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第33話

こんにちは、叶です。


早いものでここに来て6日経ちました。そろそろこの世界に来た時から1ヶ月は経ったでしょうか?


スマホどころかバッグも網も全てあの洞窟に置いて来てしまった私は、元の世界に帰る方法はおろか、あの洞窟に帰る方法すら未だ見付けられずにいる。



あれから数日で全ての卵が孵ったというのに、まだ私は解放されず現在もこの建物でお手伝いさんとして働いている。

ちなみに生まれた龍達は最後に生まれた水色の子を除いて全員男の子だった。キーちゃんはキー君だったのだ。



子龍の成長は早いのか、1番初めに生まれたグレ君はもう空を飛ぶことが出来るようになっていた。兄弟たちからは羨望の眼差しで見られ誇らしそうにしている。


そしてなぜか子龍全員に懐かれた私は、1人でトイレが出来なくなり非常に困っている。1匹をきょわちゃんに預けても他の4匹が付いて来るのだ。



そんな訳でどう足掻いても私は排泄を公開しながらトイレをせざるを得なくなり、人前で(龍だけど)トイレをしても何とも思わない鋼の精神をこの数日で手に入れた。…失ったものは大きかったが…



あれから旦那龍にもそこそこ慣れてきたので、ある日旦那龍が取ってきた木の実の中に、あの中の種が走る実があった事から収穫先があの洞窟近辺なのでは?という予想をした私は旦那龍の尻尾に掴まって一緒に行って帰ろうと企んでいた。


旦那龍も意外な事に私を乗せて出ようとしてくれたので喜んだのも束の間、私に降りろ!とでも言うように子龍達が全員で私の服を噛んで離さずそのままずるずると引きずり下ろされた。


そして私がもみくちゃにされている間に旦那龍は行ってしまった………



「もうっ!洞窟に帰るんだから邪魔しちゃダメ!!」


「きゅう、きゅう」


「くー………」



こういう時ばかり弱々しい声で鳴く子龍達。だが私は許さない!


目を三角にして怒っていると、不意にきょわちゃんに咥えられた。


“行ってはダメよ”という風に自分のお腹に私を押し付け尻尾でガードする。


それに子龍達は安心したように…何匹かは嫉妬したように私を押し退けきょわちゃんのお腹を取り合った。



……私……何だか二度とここから出れない気がする…。



某髪の長いヒロインのように髪を伸ばしてはしごにして降りようかな?と考えて絶望から目を背けた。


……私、おばあさんになるじゃん…。








「!?きゅうっ!!きゅうっ!!」



そんな食べて遊んでと怠惰な日々を過ごしていたある日、いつも通りきょわちゃんの子供たちと遊んでいると、何かに興奮するようにきょわちゃんがせわしなく尻尾を叩いて鳴いた。



それに不安を煽られたのか、先程まで私と追いかけっこをして遊んでいた子龍達も共鳴するように同じ声で鳴き始めた。



「いっ!?一体どうしたのっ?進化するの!?」



オロオロと視線を彷徨わせて動向を見守る。何だ!?地震が来るのかっ!?



地鳴りなどは聞こえないが、一応影になった所で身を屈めて落石に備える。

そして龍達は避難するようにきょわちゃんを先頭にして一斉に飛び上がった!


……ああ、そういえば皆もう飛べるようになったんだったっけ?子供の成長って早いなぁ……ってえええっ!?待って!!私飛べないって!!!



のほほんと子供の成長を感じ涙するおかんモードに入っていた私はすぐに正気に戻り命の危機を感じて慌てた!



「きょっ!きょわちゃんきょわちゃんっ!!乗せてよ!!」



私の悲しい叫びがこだまする。きょわちゃんは必死に手を振ってアピールする私を視界に入れ、一瞬こちらに引き返そうとしたが、まだ末っ子で飛び方が安定しない水色のアオちゃんが体勢を崩し、落ちそうになるのを見て助けに行ってしまった。


それを呆然と見届け、冷や汗が滝のように流れた。



えええっ!どうしよう!?敵襲とか!?やだよ肉食の何かが来てたら!!ってかどうやってここに来てるの!?やっぱり地震!?だとしても死ぬ!!



ひいいっ!と情けない声を上げて壁に張り付く。もし敵襲だったとしてあのデカい龍が逃げ出すって…かなり危ない敵じゃん!!私武器無いし勝てないよ!!


