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第54話



「はあっ、はあっ…お前ら……最低だな…」


「言い逃げのが最低ですよ。大人としてどうなんですか?いたいけな女の子をからかって…ねー?ガウ君ー?」


「うー?えー?かなえー?」



ねぇー?と顔を見合わせて鏡のようにお互い顔を傾けると運転手が舌打ちをした。やだ、品が無ーい!



「……お前、ラーグリバットがどんな生き物か、暮らしてて分かんなかったのか?」


「えっ?…まぁ、強いですよね。あと向上心があると思います。あと、ガウ君限定かは知りませんけど、かっこいいですよね!」


「それはお前の好みだろーが!お前の4倍の体格のラーグリバットだって居んだぞ!!」



てれてれと頬を染めてガウ君の話をすると怒鳴られて私は小さくなった。だって、他のラーグ…リバット?とかって、見た事無いし…。



「いいか!?ラーグリバットはバケモンみたいに強えぇ!お前なんて本気出しゃあデコピンで死ぬ!しかも体が丈夫ときた!!この森どころか世界最強の力を持つ種族がラーグリバットだ!繁殖出れば間違いなくこの世界はラーグリバットの天下になる!そんな完全無欠のラーグリバットが初めて他種族をつがいに選んだ!それがお前だよ!!クソ貧乳!!!」


「………はい…?」



まくし立てられてポカンと口を開けて硬直する。



…え…、い、言ってる意味が分かんない…!まずつがいって、そんなのいつなるの!?ふっ、ふふふふ夫婦って事でしょっ!!?がが、がガウ君とっっ!!?私いっっ!!??



いつの間にか嫁入りしていたらしい事実に挙動不審に体をばたつかせる私を、運転手はわなわなと震えて「大人しくしやがれっ!!」と怒鳴りつけてくる。酷い!



「ラーグリバットはなぁ、発情期が無ぇんだよ!!しかもそのほぼがつがいを作らずに死ぬ!!何でだか分かるかっ!?自分の能力を受け継がせるのに愛してない異性と生殖行為を繁栄の為にしたがらねぇんだよ!!そいつらは!!!ムダにピュアで絶滅したバカな種族なんだよっっ!!」


「ああ、あああ、あ、あいあい、あばばばば……!!」


「で、やっとこさラーグリバット同士でつがいになっても、ラーグリバット同士だと出来て子供は2匹までだ!!寿命が千年以上あるのにだぞっ!?で、2匹産むとメスは体力の限界で死んでオスは後を追って死ぬ!となるとそいつは俺が最後のラーグリバットのつがいだと思ってた2匹から奇跡的に生まれた兄弟と歳のかなり離れた最後のラーグリバットだ!!分かるか叶っ!?俺の悲しみがっっ!!」


「あばば…!」


「しかも他種族を嫌悪するラーグリバットは絶対に他種族をつがいにはしない!!前に連れてきた人間のオスがメスのラーグリバットに殴り殺される事だってあった!!それなのにっ!何でお前みたいなポンコツブス貧乳をつがいに選んだんだよおおっ!!!ラーグリバットオォォッッ!!!」



その言葉を最後に運転手は泣き崩れた。



運転手は私を罵倒しながらもそれはそれは丁寧にガウ君について教えてくれたが、どうやらそのガウ君の相手が私なのが気に食わないようだ。



おうおうと泣き続ける運転手を無視して、隣で私の肩に頬を擦り付けているガウ君を凝視し私は困惑に揺れた。



……え?ガウ君、何か分かんないけど、私を選んでくれたの?貧乳なのに?



言葉にせずに目で問いかけるとガウ君は優しく微笑んで「がおう、かなえ…ぐるる…」と言ってくれた。


最近分かったが、このぐるる…は、あ、ああ、あいあ愛してる……という、意味にもなるらしい…!!運転手の通訳を元にするとねっ!?



運転手を言い訳にでもだって、と悶々と1人葛藤していると運転手の言葉がガウ君にも通じていたからか、私の問いに答える為かガウ君は、甘えるように私の首筋を舐めてきた。



「ぎゃっ!?があっ!?ガウ君!!?今それは意味が違ってくるから止めよう!!あらぬ誤解を受けてしまう!!!や、やぶさかではないけれども!!けれども!!!」



ガウ君はきっと好意を示す為に毛繕いをしてくれているのだと思うが、今はいけない!!ほらっ!運転手も居るから!!洞窟に帰ってからにしよう!!



「なぁにが止めようだ。お前も期待してんじゃねぇか」


「うっ!!ううう煩いですねぇっ!?黙って泣いてて下さいよ!!!」



指摘されて逆切れする。そうともさ、期待して何が悪い!!モテなかった学生生活の反動を舐めるなよ!!



いつの間にか起き上がった運転手は私達のやり取りを動画でも視聴するかのように流し見する。キイイッ!!悔しい!視聴料を払え!!


