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1人ぼっちの絶滅危惧種 第1話



生まれてすぐ見た物は……親の死体と、年老いた姉だった。





母は、俺を生みすぐに死に……父は、母の後を追って死んだ。


残された年の離れた姉が俺を育ててくれたが、ある日姉は自らの手で命を絶った。



『……ごめんね。でも私、つがいが欲しかったの。……もう、私の願いも、叶わないなら……生きてたくないの。……勝手な姉さんでごめんね。ごめん、ごめんなさい……っ』



悲し気に笑った顔は、長く生きた俺にはもう思い出せない。……ただ…優しく、温かな姉だった。



その言葉を最後に、姉は居なくなった。……きっと、世界中どこを探しても、姉はもう居ない。


姉は俺にこの森での生き方だけを教えて消えた。俺には生きろと教えたのに、姉はその教えと反対に死んだ。


悲しくは無かった。死ねば何も思わなくなるし、姉は最後に幸せを感じたのだと思う。



姉は言った。つがいが欲しいと。



姉はラーグリバットのつがいが欲しかったそうだ。……でも、姉が生まれた時には、もう他のラーグリバットは両親しか居なかったらしい。



俺は今でもつがいが欲しいとは思わない。

……だって、そもそも愛が何かさえ、俺には分からないから。



つがいであった両親すらろくに知らない俺が食べ物の好きとは違うのか?と聞いても、姉は曖昧に笑うだけだ。答えを最後までくれなかった。



怠惰な日々に時間だけが過ぎてゆく。


でも、そんな日々を過ごすと、つがいは要らないけれど姉の気持ちが少しだけ分かった。



確かに1人は寂しい。言葉は通じても、心は誰とも通じない。



1匹だけ龍のオスと仲良くなったが、その龍もつがいを見つけてから疎遠になった。俺ではなく、そのつがいを愛しているからだろうと、よく知りもしない愛を当てはめた。


あの龍を俺は気に入っている。でも、それは愛ではないのだろうか?


姉も気に入っていたが、それは姉の言う愛とは違うという。……俺にはもう、意味を教えてくれる仲間は居ない。



洞窟の奥でひっそりと横たわる。そんな俺に声をかける者も居ない。


それが寂しいと言えば寂しい。問いに誰も答えないのは胸が空っぽになるみたいな虚無を覚える。



何十、何百と歳を重ねると、そんな気持ちも薄れてきた。


でも、俺は一体何の為に生きているのかと考える事が増えて、俺は今日も眠れない。





――――…………





生まれてから400を超えた辺りからだろうか?段々とラーグリバットに似た生物が減っていった。



元々森の外で暮らしていたらしいその生物は、手に鋭利な刃物や盾を持ってこの森を侵略しようとしていた。


だがそんな生物が入ってきた所で、この森では食べ物が歩いて来た程度の認識でしかない。すぐに皆食われて数を減らした。



俺はその生物がラーグリバットに似ているから、どんなに腹が減っても食わなかった。一族を手にかけているようで、死体を見るのすら嫌だった。


だが俺が何もしなくてもすぐにその生物は絶滅した。きっとこの森で生まれた精霊の怒りを買ったのだろう。



その生物が消えた日から森は、凄く静かになった。


…それが良い事なのか悪い事なのかは、分からないけれど。



……静かになると尚更自分の存在意義について考えてしまう。



姉はきっと、子孫を残したかったのだと思う。俺を育てたのも、きっとそれが理由だ。



両親を見て育った姉は俺と違って、つがいを持つことに憧れを抱いていたのだと思う。

寄り添い合う父と母に、つがいを得られない姉は何を思ったのだろう。



俺は今日もただ洞窟で獲物を狩る準備をする。自分が生きる為に、今日も獲物を狩る。ただ、それだけだ。


そして俺は、このまま一族最後の生き残りとして天寿を全うし、ラーグリバットの名と共に消えるのだろう。


姉と同じく、誰に看取られることも無く……





――――…………





いつものようにリリーティンクを狩りに来た。



リリーティンクもラーグリバットと似た体をしているが、ラーグリバットと違って弱く、邪悪だ。


しかし水に漬け込めば栄養価の高い飲み物となるので、この森では欠かせない大切な栄養源だ。



…それにしても今日はリリーティンクが騒がしい。どうやら上等な獲物が縄張りに入り込んだようだ。



リリーティンクの天敵は俺、ラーグリバットなので、俺が死んだ後はリリーティンクがこの森を占拠するのだろうと思うと、この森に長く住んでいる友人の龍が可哀想になってくる。



