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1人ぼっちの絶滅危惧種 第5話

やっぱりかなえと居るのは楽しい。心地いい。温かくなる。


龍もきっと、同じことを思ったのだろう。知れば離れたくなくなる、危険な生き物だ。



かなえはまた「カエル」と鳴き出した。俺を見つけると鳴かなくなるけれど、俺は知ってる。かなえの「カエル」は、ここじゃない。



外から巣に入るとオカエリ。入る前はカエル。かなえが教えてくれた、かなえの言葉。



どこにかえる?巣の中でかえると呟くかなえは、どこに入ろうとしてる?



ここじゃない。俺の巣は、かなえのかえるじゃない。



胸が締め付けられるように痛い。


なんで俺の巣じゃないんだろう。かなえは、ずっとそこに行きたがっている。どうして俺じゃ、かなえのかえるになれない?



……分かってる。それは俺が、にんげんじゃないから。ラーグリバットだから……。



……こんなに誇り高いラーグリバットに生まれた事を恨んだことは無い。俺がにんげんだったなら、かなえはずっと一緒に居てくれたかも知れないのに。



俺がかなえと正しい発音で呼ぶと、かなえは喜びの声を上げた。

俺はそんなかなえを抱き上げ振り回しながら、じくじくと痛む胸の痛みを認識しないように焦ったようなかなえの顔だけを見ていた。






――――…………






かなえを置いて1人かなえの為に葉っぱを探す。細長い葉っぱと先の尖った葉っぱが欲しいらしい。


その葉には心当たりがあり、すぐに葉は見つかった。だが、かなえの所に向かう途中で見知った影が上空から2匹、俺の前に舞い降り俺は歩みを止めた。



「……ラーグリバット……元気か…」


「ああ、かなえが帰ってきたからな」



つがいで俺の前に降り立った龍は、俺に挨拶をしに来たらしい。ついでにメスの方はかなえに会えたらと思っていたらしいが、かなえは残念ながらかなり遠くだ。



「きょわちゃんはねっ!きょわちゃんって言うの!!」



唐突にそう俺に言ってきたメスの龍に、オスの龍は頭を抱えた。



聞けばかなえに“きょわちゃん”と名前をつけて貰ったらしい。よほど嬉しかったのか、俺に自慢げに何度も名前を連呼している。

オスの龍の反応を見るに、かなえと別れてからもずっと名前を連呼しているのだろう。



ついでに言えば、オスの龍は“だんなりゅう”と呼ばれているらしい。意味は分からないが何だかカッコ良さそうだと、顔には出さずに本人も喜んでいる。


2匹は俺にかなえが世話をしてくれていた時の話をしてくれた。



かなえは頻繁に俺の名を呼んでいたらしい。夜になると寂しそうにガウクンと鳴くのだそうだ。


それを聞くと不思議と沈んでいた心が沸き立つのを感じた。……そうか。かなえは俺に会いたがっていたのか。



体を無意識に揺らしていたのか、驚いたようにオスの龍……かなえで言えばだんなりゅうが俺を凝視した。



「…………あのメスが好きなのか?ラーグリバット……」


「好き?好きだぞ。かなえは俺の子供だ」



当たり前の事を言われて即答する。あれだけ可愛がって育ててるんだ。好きだからに決まってる。


しかしそう言うと、歯切れ悪くだんなりゅうは「いや…そうでは……うむ……」とぼそぼそ言い出した。……?何が言いたいんだ?


するとメス……きょわちゃんが、俺の顔を覗き込んで不思議そうに問う。



「あの子、がうくんのつがいじゃないのぅ?どうしてぇ?」


「どうしてって……俺はラーグリバットだぞ?それに、そういう好きではないだろう?」


「聞かれてもきょわちゃん分からないよぅ」



自分で疑問に思ってしまい、目の前の龍に聞いた。……が、あまり頭が良くないのか首を傾げるばかりだ。



好きって何だ?木の実の好きか?あれは美味いし好きだ。つがいの好きは分からないが……俺はラーグリバットだから、その好きではないだろう。



そう言うと、2匹の龍は顔を見合わせた。



「……分からないのか?ラーグリバット……つがいの、好きが」


「俺は生き残りの1匹だぞ?どこにもう1匹ラーグリバットが居る?」


「……お前が良いなら、いい」



まさか、というように目を見張るだんなりゅうに苛立つように返すと、諦めたように……少し憐れむように目を閉じて言われて、何とも言えぬ気持ちになる。



……一体何が良いというのか。聞いたら全てが崩れそうな気がして聞けなかった。



察しの悪いきょわちゃんが俺に聞こえていると気付かずに嬉しそうにつがいに耳打ちする。



「だったらぐれくんのつがいにしようよぉ!ぐれくんも喜ぶし、きょわちゃんも嬉しい~!」


「……うむ、……あのメスが……良いと言えばな……」



お互いに頬擦りをしながら仲良さげに息子とかなえの事を話す姿に、先程の言葉の意味が透けて見えた。




――お前がかなえのつがいになる気はないのか?




