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第25話



「ああああ!?あったかいっ!!?おっ、温風っ!?エアコン!!ドライヤー!!」



指を差しわなわなと震える私にどうしたのかと動きを止めて様子を窺うガウ君。だが私はそんな彼より彼が手に持つ花弁に首ったけだ。



あれは憧れのドライヤー!!寒い季節を乗り越える為の人類の強い味方エアコンっ!!あな恐ろしき異世界の知恵!!



私は恐れ慄いた。現代人の何と無力な事か。生き物の素材でドライヤーなど、電気も使わない物がこのジャングルのような森にさえあるのだ。日本なんて今のご時世まだ電気が通っていない田舎もあるというのに…!!



膝を突き項垂れる私にガウ君が近付き顔を覗き込む。現代人はこのような優しさも忘れてしまったというのに、この森で1人で育ったっぽい少年さえ他人を思いやるという心を持っているのだ。



全ての敗北を悟り絶望に心を支配されそうになったが、私の手の中にある花弁がそれを止めた。だって…私はこの電気さえ通っていない森で、ドライヤーを手に入れてしまったのだ。そう、ドライヤーを。




どうしよう…これで世界征服出来るんじゃないの?それか私も異世界で無双的な?知識チートってやつ?




夢が広がり、気持ち口角が上がった。ニヤリという擬音が似合う笑みを不敵に湛え、私が生み出した商品が大ヒットし洞窟からお城に引っ越す妄想が頭を駆け巡った。


…すると、そんな私に現実を突きつけるように見知った巨体が私の脳内を陣取った。



『でねでね、私が開発した現代の道具が異世界に旋風を巻き起こすの!そして私を自国に!と願う各国の王族がこぞって私に求婚するのぉ!やだぁどうしようー!!』



頬に手を当てて夢見心地の巨体が再生された。それを見た私は自我を取り戻す。





………文明って…争いの種ですよね…そういうの、良くないと思うんですよ。…個人で…楽しむべきだと思うんですよ……。




いけないいけない。第2の結菜になってしまう所だった。そんなうまい話があるか。

どうやって作った!作り方を吐け!と拷問されて終わりだ。…私、深爪しただけでも泣いて謝る自信があるのに拷問なんて無理だよ…しかも作り方なんて知らないし…ってかそこら辺に居た化け物の花弁だから結構メジャーアイテムの可能性がある…



すぐに喜び落ち込む。上がり下がりの激しい女である。現実のショックに体育座りでいじけていると、ガウ君が再び私を仰いでくれた。…ありがとう。冷えた心が温風で少しあったまった。








そしてお試しで洗った頭を花弁で乾かしてみた。すると私のセミロングはものの数分で乾いてしまった!時短!!


ちゃんと乾かした事で私の髪もやる気を取り戻し、ここに来る前のサラサラストレートに戻った事で私の幸せパラメーターはうなぎ上りだ。調子に乗ってガウ君の髪も乾かしてみるとガウ君はナイフで整えているのか首にかかるかかからないか程度の長さなので私よりも早く乾いた。……花弁やばいな…



「かあえー、ありがとー!」


「はーい、どういたしましてー!」



お礼を言えるようになったガウ君は乾かした私にお礼を言う。そして自慢げに金髪をサラサラと風に靡かせくるくる回った。


普段爆発とまではいかないが結構ボンバーな髪をしているガウ君はドライヤーのおかげですとんと落ち着いた髪形に変身し、大変イケメンになられた。おかげで私も久々のトキメキを味わえ良い気分だ!むふふ…



そしてお試しドライヤーも終わったので、今日の目標である妖精採取に出かける。私は網を片手にガウ君を引き連れ妖精の湖付近へと向かった。








「……ねぇ……ガウ君…本当にそれで大丈夫なの…?」


「あいじょーう!」



高らかにそう言い放ったガウ君は現在、妖精の捕まえ方を私にレクチャーする為に木に登り網を設置している。


網はガウ君が木を通して茂みの向こうで落ちないように固定し、妖精が来たらナイフで切って捕まえるそうだ。原始的だな…



と、いう事で…ガウ君と私が目立った場所に居ると妖精が近寄って来ないので茂みでひたすら待ち続けている。……のだが……。




「………………妖精…来ないね……」



ポツリ。と言葉を零す。かれこれ3時間はここに居る。もう足が痺れてきたのだ。


感覚が無くなった足がふにゃりと曲がり尻餅をつく。ここで襲われたら私逃げられなくて死にそうだが、ガウ君が居るので安心して倒れる。


ガウ君は私を一瞥して、すぐに罠の方に向き直った。どうやらこのタイミングで妖精が現れたらしい。


えっ!み、見えない!!茂みの丈が高くて見えない!!



必死にその瞬間を見ようと体を起こそうと試みる。しかし、私にタイムリミットが来てしまった!私は固まるように動きを止め息を浅くして振動を減らした。



…そう。私の足がレベルMAXの痺れを起こしているのだ。これはヤバい。こんな事なら早く立てるようにしゃがむのではなく胡坐でも掻いていれば良かった!



