第41話
「ただいまー!!」
「おかえりー!!」
同時に帰ったのにおかえりを言うガウ君。ちゃんとした発音が出来る事を自慢したいようだ。
「ガウ君違うよー、中に居た人が帰ってきた人におかえりを言うの!」
「うー?ががいま?」
私は困惑するガウ君に洞窟を出たり入ったりしつつ説明した。すると小一時間でガウ君はおかえりとただいまの使い方をマスターしてしまった!成長が著しいよ!!
人間ってやっぱり喋らないと言葉を忘れてしまうのか、あれ?こういう時に何か良い言葉があったような…という出来事が最近特に増えてきた。
代わりに植物と敵の事には何だか詳しくなってしまい、今ガウ君に日本語を教える事で必死に母国語を私の中で息づかせている。
教え終わると、もう日がすっかり落ちて空は綺麗な藍色になっていた。それを見るとお腹がぐうぅ…と鳴き声を上げる。なんて規則正しい生活だろう!
元の世界の私は朝ごはんを抜き、昼は手のひらサイズのお弁当をつつき、夜は爆食いして、深夜近くにはポテチを開けた。何と絵に描いた女子高生だろうか。
今の私なら鼻で笑える程の乱れた食生活だが、2割ほどの羨ましさを感じてしまう……くそっ!私だってポテチ食べたい!!
手を握りしめ、過去の自分に羨望と憎しみの念を飛ばす。だが今日の晩御飯の火付け役は私だ。そんな堕落した生活は忘れて楽しく行こうじゃないか。
私はガウ君から支給された魔石を握りしめてガウ君が食材を串に刺し終わるのを待つ。今回の晩御飯は初挑戦!前に1回見たっきりのキノコだ!!
キノコは初日から絶対毒キノコだと決めつけていたが、その紫の斑点のキノコをガウ君は迷うことなく引き抜いた。
私が目を丸くしてそれを眺めていると、1つのキノコが抜かれた瞬間に、周りに生えていたキノコが声を上げて地面を抉りながら逃げ出した。
「きいいっ!!ぴるるるる!!」
……マンドラゴラ……?
甲高い声にガウ君は軽く顔を顰めたが、構う事無く逃げ惑うキノコを無慈悲に引き抜き雑に入れ物に押し込んでゆく。それを片耳を押さえつつ私も手伝ってガウ君から遠い範囲のキノコを2つ狩った。
幸い歯も生えていない事にほっとしたが、私は最近自分に何かが欠けてきた気がしないでもない。
そうして取ったキノコは今も元気にガウ君の手の中で暴れている。
私も手伝おうかと手を伸ばしたが、これは触らせてくれないのか、私が手を伸ばした方向の反対側に避けるようにキノコをやってしまい私に背を向けて作業を始めてしまった。
…まぁ、最近ちょっとマシになったとはいえ怖いよね、私に触らせるの…。
大人しく三角座りをして待っていると、ガウ君が急に正面を向いて私を呼ぶように鳴いた。
それを見て立ち上がろうとした時、ガウ君は串で軸からキノコをまっすぐに一突きにした。
「ぴいいいいいいいいいいいい!!!!!」
私は目を回し仰向けにひっくり返った。耳が死んだ。
やだ、何これ…中耳炎?めちゃくちゃ耳が痛い……血、出てない?…あ、出てない。
キンキンと余波で心音に合わせて何度も痛みが耳を襲う。無音の時が聴覚を失ったように思わせて冷や汗が背を伝った。
しばらく治まるまで仰向けのまま耳をぽんぽんと両手で叩いて反応を窺う。……おお、やっと戻った。
ガウ君からかなり離れている私ですらこの有様…ガウ君は本当に出血しているのではと思い青ざめて私は飛び上がる。
しかし私の心配とは裏腹に、ガウ君は突き刺して尚暴れるキノコを殺そうとバシバシと棒を地面に叩きつけていた。…え、無事なの?
