。



今だって、龍とつがえるかと聞かれれば嫌だと断言出来る。



でも、かなえとはつがいたい。かなえの、つがいになりたい。



他のメスのラーグリバットが生きていたとしても、俺はかなえがいい。かなえとつがえないなら、このまま絶滅したってかまわない。



もう種族なんてどうでもいい。俺は……俺は、かなえとつがいたい。


かなえに、ずっとそばに居て欲しい。かなえが欲しい。



心の中でそう呟くと、俺が理解するのを待っていたかのようにピクリとも動かなかった体を動かす事が出来た。

そして、弾かれるように顔をかなえの方に向けると、そこには既にかなえの姿は無く……俺は激しい焦燥感に駆られた。


……だが、焦ったのは一瞬。

すぐに巣の外からかなえが俺を呼ぶ声が聞こえ、光の先に見えるかなえを咥えて飛ぼうとする龍を目にした瞬間、焦りは怒りに変わり、その怒りのまま力一杯龍に向かって体当たりをした。



すぐに放されたかなえを捕まえて、逃げないよう程々に力を入れる。


柔らかな体を包んで肺一杯にかなえの匂いを吸い込むと、血がドクドクと脈打って鼓動が早くなった。



……満たされる。……俺の、かなえ。



幸福を感じながら顔を上げる。俺のかなえを取ろうとした不届き者を追い返そうと。

……だが、良く知ったその姿に俺は頭を抱えた。……またか……っ!!



俺の目の前には、見知った姿の龍が居た。

……そう、確かこいつはぐれくんだ。



ぐれくんは、俺がかなえを抱きしめているのを見て暴れ狂った。



こんな所まで追いかけて来たのか?……かなえを、つがいにする為に……!



ぎりぎりと奥歯を噛みしめてぐれくんを見据える。

すると腕の中のかなえが驚いたように声を上げてぐれくんを指差した。どうやらぐれくんだという事に気付いていなかったらしい。



言い当てられたぐれくんは先程と打って変わって、甘えるようにかなえを呼び、無謀にもその巨体のまま擦りつこうとしたのか突進しだした。



そんな勢いと図体で突進されれば、弱いかなえはすぐに死んでしまう。そんな事も分からないのだろうか?


軽く飛んで躱すとさらにぐれくんは暴れた。体は大きくなってもまだ子供のようだ。



龍はすぐに大きくなる。大人となってつがいを持てるようになるのは生後2年程だ。

それまでかなえを囲って他のオスに取られないようにしようと考えているのだろう。



回りの物をなぎ倒し暴れる龍に恐怖したのか、かなえは大声できょわちゃんを呼んだ。


すると待っていたかのように、呼ばれてすぐきょわちゃんは俺達の前に降り立ち息子と対立するようにぐれくんの方を向いた。



「ぐれくんー!悪い子ー!お仕置きっっ!!」



締まらないお叱りでぐれくんを叩き潰して、すぐにらんらんとした嬉しそうな目でかなえを振り返った。かなえに呼ばれた事が嬉しいのだろう。



だがぐれくんも成長して耐性が出来たのかすぐに復活し、またかなえに近付こうと声を上げて突っ込んでくる……が、今度は兄弟に邪魔されて近付けないようだ。



かなえはこの龍の一家全員に好かれている……一体何をしたんだ……。



顔を顰めて苦しそうに唸るかなえを一瞬だけ不貞を咎めるように見つめると、かなえはグレクンニキラワレテタと言った。キラワレテタとは、すきの反対らしい。


すきは愛してるだ。ぐれくんはかなえを愛してる。


でもかなえはぐれくんにきらわれてたと思ってるらしい。しょんぼりとしなびた葉のように元気の無くなったかなえは、俺の胸に力なくもたれ掛かっている。


……俺は何だかあの龍が可哀想になり、きょわちゃんに再度叩き潰されているぐれくんに憐れみの視線を向けた。



息子が起き上がらない事に安心して、やり切った顔できょわちゃんは「成敗!」と一声鳴くと、かなえのもとに瞳を潤ませながらやって来た。



「かなえぇ、嫌いにならないでぇ……」



そう言ってかなえの髪を食む。歯はないので舐めているが正しいだろう。


かなえは訳も分からないだろうに笑いながらきょわちゃんの毛繕いを受けている。



……俺がやると嫌がるのに……。



もやもやと嫌な気分になっていると、他の龍も集まりだしてかなえを囲む。


それだけならまだ良いが、かなえが嫌がるふくを引っ張るのは見過ごせない。あれをかなえはとても嫌がる。



邪魔をするとぐれくん以外のオスの子龍は怒りだした。……が、ぐれくん同様にきょわちゃんに全員叩かれて大人しく下がる。


ぐれくんのようにかなえをつがいにとは思っておらず、ただ遊んで欲しいだけだったようだ。



かなえは楽しそうにきょわちゃんに話しかける。きょわちゃんもやっと会えたかなえに嬉しそうだ。


かなえが後ろで倒れているぐれくんを気にすると、心得たとばかりに子龍を使って巣に送還する。

かなえには聞こえていないだろうけれど、どうやらきょわちゃんはありがとうと言って欲しいらしい。



しかしその途中で俺の巣を覗いたきょわちゃんは驚いたように目を大きくさせた後、かなえと俺を交互に見た。……そして一言。



「卵は無いのぉ?」



それだけ言って心底不思議だというように、きょわちゃんは首を傾げた。



……卵?卵って……俺とかなえの、子供?……って…………こ、子供……っ!!