気付いても、俺はやっぱり何も言えず……かなえが待ってるからと、それだけ言って逃げるように2匹から離れた。











かなえのもとに戻ると、かなえは青い花を覗き込んでいた。



……止めろ、かなえ。それは毒だぞ。



念を送ってかなえの動きに目を光らせると、かなえはやっと自分の無謀さに気付いてくれたのか、気にしながらも触らずに花の目の前で槍を振りだした。



『……分からないのか?ラーグリバット……つがいの、好きが』



木の枝に腰掛けだんなりゅうの言葉を思い出しながら、必死に下で木に突きを食らわせているかなえを見る。…………つがいの、好き………。



もし……もしも、かなえがラーグリバットだったら………と考える。


かなえがラーグリバットだったら………俺はどうするだろう?



……嫌ではない。仲間がいるのも嬉しい。……でも、別にラーグリバットである必要も無いと思う。



ラーグリバットだったなら、きっとかなえは俺と同じくらい強くて……頑丈で……長い時を生きて…………そして?


それだけでしかない。今の俺にとってのいい点は、かなえが長生きする事だ。



元のにんげんの寿命が幾つかは分からないけれど、今の俺よりも外見の年齢が上そうなかなえを見ると、どうも寿命は長くはなさそうだ。


ラーグリバットは外見の年齢も変えられる。俺は姉が死んだ時の年齢で止めたので、かなえがその歳に近い見た目という事は今で17、18くらいだろう。


もしその成長速度だとすると、かなえは俺よりも早く死ぬという事になる。



…………それは……嫌だなぁ…………。



強くなくていい。俺が守れば良いから。頑丈でなくていい。俺が怪我なんてさせないから。

………でも、それで?俺はどこまでかなえを守ってやれる?



結局俺はつがいではない。それはつがいの仕事だ。他種族がしゃしゃり出てする事じゃない。



つがいになれば………俺は、かなえとずっと一緒に居れる。かなえを守ってあげられる。



――その瞬間、ああ……と声を出して俺は気付いてしまった。



ああ……なんだ、そうか。きっと、俺は……もっと前からきっと……かなえを……




愛している。




その答えが出ると同時に、グリーグーモがかなえの前に立ちふさがった――……






――――…………






グリーグーモを倒すと、かなえに木の上で見ていた事がバレて怒られた。


こういう時だけ勘の鋭いかなえに、俺は狼狽えながらもかなえの欲しがっていた葉を渡した。

ほら、ちゃんと取りに行ってたんだよ。


でもかなえは最初から怒ってはなかったらしくてすぐに許してくれた。


そして優しく宥めるように俺の頬に手を当てて手を滑らせるかなえに、不思議と俺の体温は上がった。


心臓がドクドクとけたましく音を立て、俺の体を赤く染め上げた。



確かに、木の実に対してこんな風になったりはしない。きっと、これが姉も教えてくれなかった、メスへの愛だと思う。



弾かれるように俺から手を離したかなえを捕まえて、その小さな手を柔らかく揉む。……小さい。



ここに居る。今、俺の手の中に存在している。



認識すると、何とも言えない多幸感が膨れ上がった。俺が、かなえを独占している。その事実がとてつもなく幸せだ。



そのまま柔らかなかなえの手を堪能していると、次第にかなえの頬も赤みを帯びて気まずそうに口をモゴモゴさせていた。



……珍しい顔だ。もっと見たい。



そう思っていると無意識に喉が鳴る。それに気付いてかかなえは本能なのか足を音が出る勢いで閉じて固まった。


……あぁ……でも、かなえはまだ子供ではなかっただろうか?俺のメスを呼ぶ声に、どうして反応したんだろう?



疑問を抱いた瞬間、かなえが俺の手を握り返してきたので飛び上がってかなえの手を放す。



……危なかった。……俺はかなえに、何をしようとした……?



もしかして俺は自分でも気付いていないうちに子孫を残したいと思っていたのだろうか?

こんな幼いかなえに手を出しそうになる程に……。



その事実に気付き、思い留まった事に心底安心して……そしてどこか残念なような気持ちになりながら、かなえに花の毒性を伝えた。



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