第32話
「ぐっ!グレ君っ付いてきたらダメ!」
「きゅうー?」
あれから翌日、グレーの子龍ことグレ君はどこに行くのも私にべったりになった。
しょうがないとは思う。父親は母親の食料調達で外に出かけっぱなしだし、母親はまだ他の卵が孵っていないので動けず遊べない。
なのでなぜか家に居る暇人の私を遊び相手にしようと付いて回っているのだろう。
しかし私は今トイレに出かける所なのだ!申し訳ないが昨日からずっと付いて回られているのでそろそろ離れて欲しい。いや!すごく可愛いんだけどね?可愛いけどトイレに行きたいからさ!!
ちなみにどこでトイレをしているかと言うと、実は昨日の昼に一体どこから湧いててどこに続いているのかというような水が流れている所があった。原理は分からないがたぶん雨水が流れているのでは?というのが私の見解。
この塔とも言える高い建物の最上階まで流れているのだから間違いないだろうと私は思う!そしてこの水は窓の外に滝のようになって落ちている。
…ちなみに下は霞んでいて見えない。誰かが口を開けて飲んでいない事を切に願う。
…まぁ、そんなトイレに最適な川?を見つけたので、私はそろそろ溜まったものを排出しようとウキウキしゃがんだのだが…
「きゅう」
この子龍が背後から何してるの?という感じで声をかけてきたのだ。
私は飛び上がった。尿も引っ込んだ。純粋な瞳が恨めしい程に美しく、私はこの子の前でトイレが出来ずに今、物凄く困っている!!
ガウ君の方がまだ良かった。だってガウ君は言えば目を隠してくれたし、後ろで待っててくれた。だがこの子は私の顔が見たいのか何なのか私の正面に回り込んでくるのだ!!出来る訳がない!!
可哀想ではあるが、私は何度も死角になる所に無理やり子龍を移動させたのだが、子龍もなかなか諦めない。
三度繰り返した所で尿意が限界を迎えたのでもう親に引き渡す事にした。
「きょわちゃんっ!ほら、グレ君が寂しがってるよ!」
「きょわわ」
「きゅー」
きょわちゃんの前にグレ君を差し出すと、可愛い子供に尻尾を巻き付けてペロペロと優しく舐め始めた。
私はその様子を確認すると、トイレに向かって猛ダッシュした。
「はあー…トイレってやっぱり偉大…」
汚い独り言を零してきょわちゃんの近くに帰ってきた。するとうとうとしていたグレ君がハッとしたようにきょわちゃんのお腹から飛び出してまた私の周りを駆け回りだした。
「きゅー!きゅー!」
ちなみに、このグレ君名前の通りオスである。オスの特徴なのか尻尾は父親程ではないがそこそこ臭う。これはたぶんメスを呼ぶフェロモン的な奴なんだろうな。
これでまた1つ賢くなった。と腕を組んで偉そうに笑っていると、グレ君が私のスカートを噛んで遊びだした!
「だめだめ!こらっ!!破れたら弁償だかんね!!」
「きゅるる…」
必死に押さえてそう軽く怒ると、まったく意味の分かっていないグレ君は引っ張るように勢いをつけて引っ張り始めた!だからダメだってば!!
妙に懐かしいやり取りを続けていると、やっとこさ旦那龍が帰ってきてグレ君の興味はそちらに移った。ほっ…
そしてまた大量の木の実を持って帰って来たので、私は動物園の飼育員よろしくきょわちゃんの口にどんどん木の実を投げ入れる。
そんな至れり尽くせりの母親が羨ましかったのか、グレ君もきょわちゃんのように口を私に向けて大きく開けた。…君はまだ母乳じゃないか…
喉を詰まらせても怖いのできょわちゃんだけに絞ってひたすら投げ続けると、グレ君が不満に声を上げた。
「ぶぅーっ!ぶぅーっ!」
…ぶーぶー文句を言うって言うけど、本当にぶーぶー言ってる…
鼻を鳴らしてぶーぶーと鳴いているようだ。器用だな、と妙に感心しながらその音を聞いていると、旦那龍が指先でちょんっと子龍を叩く。小さな悲鳴が上がり尚更大きく鳴いた。
「ぶぅ!ぶーっ!!」
ワガママだな…しかしこれも躾。よそ者が勝手に手出しして良い事ではないので無視してひたすらきょわちゃんに木の実を貢いだ。ちなみにきょわちゃんは木の実に夢中で子供の事は完全無視だ。
どんなに鳴いても無駄だと分かったのか、だんだんと声が小さくなり、最終的にはいじけるようにきょわちゃんのおっぱいを飲んでいた。
……何か…これからあるかも知れない子育ての為になりました。勉強になります。
そんな感じで午後まで何をするでもなくたまにグレ君と遊んだりだらーっと過ごしていると、きょわちゃんが飛び起きグレ君も何かを察したように私を追いかけるのを止めてきょわちゃんのお腹の卵を見つめ始めた。どうやらまた孵るようだ。
最初の卵が孵る時は見れなかったので、私もグレ君の背後に立って卵を観察する。…ちなみに今回は旦那龍を呼ばないようだ。2匹目だしね。
グレ君が黄色の卵と薄紫の卵を鼻先で突いてきょわちゃんに怒られている。今回はあの2つの卵が孵るみたいだ。
ちなみにどうでもいい話だが、私はもうこの2つの卵に名前を付けている。
安直な名前で悪いがやはりこの卵の殻と同じ色で生まれてくると思われるので、見た目からそのままキーちゃんとバイオ君だ。性別は知らない。
バイオ君は紫でシー君とかだと捻りが無くてネーミングセンスの欠片もない人間だと思われたら嫌なので考えに考えてバイオレットから取ってみた。
私のセンスにバイオレットを教えてくれた沙織もびっくりだね!!
帰ったら自慢しちゃおうかと考えていたらどうやらいつの間にか殻がほぼ割れていた。そしてキュートな事に頭だけを殻から出して一生懸命這い出ようと体を揺らしている。生き物の子供って何でどれもこれも可愛いんだろう?
「きょわわわっ!」
「ぴー!」
「……くぅ…」
上からきょわちゃん、キーちゃん、バイオ君でそれぞれ特有の鳴き声を上げる。反応はキーちゃんがきょわちゃんそっくりでバイオ君が旦那龍と同じように落ち着いたような鳴き方をしている。
それを可愛く思い眺めていると、長男のグレ君がヤキモチを妬いたのかただ単に兄弟と遊びたかったのか、バイオ君に向かって突進しだした!ってちょっと!!生まれたてにそれはダメだよ!!
私が止めに入る隙も無くバイオ君はぶつかられコロン、と鳴き声も上げずに転がった。
「ぐぎゅうっ!!」
「ぴぃ!ぴぃ!」
やはり嫌がらせだったのか、二度目の突進をかまそうと再度構えたグレ君をきょわちゃんは叱るように首を噛んで床に押し付けた。グレ君は普段鳴かない弱々しい鳴き声で反省を示している。
一方のバイオ君はどこ吹く風で一緒に生まれたキーちゃんとお互いの殻を舐めて取り合っている。
叱られたグレ君は解放されると、逃げるように私の背中に隠れた。…可愛い。
だが私の方が面積的には小さいので丸見えだ。
こうしてまたきょわちゃん達夫婦に新しい家族が増えた。にぎやかになるのは構わないが…そろそろ森に帰して欲しいんだけどなぁ…
私は未だぴぃぴぃと背中で鳴き続けるグレ君を撫でながら、ガウ君を思い出しまたため息を吐いた。