よく見るとキノコの色も赤から青に変わっていた。いつの間に…
すると、私が復活したのを確認したのか、私に一瞥くれるとガウ君はまた新たなキノコを取りだした!私は急いで耳を手で覆い衝撃に備える。
「ぴいいいいいいいいいい!!!」
先程よりも幾分マシな鳴き声が鼓膜を刺激する。だが、それより私は目の前のキノコに釘付けだ。
……一瞬で青に変わった。
キノコが青に変わった瞬間、ガウ君は見えない程の速度でキノコから手を離した。あれに触っては危ないのだろうか?
青くなってなおキノコは暴れるのを止めない。ムカデと同じようにキノコは普段は大人しいだけで危害を加えると戦闘モードになる系の生き物なのだろうか?…でもそれって、食べて良いの?
そしてそのキノコが叫んでる間も見てたけど、ガウ君一切防御してないね。何で平気なの?ガウ君、本当に人間?
……こうしてまた1つ、新たな謎が生まれた。
キノコは全部で12個。計12回の叫びを聞いて私はやっと火付け役の時間が巡ってきた!ちなみに木を組んだのも私だよ。見て!この効率の良い設計のキャンプファイヤー!!
だが普通の事なのか、特にガウ君も褒めてくれることも無く、私はドヤ顔をごまかすように指で魔石を弄った。
ちなみに毒槍で倒した牛の化け物は今頃発酵している頃だと思われる。ここに帰る前に畑で埋めてきたのだ。
ガウ君は何故かムカデと違い、あの化け物には妖精液を全身に垂らしてから埋めていた。何か理由を説明してくれていたけれど分からなかった。
…でも、同じ化け物でも、妖精とあの牛の化け物は食べ物になるっぽいのに…花とウサギの化け物は何にもならないのだろうか?
花は花弁が使えるけれど、本体はガウ君も持ち帰らなかった。つまり食べる物ではないという事だ。ウサギの化け物も魔石を取ればそれで終わりだ。
……もしかして、何かを採取する系の化け物はご飯にならないのかな?
じゃあ、最初の頃の虎みたいな生き物はご飯になったのかなー?と倫理が完全に狂ってしまった思考を始めると、ガウ君が焦れたように私を呼んだ。おっと!魔法使いのお呼びかな!?
私はガウ君に遅れた事を謝り急いで魔力を魔石に注いだ……ような気がする!
詠唱は要らないよね?あれは前回やけくそで言っただけだし、何言ったか覚えてないよ。ガウ君だって無言で投げてたしさ。
という事で今度はお父さんの宿敵!巨大な人間の野球グループをイメージして私は腕を振りかぶった!!
「ふんっ!!」
勢いよく投げた私とは裏腹に、とても優しい光が洞窟に灯った。何だかムーディー……そして全力投球した自分が何だかとても恥ずかしい。
…だって、1回目の時みたく爆発するみたいに火が点くと思ったんだよ…。
そんな私にガウ君は「ありがとう」とわざわざお礼を言ってくれて、居たたまれなくなった私は高速で頷いてキノコを囲むようにしてガウ君と座った。……投げる時思わずめちゃくちゃ足上げちゃったけど、中……見えてないよね…?
ぱちぱちと音を立てる火を見ていると、ガウ君がちらちら私を見ているのを感じて嫌な汗を掻く。
………もう野球フォームは止めよう。
そして出来上がったキノコは謎の味がした。食感はまるでグミだ。
ぷにぷにとした食感がお菓子のように楽しかったのに、味はどことなくカレー風味。それ以外にも何かの味がするけれど私にはこれを表現出来る程の実力は無かった。とりあえずジャンクフードではない!
そしておからのようにお腹で膨れるタイプだった。1人6個でガウ君と分け合ったが、もう4つ目でお腹がいっぱいになる。
ガウ君に残りを食べて貰おうと差し出すと、口に思いっきり2個とも突っ込まれて地獄を見た。……忘れてた……ガウ君、こういう子だよ…。
そして私は裂けるような腹痛に襲われながら夜を明かした。
……同じ量食べたのに、どうしてガウ君は普通に眠れてるんだろう……。




