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第50話

翌朝、起きて1番にグレ君の様子を見る為私は洞窟の外へと向かった。



奇妙な程静まり返った外に出来た大きなクレーターは旦那龍の打撃の跡だ。すり鉢状の地面が衝撃の強さを物語り、私は恐怖に身震いした。



「……死んだの?……」



もはや死以外の予測が出来ない程ヤバい抉れ方をしていてザッと青ざめる。だが中央を見ても死体は無かったのでそれは杞憂に終わり、私は止めていた息を大きく吐き出しだ。



「はああああっ……怖かったああぁ……!!死んでなくて良かったー!そりゃ親が殺す訳ないよね!あービビったぁー!!ははは!」



己の最低な妄想をごまかすようにあえて大声で笑う。その大声で起きたのか、目を擦ってガウ君が洞窟から出てくる。



「うー…かなえ……おあよう…」


「あっ、起こしちゃった?ごめんね。おはよう!」



声を小さくして挨拶すると、ガウ君はにっこり笑って私を抱えて洞窟に戻った。…………うん?



「あ、えっ…え?また洞窟?あ、あの、もう少し太陽を浴びたいというか……新鮮な空気を吸いたいというか……」



もにょもにょと意見をするがガウ君は「がうー」と鳴いたままガン無視した。絶対に私を外に出さないという確固たる意志を感じる。



「ええ……ちょっと、2日の軟禁は厳禁ですよ……軟禁……厳禁……あ、何かラップに出来そう……」



そのままラップの歌詞を考えていると、いつの間にか洞窟の最深部に下ろされてしまった。…はっ!?光が届かない!!


ラップを考えようと考えなかろうと、力で絶対ガウ君に勝てる訳は無いが己のバカさ加減に苛立ち頭を壁に打ち付ける。

この頭がっ!!この頭が全部悪い!!



だがそれが功を奏したのか、明らかに様子のおかしい私を心配してガウ君はすぐに日の光の下に戻してくれた。何だか分からないけど良かった!!





ルンルンとピクニック気分で森を散策する。今日は新しい食べ物の発見と盾とかに出来そうな頑丈な素材探しが主な行動内容だ。


何気に満喫してるなー、と他人事のように思いながら食料ノートを片手にガウ君を連れて苔むした道を歩く。



「…ねぇねぇガウ君、この辺に新しい木の実とか………って、どしたの?」



振り返り問おうとすると、ガウ君が私を見て微笑んでいた。一体何が楽しかったのだろうか?


よく見ると、私というより首?首を見ている。


何かついているのかと首を擦るように触るが、あるのは噛まれた痕だけだった。……ちょっとガウ君にイラっとした。


鏡は無いので何か噛まれ痕がおかしな形になってても確認出来ないのが恨めしい。

スマホのカメラ機能は使えなくなってるし、画面の反射ではよく見えなかったし終わった。



実はスマホのカメラだけでなく他のアプリも軒並み起動しなくなっているのだ。

通話アプリも起動しないが家族も私もメール派だったのが幸いして何とか最新のメールだけは見れている状況だ。



…まぁ、脱線してしまったが、つまりはガウ君が私の首を見て笑う意味が分からないという事だ。何だかちょっと不気味である。



「何なのっ!?言いたい事があるなら言ってよ!!太短いって思ってんでしょっ!!目が言ってるよ目が!!」



指をさして断言した私に、ガウ君は狼狽えだした。意味は分かっていないだろうが私の怒りは伝わったらしくてごめん、ごめんと健気に謝る。



「みっ。見るなって言ってるんじゃ、ないんだからね!?見ても良いけどっ、バカにしたら許さないからって事だからねっ!?」



何だかツンデレな発言になってしまったのは許して欲しい。だって好きな人にあんな風に見られたら誰だってこうなる。



恋って怖い!貧乳をツンデレにしてしまうんだ…!!



恐れ慄き両腕を擦る。もう私は結菜をバカに出来ないかも知れない可能性に気付いたからだ。まるで結菜と同類ではないか!ああ、怖い!!



