第42話
翌朝、私は就寝前に作ったパンツをガウ君が出かけてすぐ穿いてみた。サイズは私の直感だ。だが、信用ならないので不備があった場合はその場で直すためにガウ君が出かけるのを待っていたのだ。
私はウキウキしながら葉っぱ製のパンツを引き上げた!
「…………おおぅ……」
私の下げた視線に映る下半身はとてもナイスバディとは言えない。元々が悪いのもそうだが……絶対このパンツのせいだ!!
パンツはどことなくもっこりしていて下品な話、ブリーフを思わせる。女子のパンツ特有のラインを重視した設計を望んでいた私は耐えきれず脱いだ。
「ダメダメこれは!質感は良かったけどこれはダメだよ!!」
胡坐を掻いて裁縫道具を手に取り調整を始める。無駄な生地が多いんだよ!
そして絶対にチラ見されても良いようにと、ガウ君が帰って来るまでの間に数時間かけて修正したパンツは、やっとの事で穿ける程度になった。
「これだよコレ!私が求めていたパンツはっ!!」
まるでヴィクトリア達の秘密のような下着だと、過大評価した所でやっとガウ君は帰ってきた。手には昨日と同じキノコが……そう言えば最近妖精液飲んでないな…。
「かなえー?ががいまー!」
「!ああっ、ごめんねガウ君!うん、おかえり」
私がおかえりを言うまでずっと洞窟の前でただいまを言っていたようだ。どうやら昨日私が言った洞窟の外の人がただいまを言うという事を律義に守っているらしい。
私が返事をすると、興味深そうに地面に散らばる葉っぱの残骸を覗き込む。だがガウ君。完成品は私の股にあるので見せませんよ?
「…あっ!そうだった、ガウ君これっ!はいっ!」
「うー?」
私から受け取った物をキョトンとして見るガウ君。私が彼に渡したのはいわゆる腰蓑だ。
持ってきていた英語の教科書をたわむれに開いた所、各地の民族が写真で写っていたのでそれを見ながら作った。まさかこんな所で英語の教科書が役に立つとは…!!
枯草で作っているっぽいが、あえて…というか材料が無いので私のパンツと同じ生地で作ってみた。私のパンツと比べるとかなり楽に作る事が出来たので、私のパンツよりも先に完成したのだ。
ガウ君はどうすれば良いのかと目で訴えてくるので、とりあえず穿く動作を取ってみた。…しかし、ガウ君は最初から今この瞬間までずっと全裸だ。私が説明してもイマイチ分かっていないのかずっと首を傾げて困った顔で私を見てくる。
「……えっと…えっとね……ちょ、ちょっと貸して?」
「……かなえー……うー……」
申し訳なさそうな声で上目遣いに私を見るガウ君に心が痛む。止めて!私の方が今まで色々迷惑かけてるんだから!!
とりあえず手っ取り早く私がガウ君に穿かせようと腰蓑をガウ君の足に通させる。そして、ガウ君の腰でー………
「………」
「っ…かなえ?」
あれの所で手が止まる。やばい。どうすれば良いのか分からない!!
待って!引っかかった!!えっ、押し込むの!?素手でっ!?
あわあわと直視しないようにガウ君の腰まで引き上げようと奮闘するも空しく、何度も同じところで引っかかり、さらに私は慌てた。
ええっ、ちょっと待ってよ!私触れないよ!!そこまで野蛮に染まれない!!結菜ならともかく私は無理だよ!!
お兄ちゃんのを見た事はあるがそれも遠い昔。お父さんはお風呂に入るのが1番最後なので、小学校低学年以来見た事がない!そんな私が触れるか?否!!加減を間違えて潰してしまうかも知れない!!
私がガタガタと震えだし、同じ所でずっと停止しているのに気付いたのか、ガウ君は私の手から腰蓑を奪うと自分で腰の辺りまで引き上げてくれた。良かった!!
「ああ、ありがとうガウ君!!どうすれば良いのか分からなかったの!!」
「………」
無言で引き上げた腰蓑を再び私に持たせる。この先は自分でやれって事だね!…でも、ガウ君は何だか怒っているようだ。申し訳ない事をした…。
そう言えばテレビでも、男の人が股間にボールが当たって痛がってたなー…と今更思い出し罪悪感に駆られる。ガウ君…痛かったんだね……。
もたつきながらも紐を結ぶと、正真正銘の野生児と化したガウ君に、感心したような声が漏れた。……こんな完璧な野生児、ターザンぐらいしか見た事ないよ、私…。
とりあえず拍手をすると、ガウ君もつられて拍手をした。それが楽しかったのかガウ君は次第に機嫌を直して「あっこいい?」と、八重歯を見せはにかみながら私に確認する。
「かっこいいよ、ガウ君!これからそれで過ごそうね」
「あっこいい!あっこいいー!!うー!!」
腰蓑を巻いたガウ君は、かっこいいと言った私の言葉に喜んで恒例とも言える、私を抱き上げくるくる回る儀式を始めた。
いつもならスカートの中身が見えると嫌がる私だが、今日からは違う!だって今の私にはパンツがあるのだから!!
