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第45話



「……うー…?」


「何であそこにあったか分からないの?うーん…」



お互いに顔を見合わせ首を捻る。だがガウ君が分からない事が私に分かるはずもなく、早々にそれを切り上げ私はこの間採取したマイナイフで木の実の皮を丁寧にむいてゆく。


実は私の憧れたガウ君のナイフは、ガウ君が作った物ではなく、拾って来たものだそうだ。



私が欲しがると、ガウ君は山肌が少し禿げた場所に案内してくれた。そこには時折キラキラと太陽を反射する物が埋まっており、それを掘り返すと中から石が出てきた。



これは紛れもなく黒曜石!!私の脳が瞬時に反応した。



古くからの人類の発展を手助けしてくれていたとの噂の黒曜石!!お前だったのか!!


私は興奮をそのままに手ごろな大きさで鋭利な物を掘り当て、それを相棒として持ち帰った。



だが黒曜石のナイフでは強度が弱く、リーチも少なく接近戦となるので武器には向いていなかった。

…私が接近戦なんてしたら頭からガブリだよ…。



そして石で程よくナイフの形に成形したマイナイフは、今日も皮むき機として役に立ってくれている。今度はこれで葉っぱのドレスを作ってみようかな…!


鼻歌を歌い何気にサバイバルを謳歌している私に、ガウ君はどこか嬉しそうに目を細めて微笑む。陰気だった私が楽しそうで嬉しいのだろう。



「…ガウ君も、皮むく?」


「!うーっっ!!」



問うと、ガウ君は嬉しそうに声を上げながら私の横に座ってナイフを手に皮をむき始めた。

最近さらに大きくなってきた体を丸めて懸命に作業する姿が、何だか愛おしい。



「そういう所も、好きだよ」



私の呟きは聞こえていないのか、ずっと手元を見て無言で皮をむくガウ君に噴き出す。ガウ君はやっぱり変わらない。



私も早くむかないとガウ君に抜かされちゃう、と急いで笑いながら皮をむいた。

…痛あっ!?ダメダメ、不埒な事を考えるからだぞ!叶!!







「…どうして全部むいちゃったの?」


「…ごめん…」



私はガウ君に任せた木の実に視線を固定して言う。ガウ君は縮こまって気まずそうに視線をうろうろさせて何度もチラチラと私を見た。



…いや、怒っている訳ではないよ?でも何でかなぁ~って思ってね?



視線を向けられた木の実達はガウ君が担当した方の木の実だ。全員螺旋状の紐となり憐れにも地面でとぐろを巻いている。



「食べれない事は無いけど……何か、きしめんみたいだね…」


「ししめん?うー?」



新しい言葉に興味を持ったガウ君は、私が視線をガウ君に向けると再び縮こまった。…だから怒ってないって!!



「…もういいよ、そもそも怒ってないし。そんな事より食べようよ」


「!たべう!!かなえ、ありがとーっ!!」



喜びのあまり私を押し倒し抱き着くガウ君。ちょ!重いっ!!流石に中学生くらいの子はもう重いよ!!


分かった、分かった!とガウ君の体を押し戻そうと奮闘する。飼い主に飛びつく大型犬を宥めてる気分だ。



どう、どう、と宥めやっと落ち着いてくれたガウ君とやっと食事を始める。


地面に付いて汚かったのでガウ君のきしめんはちゃんと洗ったが、それを食事に出すとガウ君は微妙な顔をした。



「どうしたの?ガウ君がむいたやつだよ?食べれるから大丈夫!」


「…うぅ………」



納得がいっていないような声を出してきしめんを睨みつける。ガウ君は私がむいた物の方が食べ応えがあって良いと思ってくれているらしく、きしめんには手をつけていない。



「ガウ君、こっちは?」


「………」



無かったことにしたいらしい。

私が先を持ってガウ君の目の前にぶら下げると、視界に入らないように背を向けだした。


だがガウ君、自分で用意した物を粗末に扱ってはいけない。



「じゃあガウ君、私がこれ食べるからね?」


「!やえてっ!!ぐるる…!!」



威嚇をして拒否をするが、食べるのは私だ。ガウ君の心の傷を抉って申し訳ないが、私もこの世界に居る間にガウ君がむいた木の実を食べてみたい。ウィンウィンの関係ではなかろうか?



制止を無視してちゅるんと啜るように木の実を口に入れると驚愕と絶望が混ざったような顔でガウ君は手に持った木の実を落とした。



「か……かな、え…!」


「…うん、美味しいよ!元も良いからだけど、ガウ君がむいてくれたからもっと美味しい!!」



我ながらナンパ野郎のような発言をした自覚はある。石を投げるのは止めてくれ。



ガウ君もそんなナンパ発言に虚を突かれたのか瞬きを数回繰り返し、木の実を拾う事無く私の口に吸い込まれてゆくきしめんを凝視している。



「……え…えっとー…お、美味しいよ?」


「………」


「あの、え…?聞こえてる?」


「………」


「…ガウくーん…」


「………」



フリーズしている。よほどショックだったのか応答がない。



念のため脈と心音を確認……うん、生きてる。だが目の前で手を叩いても、頭をわしゃわしゃ撫でても何の反応も無い事に私は流石に慌てた。



え?えっ?そこまで!?私、ガウ君がむいた木の実食べただけだよ!?逆に何がガウ君の心に引っかかったの?