するとガタガタと震えながら怯え慄く私の耳に奇妙な音が聞こえてきた。



………ザリッ………ザリッ………ザリッ………



何かが擦れるような奇妙な音が段々と近付いて来るのが分かった。

やだ!やっぱり敵襲だ!!何かがこの建物に上がって来ている!!


その音は多少の間を開けながらも着実にこの最上階を目指して進んでいる。



しし、信じられない…!あの高さを登る生き物がいるの!?異世界怖い!!



龍の卵を狙いに来たのだろうか、と卵の殻が落ちている側の反対方向に逃げながら私は震えた。


元の世界で言えば卵が好きな生き物と言えば蛇だ。そして蛇ならこの建物も難なく登れそうな気がする!

そして蛇って人間も食べるよね!?私前にテレビで見たんだかんねっ!!アナコンダが成人男性を丸のみにしたっていうニュース!!


誰に自慢しているのか妙に胸を張っているとその音は徐々に大きくなり、私は身を屈めて指を組んで願った。



「あああ…!お願いお願い帰って!!もう龍の世話係でも良いからぁ!!文句言わないから!!もうムカデウインナー食べたいとか言わないからぁぁ!!でもちょっと元の世界には帰らせてほし…いやいや!帰らなくていいよ!!生きれるなら!!」



ぶつぶつ大きな独り言を呟いていると、願いが通じたのかその音は不自然な程にピタリと止んだ。



……?も、もしかして、助かった………?



と思ったのもつかの間、私がそう呟くと同時に今までの速さの比ではない音が駆け上がるように近付き私は悲鳴を上げた。



「ひいいぃぃえええっ!!お助け!!お助け!!私碌なもん食べてないから栄養ないよおおっ!!?胸もほらっ、抉れて……っ!!あああっ!!ガウ君助けてええっっ!!」



私の心の拠り所、ガウ君に助けを求めて叫んだ。その叫びに反応したグレ君が一度引き返そうと振り向いたが、兄弟に促され私を置いて空へと昇る。



薄情!!あんなに遊んであげたのに!トイレも見せてあげたのにっ!!お手伝いさんだからか!?お手伝いさんがお亡くなりになっても心は痛まないのか!?

きょわちゃんも酷いよ!!お腹で温めてくれたじゃんっ!!何でそんないきなり血縁以外に厳しいのっ!?



短期間とはいえ絆が生まれたのではと思った私がバカだったのか、龍の一家は私と家を捨てての避難を選んだ。


この世界の無情に打ちのめされ悔し気に窓を睨むと………この建物の侵入者………ギョロリとした目を血走らせた化け物が私の目に留まった。


それにはくはくと声にならない息を吐いていると、ギョロギョロと辺りを見渡していたその化け物と目が合った。





——そして、その化け物は私に目を見開くと、雄叫びを上げ私めがけて飛びかかった。





「……っひ!!やっ……たすっ………たすけっ………!!」



私を押し倒し上に乗っかる細身に鋭い爪をした化け物に、私は瞬間的に涙が出た。鋭い歯が涙で眩む視界で光り、私は死を覚悟し震えあがる。



…え、死ぬの?私……これまで何かうまい事生きれそうだったじゃん……何だかんだ龍にも殺されなかったし……え?本当?



荒い息が私の首筋に当たり身を震わせる。間違いない!私を食べる系の生き物だ!!



だがこういう時に限って人とは体に力が入らない。


例えるなら、次襲われたらパンチしてやる!と思って電車で痴漢された時によく似ている……いや…痴漢された事ないけど…!予想だけどそのくらいに体が強張り動かないのだ。筋肉が震えて掴む事すらままならない。



「うっ…うぅ……死にたく、ない…よぉ………っ!!」



恐怖に目を固く瞑り情けない声で未練を口にする。

こんな世界でも私はまだ死にたくない。

だって…まだガウ君にも、叶ってちゃんと、言ってもらってない………まだ…教えたい言葉だって、あった…



ガウ君。と小さい声で助けを求めるように慄く唇で言葉を吐き出した。……すると……





「かなえっっ!!かなえ!!」


「……………っえ…?」



懐かしい声色と言葉に目を開けようとした瞬間、体が硬く抱きしめられた。



苦しく感じた瞬間、抱きしめていたものは、確認するように優しく私の体を撫で、最後に私の顔を包んでぼやける私の涙を優しく拭った。



「かなえ」


「………ガウ…君…」



クリアになった視界に、随分と痩せ細り髪が乱雑に伸びて極限状態になったガウ君が映り込んだ。



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