第49話
「……また来たんかい」
「ぐぁう!!」
音の主はグレ君だった。
最初に洞窟を出たガウ君を視界に入れ興味無さそうにしていたグレ君は、その後から私が出てくると、低くなった鳴き声を上げて突進の構えを取り始めた。
…どんだけ嫌われてんの……恨みが深いよ。
…しかし、困ったな。と、私は毒槍を背中に隠してじりじりと後退る。
私はこれでもウサギの化け物も倒せるようになり、それなりに強くなったという自負はある。
だが、生まれたてを知っているグレ君に毒槍をぶち込むような野蛮な生き物ではない。
それに、幼い日の無邪気に突進を繰り返し、私の上に乗ってジャンプをしていた可愛い頃のグレ君を思い出すと、どうしても攻撃する事は出来なかった。
私はどうしようかとオロオロと逃げ道を探す。すると私の盾になるようにガウ君が私の前に立ってくれた。やだ、紳士!!
私は目をハートにせん勢いで指を組んで期待の眼差しで、私をグレ君の視界から隠すように棒立ちするガウ君の背中を見つめる。
だがその瞬間、興奮気味に尻尾を振って構えを取っていたグレ君は、構えを止めて近所迷惑な大声で鳴いた。
咄嗟に耳を押さえた私だが、あのキノコの声ですらノーガードで効果がないガウ君は全く反応を示さない。
それが尚更面白くなかったのか、グレ君はお得意の尻尾なぎ倒しを使ってガウ君を薙ぎ払った!
受け身も取らずに真正面から尻尾を受けたガウ君は私から遠く離れた大木にぶつかった。その距離ざっと600メートル!!(叶調べ)
私はその響き渡る打撃音と見えなくなったガウ君に青ざめ混乱して叫んだ。
「ガウ君っっ!!ちょっとグレ君何するのっ!!私が嫌いなら私にやりなよ!!」
正直あのガウ君がこの程度で死ぬ訳は無いという謎の確信があり、焦るよりも先に、突然こんな暴挙に出たグレ君に怒りの矛先が向いた。
私が嫌われているのは知っている。だが嫌いな人の大切な人を狙うというのはあまりにも悪質だ!やり方が汚い!!
グレ君の威力を考えると私では死ぬかも知れないレベルだが、その恐怖よりも怒りが私を奮い立たせた!今度はお父さんも呼ぶよ!!
拳を握りしめ頭から蒸気を出さん勢いで怒鳴る私に、若干シュン…と小さくなった気がしないでもないけれど、それでも許せない!ガウ君だって普通の……ちょっと…人より強い人間なんだ!怪我をしたらそりゃあ痛いだろう!グレ君は兄弟が多いのにその配慮が欠けてるよ!!
そうまくし立て言うと、小さい頃のようにきゅうきゅう泣いて反省を示すグレ君。可哀想だが許すのはガウ君の無事を確認してからだ!
「ガウくーん!返事してー!!ガウ…」
「ぐるる……」
ガウ君が飛ばされた方向に駆けながら名を呼び回っていると、途中でどっしりと肩に重さを感じた。
首を回して確認すると、いつの間にこちらに来ていたのかガウ君が私の肩に両腕を掛けて伸びるように背中に張り付いていた。
「ああっ!?ボロボロじゃんっ!!大丈夫!?」
満身創痍なのかぐったりした様子で私にもたれるガウ君に焦る。えっ!グレ君、ガウ君より強いの!?
正直どこかのヒーロー並みに死なない感じの位置にいると思っていたガウ君がこんなに弱っているのは私にかなりの衝撃を与えた。
私はガウ君の傷を確認した後、キッ!とグレ君を睨みつけて説教した。
「うちの子怪我してるじゃない!どうしてくれるのっ!!親御さんを呼びますからね!ガウ君にごめんなさいして!!」
「ぎゃうう…」
致命傷は見受けられないが、未だに私にもたれかかっているガウ君が心配でお母さん口調になる。グレ君は「でも…」とでも言うようにチラチラと私を見て不満そうにしている。
「うう……かなえぇ…」
「!ガウ君しっかり!!ほら、寝転んで!!」
「ありがと…かなえ……」
やっと意識がはっきりしたのか、私の名を呼ぶガウ君を急いで膝に寝かせた。こういう時はあまり動かしてはいけないと聞いたので、即席私の膝枕で我慢してもらう。
ガウ君はそれで落ち着いたのか、目を閉じて私のお腹の方に身を寄せる。それを優しく撫でると、今度はグレ君が暴れ始めた。
「ぎゅおっ!!ぎゅうっ!!ぎゅるるっ!!」
ドッシンドッシンと地響きを響かせてその場で足踏みする。だがガウ君が寝れないのでやめて欲しい。
「グレ君ちょっと静かに……」
「ぎゃうっ!!ぐぅあっ!!ぐうっ!!」
聞く耳持たず。私の声に余計腹を立てたのかグレ君は先程よりも強く地面を踏みしめて地響きを強めた。
すると、その衝撃でどこからか木の実が私の傍にコロコロと転がって私にぶつかった。何となくそれを手に取ると、違和感に首を傾げた。
「……見た事無い木の実だ…」
ここら辺に自生していない木の実が転がって来た事に違和感を覚えて辺りを見渡す。すると、グレ君の存在で気付かなかったが、前と同じように知らぬ内に洞窟の入り口横に木の実の山が出来ていた。
「えっ、また……って、もしかして…」
ある推測が浮上して、思わず暴れまわるグレ君に視線を投げかける。…そういえば前回も同じ時に来てたな…。
すると私が木の実を持っている事を確認した瞬間、グレ君はドヤ顔で鼻息荒く胸を張った。
「!やっぱり、これグレ君が持ってきてたの!?もしかして、前のもグレ君?」
「ぎゃおう!!」
おうよ!と声が聞こえそうな自信満々の返事が返ってきて、私の脳は解けなかった謎が解決した事でアハ体験を経験した。もやもやが晴れて少しスッキリした。
だが、それはそれ。これはこれだ。木の実がグレ君の物であろうと、ガウ君に暴力を振るって良い理由にはならない。よって私の好感度も下がったままだ。
そもそも嫌っている人に食べ物を提供するグレ君の気持ちが分からない。罠ではなかったし……お世話になった分を木の実でチャラにしてから殺すって事?
