1人ぼっちの絶滅危惧種 第7話
朝。いつもなら叶が寝ている間に食料を捕りに行くけれど、昨日の事があったので怖くて行かなかった。
もう嫌だ。かなえを1人にするのは。
ぴったりくっつく俺を、しょうがなさそうに笑って許すかなえに幸せな気持ちになる。……俺はまだ、そばに居てもいいのだと……そう言ってくれているようで。
……でも、またかなえは四角い石を見て目から水を出していた。……悲しいのか、かなえ……。
俺はかなえの手に握られているそれを恨めしく睨む。故郷を思わせるそれがかなえを惑わせて傷つけているのだ。
いっそのこと埋めて見えないようにしてやろうかと思ったけど、かなえが俺を見ておかしそうに笑うので止めた。
……きっと、この石も、かなえの大切なものだから。故郷と一緒で……。
それよりもかなえが俺を見て笑ってくれたのが嬉しくて、かなえの腕に頬擦りする。
柔らかくて、安心する。姉とは違う……もっと熱のある愛おしさを感じる。
俺がそうやってかなえにすり寄っていると、かなえは不意に何かを呟いた。
気になってもう一度、とかなえを見ると、どこか優しさと熱を秘めたような眼差しでかなえは俺をまっすぐ見て言った。
「ガウクンノコト、スキダヨ」
……スキ?スキダヨって何だ?
聞いてもかなえはくすくす笑うだけ。答えは教えてくれなかった。
……でも、かなえが言葉にするたびに舞う鼻をくすぐる甘い官能的な香りに……俺は何となくこの時から本能で分かっていたように思う。
――――…………
幾日の時が過ぎた朝、俺達が巣の外を覗くと、いつの間にやら大量の食料が外に鎮座していた。
俺はかなえを巣に押しやって木の実と外の様子を確認する。
……しかし、そこには何も居なかった。
妙な匂いはするけれど、その匂いの主が何だったのかは思い出せない。それに、どうやらどこかに行ってしまったのか、もう近くには居ないようだ。
安全らしい事を確認し、木の実をかなえの所へ持っていく。かなえから離れずに食料を調達出来るなら、それに越したことはない。
腕に抱えられるだけ木の実を抱え巣に入ると、かなえは最近覚えた毒を槍と……ぼくとー?に毒を塗っている最中だった。なかなか塗る姿が様になっている。
俺はそんなかなえに愛おしさを感じて口角が自然に上がった。……俺の為に、色んな事を覚えようとしてくれている。何て健気なのだろう。
かなえが一生懸命作ったぼくとーは、俺の武器となった。
かなえには俺の作った武器を渡しているので質的には俺の作った槍の方が良いが、俺はかなえの作ったぼくとーが宝物だ。
これを使うとかなえは喜んでくれるし、持って帰ると楽しそうにかなえは手入れを始める。
まるで…………そう……つがいになったみたいだ。
なんとも言えぬ気恥ずかしさが身体中を駆け巡り、誤魔化すように急いでかなえに木の実を渡すと、かなえはすぐに鋭利な石で皮を削ぎ始めた。
俺がそんなかなえを観察していると、かなえが一緒にしようと言ってくれたので嬉しくなって声を上げて承諾し隣に並ぶ。
でも難しくて……何度もかなえの手元を見ながら削いでみたけど、どうもかなえのようには出来ない。
メスは細かい仕事が得意なようだ……俺にはとても真似出来ない。
途中でかなえが何か言って、その香りに意識が持っていかれそうになったけれど頑張って無視した。
これをかなえのように綺麗に削いで、かなえに褒めてもらいたい。
…しかし、残念ながら出来上がった木の実はペラペラとした……とても食べ物には見えないものになってしまった……。
案の定かなえも褒めてはくれなかった。俺は落ち込んだ。
気にしてないようだけれど、どう見てもかなえの木の実の方が美味しそうだ。俺は失敗作が目に入らないようにそっと端に押し退けた。
だけどかなえは何度も見せびらかすように失敗作を俺の目の前で広げる。
……やめてくれ、かなえ……俺はもう見たくないんだ……!
あえて顔を背けてそんなものは知らない、と無視を決め込んでいると……よく食べるかなえは勿体ないとでも思ったのか、俺の削いだ失敗作をかなえは自分の口に運んだ。
俺は驚き叫んだ!
やめてくれ!無理して食べなくても良いから!!
しかしその声も空しく、警戒心も無くもごもごと咀嚼をするかなえに絶望に似た感情が湧き上がった。
……あぁ……食べてしまった……あんな、汚いものを……!
……こんなはずではなかった。
かなえには、もっと上手く削げたものをあげるはずだった。……違うんだ、かなえ……嫌いにならないで……。
……そう……俺はかなえに嫌われるのが嫌だった。
かなえが俺を誘ってくれたという事は、全てのにんげんが木の実を削げるんだと思う。
かなえは、俺をにんげんだと思っているから……。
でも、俺はラーグリバットだから……そんな事、やった事無い。出来なくて当然と言えば当然だ。
だけどそれではかなえに嫌われる。かなえに好かれたい。かなえも、愛して欲しい。
短時間でそんな欲望が膨れ上がった。そんな自分に驚いていると、それよりも驚く光景が目の前に映し出された。
―――――かなえが…………笑ってる……。
嬉しそうに…満足そうに、かなえは俺の削いだ木の実を食べて笑っていた。
それを見ていると、この間のきょわちゃんの言葉を思い出した。
『きょわちゃんがねぇ、好きな木の実をねぇ、食べやすいように砕いてくれたのぉ!だからねぇ、だんなりゅう大好き!!』
大好き。きょわちゃんはそう言った。
聞いた時に俺も思った。俺も、俺の為に何かをしてくれようとするかなえの気持ちが嬉しいと。
かなえも、そうなのか?俺が……かなえの為に、木の実を削いだ事が……嬉しいのか?
喜んでくれている?俺がした事が、かなえの喜びになっているのか?
固まる体とは裏腹に、心は激しく暴れた。まるで、そんなの、それじゃあ……かなえは、俺を
――愛してるみたいじゃないか。
俺のように。
気付くと走馬灯のようにかなえの言葉が蘇った。
かなえは俺にスキと言った。これは愛と同じなのか?スキは、愛?
かなえは俺を見つめてスキと鳴き、また官能的な匂いを放つ。
もしかして、かなえは俺に求愛してるのか?俺に、発情してる?ラーグリバットの俺に?
考えるとぞわりと鳥肌が立ち体が熱くて堪らなくなった。
もしそうであっても、そうでなくとも……俺は……俺の中では、既に決まっている答えがあった。
かなえをつがいにしたい。
それだけだった。




