第26話
「あ~ああ~っ!!ほほほほほ…ぎゃっ!」
どうも、叶です。最近自分の名前が叶なのか、かあえなのか本気で分からなくなってきました。
あの色違いの妖精を捕まえてからなんともう1週間経ってしまった。いやー、頑張れば人って生きれるものだね。私は感心したよ!
ところでピンクの妖精だが、実はまだ妖精液になっているのを目撃していないのだ。
そろそろなっているだろう、と私が蓋を取ろうとしたらガウ君が鬼の形相で走りよって来て入れ物をひったくり手を噛まれた。甘噛みだったが。
反応から察するにまだ妖精は液体にはなっていないようである。
そしてもしかしなくてもあの時開けていた場合、私がいただきますされていた。異世界怖い。
他の妖精は皆妖精液になっているので、これもなっているはずだと思い込んだのが悪かった。勿論私は素直にガウ君に謝罪した。しかも元々ガウ君が捕ってきた食料だし……人の食料を勝手に食べようとするなんて、私も随分図々しくなったもんだ。
私が謝ると、「ごめん」と言ってガウ君が噛んだ手を舐めてきた。それにギョッとした私は悪いとは思いつつ手を背中に隠してちょっと後ろに下がった。
そんな私にガウ君は不満そうな顔をしたけど許して欲しい。流石に舐められるのはまだそんなに受け入れられない…初期程ではないけれども…
そんな訳でまだ食べていないピンク妖精に胸を躍らせ今か今かと液体化するのを待っている訳である。
そしてもう1つ、スマホについてである。
あれから私は何度かスマホをの画面をつけて様子を見たが、あれから1度も新着は無い。ついでに電池も減らない。
どこかに電波が通る所があるのかと持ち上げて歩き回ったり叩いたりしたが反応なし。でも叩いた時に“電源を切っています”と出て電源が切れた時は焦って死ぬかと思った。直ったけど。
もう絶対雑に扱わないと決め、今は寝る前にだけ様子を見るにとどめている。
「あ~ああ~あああああ~!」
そして今私は何をしているのかというと……ジャングルに行ったら皆一度はやるよね!ターザンごっこ!!
私はこの巨木の森の中でもかなり上位に入るであろう大きさの木から垂れ下がっている蔓を見つけ一心不乱に抱き着き揺れているのだ。
ブランコを揺らす要領で揺れ幅を大きくして隣の木に飛び移ろうとした私だったが、これにも筋力がいるようで、まだ地面すれすれにしか揺らせない。悔しいっ!
しかもほぼ手だけで全体重を支えるのですぐに落ちてしまう。これは低空だったから大事には至らなかったけれど。
しかし良い運動道具を見つけてしまった!!良いよ!ぶら下がり運動器具!!
正直な所、自分だけでの運動に限度があると薄々感じていた所だったのだ。しかもジャージが花にやられて以来、ガウ君の前でスクワット等が出来なくなってしまったので体はなまるばかりだった。
しかしコレ!ぶら下がるだけで腕力と腹筋が鍛えられる代物だ!落ちてお尻は痛むのでヒップアップ効果も見込めるかも知れない!!
ついでにガウ君の監視のもと行っているので、スカートが靡かぬよう太ももにも力を入れスカートを挟みズボンのようにしているので太もも痩せも狙える!
だって足緩めたら全部見えるからね!下半身!!
だから私は手を離して落ちても太ももは絶対離さない!この自分にも厳しいストイックな精神が少し誇らしくニヤニヤとしながら必死に蔓を振る。
そんな私をガウ君は微笑ましく見守っていて何とも言えぬ感情に支配される。
…何でガウ君が子供の成長を見守るみたいな目してるんだ…
その目止めて、と視線で抗議するとガウ君は心得た!とばかりに妙にキリっとした顔で私の後ろに立った。…って、えっ?何する気?