私が木の実の意味を考えて黙っていると、木の実の一件で許してもらえたと思ったのかグレ君はそのまま私とガウ君の方に飛んできた!ちょっ!今度は何する気だ!!
ガウ君だけは守らねばという使命感から、私はガウ君の頭を両手で守りお腹に埋めた。胸は無いのでガウ君も苦しくはないだろう。
だが以外にもAAの私の胸が苦しかったのかガウ君は私の頭を触って藻掻いた。
「うー……」
「え!?苦しいのっ?も、もしかしてここに来て二度目の成長期…!」
まさか異世界に来て本当に胸が大きくなるなんて…!と衝撃と喜びで固まると、藻掻いていたガウ君の手が私の首に当たり、絆創膏葉っぱを掴んで引っぺがした。
「!?いででっ!ガウ君それまだ完治してないから外したらだめでしょ!」
外気に触れた事で首がひんやりして身震いする。それと同時に守るものが失われた事により、噛まれた痕がガウ君の爪に当たり鋭い痛みを生んで軽く悲鳴を上げた。
思わず守っていたガウ君の頭を離すと、ガウ君は苦しそうな顔など一切しておらず、まるでペットのハムスターが元気に回し車で遊んでいる所を見ているような目で私の首を見ていた。
…ああ、そうだよ!ペットのマイハムスター、ピノキオ(オス)は大丈夫だろうか!?お母さんはちゃんとご飯をあげてくれているだろうか?お父さんは触ろうとして噛まれたりしていないだろうか?遺言を残さなかった事が悔やまれる!
何故か今更ペットの事を思い出し、焦燥感に駆られる。置いてきたペットが結菜よりも心配…!!
だが考えたのは数秒程度だった。何故なら、ピノキオの事を思い出した瞬間顔を上げた私の目に映ったからだ。謎の光を口に貯めて今にも発射せんとするグレ君の姿が…!!
……えっ、ビームとか打てるんですか?
「………ええっ!!!?し、死ぬ……」
ゴッシュアアアアアアアッッ!!!!
えげつない音を奏で、私の発言の終わりを待たずしてそれは放たれた。それは私が立って走り逃げる時間すら与えない速度で私に迫り、私とガウ君は次の瞬間消し炭にー……
「ふぉふぉふぉふぉ!!!」
「ぐうううやああああっ!!!」
ならなかった。
私に放たれたと同時に森を押しつぶせそうな巨体がそれを受け止めて思いきり尻尾でグレ君を地面に叩きつけたのだ。
その威力はきょわちゃんの比ではなく、本当に殺しそうな力で叩き潰されたグレ君は地中に埋もれて見えなくなった。
「……旦那龍?」
「ふぉ……」
私の呼びかけに答えるように旦那龍は振り返り一声鳴いた。
ポカーンと口を開けて状況が飲み込めない私を、ガウ君が抱えて洞窟に戻ろうとする。………って!いやいやちょちょ、ちょっと待ってよ!!
「ガウ君元気じゃんっ!!さっきまでよぼよぼだったのに!!演技!?演技なのっ!?とんでもない野生児だ!!嘘を覚えた野生児なんて最低だよっ!!」
私の暴言もどこ吹く風で素知らぬ顔をして洞窟へ歩みを進める。私は小脇に抱えられ一切の抵抗が出来なくなり、されるがまま洞窟に戻されるのであった。
………えっ!?グレ君この後どうなるのかも見せてくれないの!?殺したりしないよねっ!?
…私の嘆きも空しく、そのまま朝になるまで私が洞窟から出してもらえる事は無かった。