私は恋をしても結菜のようなお花畑にならない自信があったのに…!……いや、ここに来て薄々分かってましたよ。私が口先だけだって事ぐらい。


だって誰が異世界に行くかも知れないと思って本気で遺書残したり身辺整理したりするよ?やったら自殺を疑われるわ。


そうでなくとも自炊はともかく火のおこし方から遡って1人で出来るようになろうとする現代人は居ないと思う。居たらそれはたまにニュースで見かける変わり者の類だ。



よって、やっぱり私悪くない!!今でこそ役立たずだけど、現代から考えれば普通レベルだと思うの!!ねっ!ガウ君!!



…と同意を求めてガウ君に信頼の視線で熱心に見つめてみる。べっ、別に偉いって言われたい訳じゃ、ないんだけどね!?



するとガウ君が真っすぐと私に近付いてきたと思えば、なんと熱い抱擁を交わしてくれたではないか!!

やだー!叶愛されてるぅー!!



若い男の肌を生で感じ、その逞しい筋肉に守られるように包まれて興奮しない女は女ではないと私は思う。たとえそれが年下の男でもな!!


しかも私からでなくガウ君から!これはセクハラだが私は君を訴えたりはしない!安心して抱きしめてくれたまえっ!



なかなか現代では巡り合えぬであろうシチュエーションに、私の興奮は最高潮に高まった!


最悪このまま誰の腕に抱かれることも無く一生を終える可能性だってある程、現代の恋愛は戦国時代まっしぐらだ。足軽の私は間違いなく序盤で死ぬ。



まあ誰も見てないし、良いよね?と尻の硬さを確かめようかと震える手を伸ばした瞬間、私は固まった。



「……っ!!??」


「ぐるる……」



…くっ……首を、舐めているっ……!!!?



ざらざらとした温かいそれが首筋を這って体がビクリと跳ねる。えっ、ちょっと待って!私まだ17歳なのっ!18禁はいけない!!



最後の想い出(笑)とか言ってたくせにいざという時に小物に成り下がる。それが私、叶である。



しかし、ここ森!!人目は無いけれど化け物の目がある!!それに舐められているだけとはいえ外はいかがなものだろうかっ!?



冷静なのか冷静じゃないのか分からない私の内なる声にそう叱責されてハッと我に返る。そうだ、ここ外だよ!!



「ガウ君外だよっ!?ほらっ、太陽も出て……」


「ぐるる…かなえ……」



めっちゃ力が強い!!



当たり前だが私程度ではガウ君の力には敵わない。私を抱きしめ拘束するガウ君の腕を外そうと藻掻いた所で結局疲れただけに終わった。


し・か・も!!段々と舌が下がって来てる気がしないでもない!!ガウ君は野生児なので分からないかも知れないが、そこから下は乙女の領域だ!選ばれし勇者しか入れんのだ!!



ここまで来たなら受け入れろ。最後のチャンスかも知れないぞ?と囁く天使の恰好をした悪魔。もはや自分でもコイツの言う事が正しいのか分からない。



……確かに最後のチャンスな気はする。異世界の醍醐味はこれだと結菜だって言っていた。


中の中でつるぺったんな私はナンパどころか痴漢にすら遭ったことがない。言うなれば今、痴漢に遭っている状態だ。


だから力が体に入らないのかも知れない。ハッキリ言って嫌ではないからかもうちょっとこのまま…と思っている痴女な私も確かに存在している。



つまりは……お判りだろうがもう好きにして状態だ。どうせ洞窟だったら良いと言うなら、外でも変わらんだろう。……と、快楽に呑まれかけていた時。



ブオオオオオオォォォ……





クリーム色のボディに交通速度を守り穏やかな速度で私の目の前を通り過ぎる鉄の物体。……何だったか?

いや、知ってる知ってる、……えっと……そう!バスだよバス!!忘れる訳が無いわっ!あんなに毎日あれで通学だってして――………





「……バアッ!?バスだあああああっっ!!!」



どこからそんな力が湧いたのかガウ君を軽く弾き飛ばして私は眼前を走り抜けてゆくバスに並走した。



後ろからガウ君の声が聞こえるが、きっと彼の事だから付いて来てくれているだろうと一度だけ振り返り姿を確認して、絶対目をバスから離さずに走った。

…もう逃がすわけにはいかない!!



「ゼエッ…ヒイッ……まっ…待ってええっ!!っウエェッホ!?」



力の限り叫んだので気管が擦れて咳をしてしまい余計に苦しくなった。……だが、それでも私は止まる訳にはいかなかった。




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