とりあえず肩を揉んでみたり、ガウ君の手でハートマークを作ったりしたけれど、どれも反応が見られなかった。


だんだんと不安になった私は心音を確かめつつ名前を呼んで頬を叩く。



「ガウ君っ!聞こえるっ!?ガウ君!!」


「………」



ダメだ。まるで魂が抜けたかのように何の反応も示さない。

焦りに焦った私は、普段なら絶対にしないであろう暴挙に出た。



「ガウ君っ!!ほらっ!!パンチラ!レアだよっ!!もういっちょ!!」



スカートをパタパタとはためかせてガウ君の反応を窺う。

この間、私に羞恥心は一切なく、ただガウ君が正気に戻らなかった時の事だけを考えてひたすら捲った。



だか私の奮闘も空しく、色気が足りなかったからなのかガウ君は身じろぎ一つせず同じ体勢で固まっている。

私はその姿に脱力して葉っぱパンツを仕舞い神に懇願した。



「ああっ!神様!!ガウ君がおかしくなってしまいました!どうすれば良いですか!?……生贄?生贄ですかっ!?」



明らかに神様でない者に生贄を要求される幻想を見た瞬間、洞窟の外で大きな地響きが鳴った。



「わわっ…!何っ今の……はっ!!神様!?」



あまりに混乱していた私は神様の君臨を信じて洞窟の外の様子を窺う為、入り口付近で足音を殺して地響きの正体を探すために辺りを見渡した。


すると、洞窟の境界付近で顔を出そうとしていた私よりも先に何かが私の顔に影を作った。



「………」



「ぐぅ…」



でっかい龍が居る!!



思いっきり近くで色は分からないけれど、こんな鳴き声の龍の知り合い、私に居ない!!皆可愛い声だった!!



私が瞬間的に後ろを向き、洞窟の奥に逃げようとすると、それに気付いた龍が私の襟を引っ張り持ち上げた!



「ぐえぇっ!!や、やめてええっっ!!ガウ君っっ!!!」



絞まる首を守る為に指を襟と首の間に挟み込み緩和する。すると完全に身動きが取れなくなり、私は縋るようにガウ君を呼んだ。


だが洞窟の奥は闇が広がっており、その声にガウ君が反応したのかは分からなかった。


それに、先程から何度も呼んでいるにも関わらず反応しなかったガウ君が反応を示すとは思えず、私は絶望に打ちひしがれた。



「やだやだ!バスで帰る以前の問題じゃん!!結局食べられて死ぬの!?私!!嘘でしょ!まだガウ君から告白の返事すら貰ってないのにっ!?」



足だけでバタバタ暴れ喚くも、龍は一向に私を放す様子は無い。それどころか、どこかに飛び立とうと体を宙に浮かせ始め私はさらに慌てた。



「やだやだっ!!また龍に攫われるの!?何度目よ私!!…あっ、結菜のクッキー!!…ぐええっ!やっぱ取れない!!」



結菜のクッキーを取ろうと襟から手を離すと首が絞まってお陀仏しそうだったので即座にやめた。だがこれでは逃げる手立てが完全になくなってしまった。武器も全部洞窟の中だ!


放心状態のガウ君を残して行くのはとても心配だ。私がいない事に気付いてパニックを起こさないだろうか?



命よりもガウ君の事を考え出した時、光の速さで緑の影が洞窟から発射され、それは龍の喉辺りにぶつかった。



「ぐげぇっっ!!」


「どわあっ!?」



むせた龍が口を大きく開けた事で私を落とした。龍はちょっとしか飛んでないとはいえかなりのデカさなので私と地面の距離はかなり遠い。


この距離を落とされるのは流石に骨折しそうだと私は受け身を取ろうとするが、思いのほか早く柔らかなものに包まれ事なきを得た。



「ガ…ガウ君…!!」


「…ぐるる…!!」



私を受けめたのはやはりガウ君だった!私は感動のあまり涙が目を覆うのを感じた。来てくれるって信じてたよ!マイヒーロー!!


だが私の声に答える事無く、ガウ君は眼前の敵に威嚇をして顔を険しく歪めている。



…でも、そんな顔もちょっと良いと思い始めている私はもう色々手遅れな気がする。何がとは言わないけど。



ポーっと見とれていると、イライラしたような龍の雄叫びが耳を劈き私は飛び上がりガウ君に身を寄せ、龍に視線を向けた。



「……えっ?…え………え!?」



驚き、指をさして慄く唇を何度もはくはくと震わせながら、私は確かめるように見知った懐かしい姿のそれの名を呼んだ。





「………グレ、君…?」


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