「うー…がああおおおっ!!」
「ぎぃっ!?ぎゃああああっ!!素人にこれはいけない!!」
ガウ君は野生の荒波に揉まれ、通常の男性よりも発達しているであろう逞しい腕で思いっきり…力の限り私の背中を押した。
言わずもがな私は天高くに放り出された。当たり前だ。風圧と重力に勝てなかったのだ、私の腕は。
しかし私はよく空に放り投げられる。花の時もそうだが人なのに空を飛び過ぎではないだろうか?人に羽はないんだよ。
私が空中に放り出されたのを目撃したガウ君は、空中から見ても酷く焦っていた。
…投げ出されるに決まってるじゃないか。何でガウ君、私にそんな腕力があると思ったの…?
木の上とはいかないが、葉っぱが生えている辺りまで投げ出され私は恐怖に慄いた。落ちたらグシャア!だよ私!!空気の抵抗を多くして衝撃を和らげろ!!
私は自分に命令を飛ばし大の字に体を開き空気を一身に受けた。命綱無しのバンジー状態だ。
多分今凄い不細工だな、と謎に冷静になりながらガウ君が地上で私をキャッチしようとしているのを目で追いかける。
いや…ガウ君、人に受け止めてもらうのも怖いよ?打ちどころ悪かったらどっちもお陀仏だよ。しかも私下向いてるのにどうやってキャッチするんだ。
最悪の展開を考え体が震える。こういう時に限って時間は遅く進むので困る。何なのこの死ぬ前の時間みたいなの。
こんな事ならターザンごっことかしなきゃ良かった…と後悔に嘆いていると、目で追っていたガウ君が驚愕の顔に変わった。そして私を無視して蔓を掴み大きく揺れた。
……えっ?た、助けてくれるんじゃないのっっ!?
ええ!?ガウ君見捨てたのっ!?そりゃあいつかは見捨てられそうとは思ったけどさ!だって今蔓で私の所に来たとしても私が落ちる方が早いよ?絶対私を助けようとしてるなら地面でキャッチしようとするよね!?えっ嫌われた!?
ガウ君が受け止めてくれないと分かった瞬間、落ち着いていたはずの私は途端にパニックになった。ガウ君が何かあっても助けてくれるという謎の信頼で私は今まで落ち着いていられたのだろう。
見捨てられたかもという言葉が私の中で響いた瞬間、欠片も緩まなかった涙腺が崩壊した。そして精神も崩壊した。
「わああああんっ!!ガウ君置いてかないでぇえええ!!私役に立つからぁああ!!妖精もおっ!!この間捕れるようになったじゃああんっ!!なんで…っ…なんでえええっ!!?」
そう、先日やっと妖精の捕獲に成功した。過去のこの世界に来たばかりの私に教えてやりたい。お前はあの肉食妖精を自力で捕れる人間になるんだよ、と。
勿論ガウ君監修の下だが、それでもほぼ1人で罠を張りナイフで蔓を切って捕獲したのだ。ちゃんと私の功績だと言ってもいいだろう。
涙が上に上がり頬は濡れない。はたから見たら顔をクッシャクシャにした女が絶叫しているのがまた悲しい。私の悲しみは誰にも通じない。
「がっ、頑張るから見捨てないでぇええ!!木もちょっとだけ登れるように…なったのにー!!」
ここから私の逆転劇が始まるのだと高笑いしたのは昨日だ。この森で1番小さな木の枝の上で仁王立ちしながら私は誇らしい気持ちになり腹式で笑った。
もうちょっとで順応できそうなのに!と付け足そうとした言葉は喉の奥に張り付いて出なかった。何故ならもう地面がすぐそばまで迫っていたからだ。
今回は花が下で待機している訳でもないので妙に生々しく感じる。落ちた時の自分が鮮やかに頭の中に映される。
もうガウ君を目で追えない位置まで落ちてしまい、ここでガウ君が急いで駆け寄ってきても絶対間に合わない事を理解し走馬灯が見えた時、ガウ君の声が森に響いた。
「かなえっ!!!」
…かなえ…誰だった……ああ、私だ。叶だった。
秒にもならない速度で考えて私はああ。と納得したように瞬きした。
………………かなえ…………かな、え………………叶っ!!?
「ガウ君今かなっ」
走馬灯に脳を支配されていた私をガウ君の声が呼び戻した。驚きに顔を声の方向に向けようにもうまく首が動かない。
声だけでガウ君に今際の時だというのに問いかけようとした私は巨大な何かに顔ごと掴まれて視界がブラックアウトした。




