第40話
「ぶじゅうううっ!!ぶじゅうううっ!!」
私が臨戦態勢を取ると、余裕を持っていた化け物は鼻息を荒くして余ったウサギの化け物の首を私に放り投げた!
「ひいっ!!悪質!さっきまで食べてたくせに……うわあっ!?」
私がさっと身を躱して地面に転がり血をまき散らす頭部に一瞬視線をやり喚くと、その一瞬の隙に化け物は鈍足ではあるが私との距離を縮めにかかった!!しまった囮かっ!!
私は恐怖でおかしくなりそうだったがとある可能性を感じ、向かってくる化け物を引き付け…あと5歩程で私に到達するというタイミングで走ってそれを躱した。
「ぶじゅうううっ!!……っごっ!?ぐあああっ!!」
私が逃げると遅れて目で私を追いかけるが、体は止まれないのかそのまま木に直進し、頭をぶつけた化け物は大声で鳴いた。
…やっぱり!牛と同じだっ!急に止まれないんだ、この化け物……!!
私は自分の予想が当たった事に喜び心臓が跳ね回った。
ガウ君の戦闘を何度か見てきたが、やはり弱点というのはどの生き物にもあるようでこの化け物にもそれは該当したようだ。
息をつく暇もなく化け物はまた私に直進してきた。…石頭なのか異様に立ち直りが早い……!私はまだそれほど化け物と距離が取れていない事に焦りを覚えた。
案の定先程より早く私は奴に追い付かれた。……まずい、このままではいずれ捕まってしまう……!!
「はあっ、はあっ、思い出せっ、叶…!ガウ君ならっ、どうやってっ、戦う!?」
頭で考えれない程にパニックを起こしていた私の残された理性が、不意に私の口をついて出た。
頭の中に、無音の動画が映し出される。ガウ君の戦闘集だ。的確に相手の隙をつく戦法に、私はある戦法を見出した。
「……やれる?……ううん、やらなきゃ……!!」
尋常じゃない程の手汗で私は再度手の皮が圧で擦り切れる程強く、毒槍を握り直した。
「ぶじゅうっ!!ぶじゃああああ!!…ぎゃがあああっ!!」
「っ今だあっ!!」
掛け声をかけて化け物が木にぶつかりよろめいた瞬間に槍で化け物を切りつけた。あの即効性の毒があるから、きっと刺さなくても大丈夫だと思う。
もし、刺して抜けなかったらと考えて、一瞬突きを放った私の毒槍は予定を変更して首筋を掠める程度で留まった。
すると、じわじわではあるが毒が回ってきたのだろうか?化け物は先程よりもなお一層鈍足になり私を追いかける。
見た所息も荒いように見える……けれど人間と化け物では耐久が違うのだろうか、ガウ君に説明されたように痙攣するようなそぶりは見られない。
尚もギラついた猛る黄色の目で私に狙いを定める化け物。……仕留めるのは流石に素人の私では難しいようだ……。
どうしよう……と上がる息を抑えつける私に再度突進しようとしてくる化け物に再び毒槍を構えた瞬間
「かなえ!えあいっ!!」
「…っえ?」
私が背にしている木から見知った声が降りてきた。そして声の主は私と化け物の間合いに割り込むと、私から毒槍を奪って化け物の正面から喉を一突きにした。
「ぶじゅっ!?ぶ……ぐうっ……!!」
怯んだ化け物から一瞬で槍を引き抜くと、ガウ君はジャンプして化け物の首に蹴りを入れた。
すると今度は化け物も声を上げる事無く地面に倒れこんだ。ガウ君はそれで満足せず、倒れた化け物の背中に飛び乗ると黒ひげのおもちゃのように四方八方から槍の先で串刺しにしていった。
……そんなに刺されれば当たり前の事だが、いつの間にか化け物は声も上げずに絶命していた。……は、早い……!!
そして血まみれの化け物の髪を掴むと、ガウ君はずるずると引きずり、あまりの早さに呆然と立ち尽くす私の元へ戻ってきた。
「かなえ、えあい!」
「え…あ、ありがとう?」
自分でとどめを刺したのに、なぜか私の功績を褒められ何とも言えぬ気分になった。だって、結局勝てなかったし…
その私の気持ちを察してか、ガウ君は何度も偉い、偉い、と使えない手の代わりに私の頬に頬擦りした。
…でも、そうだ。私…戦えたんだ…。
勝てなかったけど、抗戦してたよね?私!何か良い所まで行けたよね!?
次第に実感が湧いてきて、複雑だった私の表情は笑みに変わった。そうだよ、この前までムカデも殺せなかったのに、上達したよ!私!!
「ガウ君、私偉い?」
「えあいっ!かなええあいっ!!」
そう言って何度も頬擦りするガウ君。非常に嬉しいけれど…手に引きずられている化け物の死体が酷くシュールだ。
…にしても、本当は初戦はもっと簡単な敵と戦う予定だったのに…何か強そうなのと当たってしまった。しかし毒槍が意外に私にも使えると分かったのは良い収穫だ。
良いタイミングでガウ君が助けに入ってくれたのも良かったのだろう。初戦で初めての武器を使っての勝利は流石に贅沢だろうし。
…と考えてはたと気付いた。……あれ?ガウ君、いつから木の上に居たの…?