私はガウ君がやっと文明の証とも言える服(?)を纏ってくれた事で歓喜し、ガウ君と同じように笑いながらガウ君の首に抱きついた。もう怖いものなんてない!!
私が笑い出すと、ガウ君は嫌がらない事に喜んだのか私の鳩尾辺りに顔をくっ付けて低く鳴いた。お腹からガウ君の吐息の熱と振動が伝わって背中がぞわぞわした。
「……あっれー?妖精、全然居ないねぇ?」
「がおー」
キョロキョロと辺りを見渡してガウ君に疑問を投げかける。妖精の縄張りまで来たのに妖精が1匹も見当たらないのだ。
ガウ君が来たので隠れたのかと思ったが、私に狙いを定めるような視線すら感じられない。……今日は一体どうしたのだろう?
罠を仕掛けてみたが、ウインナーを置いても何も来ない。まるで、ここには最初から生息していなかったかのようだ。
ガウ君を盗み見るも、あくびをしてまるで緊張感がない……もしかして、もうここには妖精は居ないのだろうか?
「ガウ君……もしかして、妖精…もうここに居ないの…?」
「がお」
単発でそう鳴いてまっすぐに私を見る。言った事が分かってるかは分からないけれど、何だかもうこの場所には妖精は居ない気がした。
「どやさあああっ!!!」
ザバアッ!と水しぶきを上げて網を湖から引っ張り出す。出てきたのは日本人の馴染み食になるお魚だ。
4匹ときりの良い数を捕って魚を確認する。…うん、人面ではない。
その魚を持って私はガウ君と共に畑に向かった。実験をしてみる事にしたのだ。
まず今日は1匹…一応私の分の魚を生贄に錬金術をしてみようと思う。ウインナーをとりだした穴に魚を埋め“魚子の墓”と書いた木を立てておいた。
ちなみにガウ君は私に槍を持たせて球体の木の実を取りに行ってくれている。今日はキノコに魚に球体か…豪華だな…と、私はお腹を鳴らしてお昼ご飯に想いを馳せた。
「………でも、妖精どこに行ったんだろ?」
私はてこてこと畑の周りを散策しながら、今日起こった不思議な事について考えた。
妖精が全くいない。これは、この世界に来て初めての事だ。
今までは洞窟の外からこちらを窺うような視線も時折感じていたが、それすらなかった。まるで、元から妖精なんて居なかったかのように。
違和感を感じながらベンチに座っていると、不意にあの色違いの妖精の事を思い出した。
「………あの妖精を捕まえてから…?」
攫われる前、最後にたくさん妖精を見たのは色違いの妖精を見た時だ。その後に私単体で妖精を初めて捕獲もしたが、その時捕れた妖精は僅か2匹だった。この時点でもう減っていたと思われる。
それ以降だと私はきょわちゃんの所でお手伝いさんをしていたので分からないが、私が居た時で言えばおかしかったはその時だけだ。
色違いの妖精に何かあるのだろうか?確かに周りと比べて胸ははち切れそうな程にムチムチとして色気があったが…。
思い出すとむかむかしてきた…!だがあの妖精は魔力回復薬となった。忘れてやろう。
…魔力……。そう、あの色違いだけが魔法を使える妖精液になった。やはり何か関係があるのだ。
何か……何か、元の世界で似た何かがあったような気がする………。
「何だったっけ………妖精……違うなぁ、えっと…バッタみたいな目……バッタ……………蜂?」
その瞬間全てが繋がった!
「ああっ!!あれ、女王蜂か!!いや、女王妖精!!なるほどなぁー!!あースッキリしたー!」
私は大声を上げて1人手をポン、と叩き納得した。
今までの銀髪おかっぱが働き蜂だとすると、あのピンクの妖精は女王蜂だった訳だ。思えば最初にガウ君が発見した時は他の妖精に隠れて見えなくなっていた。あれは、女王蜂を守ろうと周りの妖精が隠していたのだろう。
妖精液も考えてみれば蜂蜜色だったし、女王妖精はさしずめロイヤルゼリーだったのだろう。なるほど、貴重だ!
…という事は、だ。妖精は女王を失くしてどこかに行ってしまったという事だろう。あの女王がいずれまた生まれれば、この森にもまた妖精は現れるという風にこの世界は回っているのだと思う。
「ガウ君もレアっぽい反応してたもんねー…じゃあガウ君は最初から居ない事知ってて私に付き合ってくれてたのかー……やだっ!恥ずかしいっ!!」
「お客さん、乗らないの?」
「あ、すいません!乗ります!」
呼ばれて慌ててベンチから立ち上がる。考え事をし過ぎて、バスが来た事に気付かなかった…!私は焦って財布からお金をとりだした。
運転手が手を伸ばしてお金を徴収しようとするので、私はバスの階段に足をかけ
「かなえっっ!!!」
瞬間、強い力で後ろに引っ張られ、私の右足は階段に足を掛ける前に地面へと引き戻された。




