第55話
「ピピピピピピピピピピ」
「どりゃあああっ!!!明日のウインナーを1匹捕らえたぞ!!」
早朝、恒例行事であるムカデ狩りを行い、私の朝はやって来た。
意気揚々と捕らえたムカデの頭を前もってナイフで切り落とし、私は清々しい気持ちで顔を洗った。
「はあぁ……!私、生きてる!!」
水が体に染みる時期になり、私は最近この夏用セーラー服を長袖に拡張する計画を練っている。
あれだけ気持ち良い冷たさだった水に、体が身震いを起こし始めた事で私はやっと冬を意識した。
そう言えば最近、あの花の化け物を大量に見かけるようになったので、アレを使って袖を作ったら暖かのではないだろうか?
「かなえー」
そうだ、あれをくっ付けてスカートなんていう手もあるな!オシャレな女ターザンの出来上がりだ!!
私はわくわくとこれからの生活を豊かに…
「かなえっ!かなえっ!!」
……そして……あれ、あれだよあれ………あれ…ほらあったじゃん、あれ……
「うー!!がおうっ!!!」
「ぎいっ!?ぎゃあああっ!!!やめたまえっ!!やめたまえガウ君!!私が悪かった!!!」
明らかに私を呼んでいるガウ君を故意的に無視して考え事を捻りだしていると、痺れを切らしたガウ君が私のスカートを思いきり上に引き上げ、私は品の無い悲鳴を上げた!!
やめて!下は葉っぱ一丁なの!!
そう謝り目を合わせると、やっとか、という風にため息を吐いてガウ君は私におはようを言った。
………いやね?無視したくてしたんじゃないんだよ?たださ……ああいう会話の後って、何を話せばいいの?
幸か不幸か私はバスが去った後に意識を飛ばしたのでまだまだ純真無垢な叶ちゃんだ。寝ている間に何かをされた様子もない。
……だけど、起きて早々一体どういう顔で過ごせばいいのか分からないよ私!!と再び林檎の如く顔を燃やして手で顔を覆う。
「うー?かなえー?がうっ」
「ひいっ!!顔を守らせる事すらさせて貰えない!!」
運転手の言っていた通り力が強いガウ君の手で顔を守っていた手を剥がされて、私の病気かと思う程赤いであろう顔はガウ君の前に晒された。
そしてそれをじっと眺めるガウ君に、私の顔はさらに熱を増す。……あぁ……あるよ、これ……二度目の気絶…。
正直自分がここまで面倒くさい女だとは思わなかった。私だったら即別れている。ガウ君には本当に申し訳ない……。
罪の意識に苛まれ項垂れる。
意外とガウ君がかなり年上だという事は昨日の運転手の答え合わせで理解したが、それにしたって性欲も溜まるだろう。私は詳しいんだ。
前に2股がバレたお兄ちゃんにどうして2股するのか聞いたら「俺の性欲は1人では止まらない」とか言ってたから確実な筋からの情報だ。男は我慢がきかない。
だからという訳ではないが流石にずっとこのままというのもいけないだろう。私だってガウ君が好きだし、興味が無い訳ではない!
……ただ、その……こ、こういう時って、どうやってあの、リード?すればいいかとか、わ、分かんないんですよ……!!誰か教えて!!沙織様!!!
ガウ君を目の前に目を泳がせていると、何かを考えるように私の様子を観察していたガウ君は、不意にひらめいたように洞窟の奥へと歩いて行った。……あれ?もしかして、もう良くなった感じですか?
それはそれで何だか残念……と天邪鬼な事を思い落ち込む。何だかチャンスを逃した感じだ。
しょんぼりとムカデを指で突く。足がまだ微妙に動いていて気持ちが悪い。
だが私がそれに飽きる前にガウ君が何かを持って私のもとへ歩いて来た。
「がお!」
そう威勢よく鳴いたガウ君は、私に1枚の白い貝殻のような物を手渡した。
「……あっ、これってきょわちゃんの鱗?」
そう、渡されたのは私がせっせと貯めていたきょわちゃんの鱗だった。
きっと薬になるかと思うレアなそれは、前回ガウ君が飲まなかったので効果の程は分からないままだ。
しかし勿体ないのでもっと貯めて鎧にでもしてみようと考えている。
掌に収まるそれを、ガウ君は私の手の上で2枚に割った。
呆気なく割れた鱗はキラキラと粉を落として幻想的に輝く。どうやら貯めていても鎧とかには出来なさそうな守備力だったようだ。しょんぼり。
肩を落とす私の手からガウ君が半分を掴み上げ、キョトンとする私の目の前で同じ動作をさせるようにゆっくりと口を開く。
私はそれを真似て同じように口を開けると、次の瞬間、ガウ君は鱗を自分の口に放り投げ噛み砕き始めた!
「ええっ!食べ物だったのっ!?龍の鱗!!」
急いでガウ君と同じようにガリガリと食べる。……あ、甘い!
まるでお菓子のような甘いひんやりした食感に自然と頬が上がった。妖精液無き今、これが私の甘味だ…!!
舌の上で溶けるような優しい感覚がとても楽しい。まるでラムネを食べているようだ。
そうして溶かして楽しんでいると、どんどんと体が暖かくなっているのに気付いた。
「あ……何か温かいね。これも花弁みたいな作用があるの…………えっ?」
喋っている途中で視界が揺らいだ。
気付けば私はガウ君に押し倒されて天井とガウ君の顔を見ていた。
「えっ!?どど、どうしたの突然……!!り、理解が……っはあっ……はぁっ……!?」
な、なんだこれえええぇぇっっ!!??
途中で息が切れ始めた!息が苦しい訳でもないのに息が上がって体温が高くなるのを感じ、私は自分で自分に驚き思わず左右を確認した。
するとガウ君が暴れまわる私の顔を押さえるように固定して顔を近づけた。
「ぐるる……」
「っ…!!?」
そして唇に当たる湿った温かい感覚に限界まで目を見開いた!!
こ、これは……!!!漫画やドラマで見た…………キス!!不純異性交遊!!!
前の掠めただけの物とは違い、明らかに唇同士がくっつくそれに、私は背中から飛び上がった。
だが、飛び上がった所で上はガウ君なので逃げる事も出来ず、為すすべなく私は意外に柔らかいガウ君の唇の感触に悶えた。
「……はあっ……かなえ……」
唇を離されたのはしばらく経ってからだった。
正直どれだけの間キスしていたのかは分からない。素人の体感では長く感じていると思うので、思いのほか短かったのかも知れない。
いやいやどゆこと!?何でいきなりそういう流れに!?
いや、いつかはって思ってたけど!まさかの昨日の今日で!?猶予はっ!?
恋愛において猶予なんてものが存在するはずもないが、私はそれに縋らなければ自我を保てない。全く知らない自分になりそうで怖いのだ。
それに……何か、温かいを通り越して熱くなってきた……!
そう、何だか体が火照るのだ。熱が出た時のようにぼんやりとした思考に焦りが滲む。
そこで私はやっとピンときた。……ああ、しかし、気付いた所で遅かった。
舌なめずりをして私を獲物を見るような目で見つめるガウ君に腰が震え、頭が痺れる感覚に襲われた。
そしてガウ君の顔が今度は私の首に降りてきて、私は悲鳴のように怒声を飛ばした。
「きょわちゃんのバカヤロオオオオッッ!!!世話した給料が媚薬って、バカにしてんのかあああああぁぁっっ!!!!」
……そして私の純潔は異世界で散った…………とても開放的な……洞窟で…………。