理解が出来ず一瞬呆けたが、言葉の意味を考え……その意味を理解したと同時に腕の中に居るかなえを意識するとカッと顔が熱くなった。

くらくらと熱で頭の中が鈍く歪む。



きょわちゃんはどうやら前に会った時の会話で、俺とかなえがつがいになったと思ったらしい。

かなえの傾げた首を見て1人で「まだだったのぉ?」と納得している。


だが……そうだ。俺が……いや、かなえがその気になればかなえは俺の子を産めるという事だ。



種族が違うから産めるかは分からないけれど、…………出来れば俺は、かなえとの子供が……欲しい。



こんな感情を自分が抱く日が来るなんて思わなかった。


なんと言っても俺は絶滅した種族唯一の生き残りだ。それも、他種族とつがう事を何よりも嫌う。



俺はずっと1人で、子孫の事を考えることも無く生きて死ぬのだと、ずっと……ずっと考えていた。



でも、今は違う。かなえが居て、俺が居て……出来ればそこに、何匹か子供が欲しい。



かなえはきっとラーグリバットではないから2匹目以降も産めるし、死なないだろう。……でも、もしかなえが産めなかったとしても、それでもいい。


かなえと2人でずっとこうやって楽しく生きていくのもいい。俺はかなえが居るだけで楽しい。幸せだから。



そんな邪な考えをしているとも知らないかなえが俺の顔を見て血相を変え俺の体をぺたぺたと触る。



止めてくれかなえ……!つがいでもない俺に警戒心も無く触らないでくれ!

どうしてかなえはそんなに気配に疎いんだ……!!



上手く回らない頭で必死に自身の欲を押し留める俺の願いも空しく……俺の腕から飛び出し、空を舞う青い子龍に指を組んで何かブツブツと呟くかなえを見て……よかれと思ったのかきょわちゃんは再びかなえに鱗を渡した!

何て事をしてくれるんだっ!!



かなえと俺はつがいではない。つがいにしたくて堪らないが、それはかなえにちゃんと俺がつがいで良いか確認をとってからだ。

いきなりつがいにしてかなえに嫌われたくない。



ラーグリバットは満月の夜につがいの印をメスに付ける。誰かに聞かなくてもラーグリバットは皆知っている事だ。



俺が昼間にかなえに印をつけようとしても、まず牙が無い。つがいに印を付ける為の長い牙は満月の夜にしか生えては来ないのだ。それ以外の歯で噛んでも印にはならない。



悠長に構えている時間は無いのに……!



焦っても、欲は膨れ上がろうとも……牙が無いので痕を付ける事も出来ず……俺は必死に見せかけの威嚇をして、鱗を飲ませようとするかなえを追い払うのだった。


……あぁ……せめて、今夜は満月であってくれ。






――――…………






顔の赤みと衝動が治まってきたので巣でさらに落ち着きを取り戻し外が暗くなるのを待ってから、先程から頻繁に出かけたがるかなえを連れて夜道を歩く。



不意に空を見上げると、大きな月が欠けることも無く空を覆いつくす程の大きさで登っていた。

……満月……。



よかった……良い頃合いだ。今日だ、今日にしよう。



かなえに聞こう。俺をつがいにしてくれないかと。



早い方が良い。かなえは好奇心が旺盛だから、そのまま誰かも分からないオスにつがいにされてしまうかも知れない。



俺が近くに居てそんな暴挙に出る無謀なオスは居ないだろうけれど……早いに越したことは無い。



俺は息を整えるようにゆっくりと空気を吸った。

決断の時に、心臓が煩く騒いだ。



かなえの言葉はまだ正確には分からないけれど、一緒に過ごしていると軽い身振りや目の動きなんかでほぼ言いたい事は分かる。それにかなえは分かりやすい。


だから俺の言いたい事もかなえは何となく分かってくれてるし、俺をつがいにして欲しいと言えば何らかの反応を返してくれるだろう。



俺はゴクリと大きな音を立てて唾を飲み込んだ。……まさか、俺が求愛する時が来るなんて……。



こんな事なら、他の種族のオスの求愛でも見ておけば良かった。俺は過去のただ巣の奥で死んだように生きていた自分の暮らしを悔いた。



苦い顔の俺にも気付かずかなえはキョロキョロと忙しなく辺りを見渡している。どうやらリリーティンクを探しているらしい。あれからずっと探しているので少し可哀想になる。



俺が首を振ってもかなえはこの辺りに居ないのだと解釈してまた他の場所を探す。


……誰か教えてあげて欲しい。

リリーティンクはしばらく出て来ないと。



……可愛いような、呆れるような……



まぁでもずっと見てられるんだから可愛いんだろうな、とかなえの後ろ姿を見つめながら、俺は誰にも知られずに笑った。




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