リリーティンクは常識が分からないので、龍の子であろうと何だろうと平気で食おうとして来る。

なのでこの森ではかなりの嫌われ者だ。



そんなリリーティンクの数を減らすのも俺の仕事だが、こんなに騒がしく暴れられては罠を張っても掛からなそうだ。


俺は諦めて罠を手に持ち直接捕まえる為に、あいつらが獲物を追い詰める時によく使う行き止まりの崖に立つ木に登った。








俺は驚愕に目を見開いた。



俺の立つ木の根元でラーグリバットに似た生物が鳴いている。



変な物を纏っているけど、あれは何かのメスだ。メスは何かに怯えるように木に縋りついて目から水を流している。


何に怯えているのかと目をメスの背後に映すと、涎を垂らしたリリーティンクが数匹集まって、今にもこのメスに食い掛からんと口を開け手を伸ばしていた。



……ラーグリバットのメスではない。……ラーグリバットでは…………だけど…………。



恐怖に目を固く瞑って大声で鳴き声を上げるメスを見て、不意に忘れたはずの姉を思い出し、手に持っていた網をリリーティンクに投げつけた。


リリーティンクは単純なので目の前の獲物しか見えていない。故に俺の網に全てのリリーティンクが収まり、リリーティンクは驚き暴れた。



木の上から震えるメスを確認する。メスは生きる事を諦めているのか木に顔を引っ付けたまま逃げようともしない。


だがおかしいとやっと気付いたのか、メスはゆっくり振り返ってリリーティンクに視線を合わせた。



……その時、メスが何か鳴き声を発したとともに今まで嗅いだことのない匂いがした。



仲間の匂いではない。だからと言ってリリーティンクですらないこの匂いは……一体何の生き物の匂いだろうか?


少し前に絶滅した生き物に似た匂いをしていたけれど、それとは違う独特の美味そうな匂いが漂う。何の生き物だ?これは……。



「お前、どこから来た?」



俺が頭上から問いかけると、あらぬ方を向いてキョロキョロと見渡すメス。気配も感じ取れないらしい。


どこから来たのか分からないが、よくこの森に入れたものだ。碌な武器も持っていないように見える。


迷い込むならもっと良い所に迷い込めよ、と呆れながら木から飛び降りる。



「邪魔だぞ、メス!早くどっか行け!!」



俺がそう言いながら地面に着地するとメスは大声で鳴いた。


リリーティンクは俺を見て明らかに警戒して不快音を立てて威嚇している。


耳がキンキンして、それより後ろのメスはラーグリバットではないので大丈夫だろうかと振り返ると、メスは顔を覆ってブルブルと震えていた。


なので耳を塞げと触ろうとすると、絶叫した。そしてこけた。



………………何だ、この生き物……。



くしゃくしゃの顔で叫んで、転んだ拍子に手が外れて俺を視界に映したメスは、叫ぶのを止めて呆然とした顔で俺を見つめ鳴いた。



「エ?」


「何だ?」



メスは分からない鳴き声で何か言った。



何か言うのかと思い先の言葉を待ったが……メスはそのまま黙っているので、放っておいてリリーティンクを持ち帰る事にした。メスはこの森から出ればそこそこなら生きていけるだろう。



置いて帰ろうと背を向けると、俺を追いかけようとしたのか、物音がして俺が振り返ると、また転んでいるメス。足腰が弱いのだろうか?


起こしてやると、その後恥ずかしそうに俯いてボソボソ鳴いているので適当に返事をした。


すると感極まったようにメスは目から水を垂らし始めた。


何だろうか?助けたお礼の飲み物という事だろうか?



「ん?なんだそれ?くれるのか」



この生き物が何か分からないけれど、こんなに美味しそうな匂いがするなら美味しいのだろうとありがたく頂いた。……けれど、申し訳ないがしょっぱくて美味しくはなかった。


思わず顔に出してしまったが、罠だったのかメスは笑っていた。



笑うメスが分からなくて、メスを見ながら考える。


……やはり同じ種族ではない。何なんだ、この変な生き物は。



どこから来たのかも、メスが何なのかも、メスの言葉が分からなければ意味が無いと気付き、俺は空が暮れだした事もあって帰る為に再びメスに背を向けた。


きっと、メスもこの森では生きていけないと気付いた事だろう。流石に同じような見た目の生き物が死んでいるのは良い気はしない。なぜ住処から出てきたのかは分からないが、元の場所に帰るべきだろう。


リリーティンクが暴れる入れ物をゴンっと叩いてそう考えていると、メスは慌てたように俺の前に飛び出した。


そして俺と喋ろうとしているのか訳の分からない言葉で俺に懸命に話しかける。



「…………ん?悪いけど、俺は分からないぞ」



一応理解しようとはしてみたが、やっぱり分からなかった。かなり森から離れた所の出身なのだろう。


メスは困ったように首を傾ける。俺も傾けるが、どうやったって答えは出ないと思う。


けれどメスは不意に動きを付けて再度俺に説明し始めた。



今度は動きが付いていて何とか理解出来た。メスはどうやら俺の巣を聞いているらしい。そしてそこに住まわせて欲しいと言ってきた。


確かにこのメスはまだ子供だ。この森にどうやって入ったのかは分からないけれど、このメスがこのまま1人で森をうろついた所ですぐ食われるだろう。大人になるまで面倒を見て欲しいのかも知れない。



俺はメス……もといにんげんを大人になるまで育ててやる事にした。どうせ暇をしていたのだから、子供を育てるのも悪くはないだろう。



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