そしてまるで無反応のガウ君を面白くなさそうに一瞥すると、運転手はバスに乗り込んだ。…あ、もう帰るのか……。



「……もう、行くんですね」


「あぁ、どうせお前も乗らねぇしな。…っていうか、そもそも帰る気だったとしても帰れなかったか」


「えっ?どういう事ですかっ!?」



思わぬ事実にガウ君を引っぺがして入り口付近の運転手に詰め寄る。いや、帰らないけど、最初から帰れなかったってどういう事!?



私が近寄ったのが気配で分かったのか、運転手はニタァと音が付きそうな嫌な笑顔で振り返り口を開いた。



「お前のそれ、首のやつ。それがつがいの証だ。それを付けられてたら元の世界には二度と帰れねぇんだよ。この世界の住人って事になるからな。前の龍のつがいのメスもそれで帰れなかったしなぁ。あーあ、可哀想になぁ?」



可哀想、と歌いながら私の首を人差し指で撫でる運転手に背筋をぞわりと悪寒が駆け抜けた。


その瞬間真顔でガウ君を振り返る。するとガウ君は光の速さでそっぽを向いて口を真一文字に結んだ。



「……ガウ君…?」


「………」


「ひゃっひゃっひゃ!!知らなかったのか!付けられてたの!!お前の苦渋の決断なんて最初から関係なかったんだよっ!もうそれを付けられた時から帰れねぇって決まってんの!!」

「ガウ君っっ!!!」


「………」


「ひゃっははははは!!!」



お腹を抱えて笑い転げる運転手と、ガウ君に怒声を飛ばす私と、そっぽを向いて完全無視を決め込むガウ君。

奇妙な空間が出来上がり、森には上機嫌な運転手の笑い声だけが最後まで響いた。








「ひいっ、ひいっ…もうお叱りは良いのかよ?ひひ…」


「はい、あなたが帰ってからゆっくりと話そうと思うので」



運転手の見世物には決してならない。と決意を滲ませ不敵に笑うと、運転手に尚更笑われた。殺意が無い訳ではないが人質の手紙を預けているのでここは我慢だ、叶!!



「……ふぅ…それより、手紙お願いしますよ。信用してますからね」


「おうおう、任せとけよ!悪いようにはしねぇよ!」



胡散臭い…。



とは思ったが口には出さずに微笑んで見送る。バスも、これが見納めだろう。


最後に内装を確かめようかと思ったけれど、逆に未練が出来そうなのでやめた。

もうこれに乗って学校に行くことも、バイトに行くことも無いと考えると…何となく泣きそうになった。



「ぐるる……ありがと、かなえ……」



感傷に浸ってた私に気付いたのか、そっと包み込むようにガウ君が背後からもたれながら私を抱きしめた。


私はその温かさに幸福感と安心感を感じて、私を抱きしめるガウ君の手を抱きしめた。



「私の方こそ、ありがとう。ガウ君」



選んでくれて。私を、つがいにしてくれて。



いろいろな想いを乗せて呟いた言葉はガウ君の耳に上手く届いたのか、荒い息遣いと共に湿った舌が私の頬を撫でた。きっと、人間で言う所の頬にキスする感覚なんだと思う。



正直最初は唾液が乾いて臭くなるだろうとか考えたが、もう既に思わなくなった所を考えると、私は相当この世界に馴染んでしまったようだ。


私もバスが行った後にガウ君にやろうかとサプライズを考えていると、いきなり運転手が窓から顔を出して手をメガホンのようにして大声で言った。



「おーい叶ーっ!!!ラーグリバットが頬をピンポイントで舐めんのは子作りしようっつー合図だぞぉー!!!よかったなぁー!!!」



「嘘でしょっ!?早いわっっ!!!!嫌じゃないけど早いわっ!!!?付き合いたてとかそういう雰囲気大事にしようよっ!!?えっ、ちょっ…!!待てええっ!!言い逃げすんなあああっ!!!」



私の言葉も空しく、バスと運転手はエンジン音と高笑いを響かせ消えていった。



それを見送る私…………えっ、ちょっ、この後本当にどうするの!?まっ、まさか本当にここでっ!?ここでかっ!!?



顔から煙が出そうな程に紅潮した私の頬を永遠に舐め続けるガウ君に、運転手の言葉が現実味を帯び、元から赤くなっていた顔がさらに赤くなるのを感じる。


だがそんな私を心配するそぶりも無く、ただ吐息まじりに響く唸り声を上げひたすら頬を舐めて合図を出すガウ君。



………こっ、こっ……子づ………っ……!!



――ビタンッッ!!!



「!?かっ、かなえっ?かなええっっ!!」



言っても女子高生。しかも恋愛経験が全くない私に、そんなリア充な行為が目前に迫って耐えられる訳がなく……運転手の長い理解し難い話のダメージも相まって、私は戦を前にして意識を失った。




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