違和感に気付いて疑惑の瞳でガウ君をガン見する。するとガウ君もそれに気付いてどうした?といった顔で首を傾げている。
「…ガウ君、いつから木に居たの?」
「……うー?」
「木!登る!いつから?」
「……うー?」
噛み砕いて説明しても、うー?で全てを流される。
こういう時、いつもなら私の新しい単語に気付いて復唱するはずだが、それすらしないで首を傾げるガウ君に私の疑惑は膨れ上がった。
「……ガウ君、私がこれに襲われてる時、見てたんでしょ?」
「!!うー!!がおっ!うーっ!」
私がジト―とした目で化け物を指差すと、ギョッとした表情でブンブンと首を左右に大きく振った。…ってガウ君、ほぼ日本語分かってるでしょ?
私が化け物に襲われてるジェスチャーを披露し、ガウ君がその光景を見ていたという事をガウ君自身が解釈するには、その前の質問のいつから木に登ってたのか、という質問を理解していないと私の疑問の意味には気付かない。
この場合の正しい反応は、どっちの質問にも、うー?と言って意味が分からない。と返すか、私の新しい単語に興味を持つかのどちらかだ。
なのにガウ君は否定するという、私の言葉を理解していないと返せない反応を返した。
……つまり、ガウ君は最初から最後まで見ていたという事だ。私が何を疑問に思うかを分かっていたから出来た反応だったのだ!
「嘘つき!見てたよね?私が襲われる所!私分かってるんだからね!!」
「!ごめんかなえ!!ごめん、ごめん!!」
自供した。やはり見ていたようだ。眉を下げて情けない顔で私のお腹に顔を埋めてぐるぐる鳴いてガウ君はごめんを繰り返した。
私はやっぱり。と大きく息を吐いて顔に手を当てた。…いやだって…ほんと、もう……。
「……良かった。怖かったから、居てくれて……良かった」
怖かった。嘘じゃない。だって、1人であの大きさの化け物なんてまともな神経をしてたら戦いなんて挑めない。
でも、ガウ君……私がピンチになるまで見守っててくれたんだね。
酷いなんて思わない。だって、この世界では戦えないとすぐに死ぬんだから。きっとガウ君も私に戦い方を早く覚えて欲しかったのだと思う。
私がそう言うと、気まずそうにガウ君は木の上から糸のように細長い蔓のような葉っぱと、針のように鋭い先端の雑草みたいな葉っぱを束ごと持って降りてきた。
「うー…かなえ…」
地面を見ながら足で石を転がしてガウ君はそれを私に差し出した。きっと私が怒ったと思っているのだろう。
私はガウ君からその植物を受け取り、鋭い葉に気を付けながらポケットにしまった。
「怒ってないよ、ガウ君。嬉しいの。ありがとう…」
優しく笑って、私はガウ君の頭と頬を優しく撫でた。
元々ガウ君は嘘すらついていないのだ。だって、ちゃんと糸と針まで探して来てから私を見守ってくれていた。
ありがとう。と感謝を込めて温かいガウ君の頬を指で冷やすように撫でると、次第にガウ君の頬が熱を上げた。しまった!撫で過ぎて摩擦で赤くなってしまった!!
私より何故か柔肌なガウ君の頬から手をそっと遠ざけると、ガウ君が弾かれるように私の手を反射的に掴んだ。
「……え?どしたの?ガウ君……」
「………………」
無言。これはかなり珍しい。
ガウ君は私の問いに答えず、掴んだ私の手をじっと見つめ続けてやわやわと揉むように手を握った。
……もしやシェイクハンドを覚えようとしているのだろうか?いやいや、私教えた事無いし!
意味の分からない手つなぎに首を傾げて動向を見守る。……人と手を繋ぐなんてすごい久しぶりだ。小学生以来こういうのってしないよね…
…あ、結菜が中学の時に未確認生物にハマった時に宇宙と交信するのに握らされたわ。あれは黒歴史。闇と共に眠れ。
思い出したくない過去まで掘り起こしてしまったのと、何だか恥ずかしい事をしている気がして段々と頬が紅潮するのが自分でも分かった。
そろそろ解放して欲しいんだけど………ほら、死体も待ってるよ。
「ガウ君、何してるの?もう良い?」
「…………ぐるる…」
唸られてはいない。ただ呟いただけのような声が静かな森で私の耳に届いた。
その声色は普段聞かない声色で、思わずドキッとした。低い声が鼓膜と体に響き、私は思わず肩幅に開いていた足をビタンッ!と閉じた。
痺れを切らし、思い切ってガウ君の手を私からにぎにぎすると、ガウ君はビックリしたように手をぱっと放す。…ちょっと傷付くじゃん……
だけどやっと解放されたので、さっきから気になっていたあの石鹸みたいな香りのする花を触っても良いか確認を取る。
すると、少し呆けた様子のガウ君はいつものはハキハキとした動きと違いどこかぼんやりした動きで説明してくれた。
…何々……触ると……痒くて……掻いて……倒れる……お亡くなり……。
一部始終を説明すると、ガウ君は元に戻ったのかいつもの明るい笑顔で「がお!」と鳴くと洞窟へと足を進めた。
……えっ……出血死するって事…?
とんでもねぇ花だ……と絶対に触らないリストにこの青い花を刻み込み、ガウ君の後に大人しく続いた。