後悔に顔を顰め痺れに耐える。その瞬間、隣に座っていたガウ君が素早くナイフで蔓を切って妖精の悲鳴が上がった。


ああっ!見逃した!!私は痺れたまま頭を抱えた。一体お前は何しに来たんだ。



ガウ君からは見えているのか、興奮した面持ちで蔓を握りしめがうがうと鳴いている。どうやら大漁のようだ。



そして次の瞬間、私は想像を絶する衝撃を受けた。



「がうっ!かあえ!!」


「ちょ、ま…ぎいいいやああああぁぁ!!!?」



私に妖精がかかっている所を見せようとしたガウ君が私の腕を引っ張り無理やり立たせた。


きっとガウ君は痺れなど知らないのだろう。無垢な瞳は早く!と静かに語っている。


しかし私はこの世の物とも思えぬ衝撃にひっくり返った。解剖寸前のカエルのようなポーズだ。名誉の為に言うがスカートは捲れていない。



私の叫びとその声に驚いたのだろう。先程まで輝いていた瞳は驚きに染まり、零れ落ちそうな程見開いて私を凝視した。



「…かあえ?」


「ひいぃ…!ふぅーっ!!ふぅーっ…!ふぅぅ…」



のたうち回る事も出来ず私は倒れたままの状態で荒い息を繰り返した。ザワザワと体の中を駆け巡る感触が心臓に悪い。


その私を見てガウ君は心配そうに手を伸ばしてくれるが今は止めてくれ。


だがそれも声に出せないので、ガウ君が私の体に触れないようにしっかりと彼の手を取り握る。これで揺らされる、叩かれるなどといった悲劇は起きまい。

他人によって起こされる意図しない衝撃が1番怖いのだ。



しばらくそのまま治まるまでじっとしていると、ガウ君が小さく私を呼んで励ましてくれる。…何だこれ、お産か。





やっと鎮まったのでガウ君の手を放し立ち上がる。…長かった。ちなみに子は産まれてない。


私が体の調子を戻す為に屈伸したりしていると、ガウ君が不意に私の手を取った。



「ガウ君?」



きょとん、とガウ君を窺うと心配そうに眉を下げたガウ君がエスコートするように私の手を引いて歩き出した。やだ紳士!!


私は貴族のような気持ちでエスコートされ、満更でもないなと思いながら肉食妖精の暴れ回る木の下までゆっくりと歩みを進めた。………ムードもへったくれも無いな……。



ビービーと不愉快な音が響く。ガウ君と私が現れた事でやっと捕まった事を理解したらしい妖精は、間抜けな事になんとムカデウインナーにおびき寄せられていた。


それぞれの妖精が個々にウインナーを抱えて威嚇している。…それ、元々はムカデですよ…?



数は約5匹…かなり捕まったという訳でもないが、ガウ君は何か自慢したい事があるのかしきりに網の中を指差す…何があるの?


よく目を凝らし中を見ると………お?


妖精5匹に囲まれ1匹隠れている妖精がいた。でも…何だろう、この妖精…



「……1匹だけ、髪の色が違うね」



そう、髪の色が違う。


ノーマルと言うのか、いつもの妖精は決まって銀色の髪におかっぱだった。しかしこの妖精だけ他と違って鮮やかなピンクをしている。そして妙に発育が良い。


微妙にその事実に複雑な気持ちになっていると、ガウ君がその妖精だけをうまい事取り出し、私に見せた。



「がうっ!うー!があおぅ!」



……何だかよく分からないけれど、ガウ君の一押しはこのピンクの妖精のようだ。どうやら何か特別な個体らしい。


妖精は気が強いのか、ガウ君に掴まれても臆さずビービーとさらに大きな音を出してガウ君の手に噛みついている。



「がっ!ガウ君っ噛まれてるよっ!!」


「かあえー、うー!」



私がわたわたと慌てているのに、当のガウ君は褒めて!とにこやかに微笑んでいる。妖精の攻撃がまるで効いていない。



「す、すごいね!ガウ君っ!!妖精の色違いだ!!」



パチパチと手を叩いて褒めるとガウ君は頬を染めて少年らしい笑みで誇らしげに笑った。…だが、ハッと何かに気付くと首を振ってまた妖精を見せびらかしてきた。…?どうしたんだろうか…?



「ガウ君?」


「かあえ、あっこいい?」



あっこいい、と言われて合点がいった。

…分かったぞ……これは男の子特有のかっこいいと言われたい現象だ。


あれか。ガウ君はバレンタインのチョコを狙っているんだな?私には分かるんだ。



小学生の時、よく男子が女子の好感度を上げようとしていたのを思い出す。普段は紙くずサッカーをして女子の頭に故意ではないにしろ当て回っていた少年達が、2月に入ると同時に急に皆大人しくなり手伝いをかって出るようになったのだ。


私達女子はそんな彼らを冷めた目で見つめ、普段から温厚で気遣いの出来る大沢おおさわ君にクラス全員の女子がチョコをあげた。もちろん私もあげた。


そして貰えなかった男子は逆切れするのだ。あんなに優しくしてやったのに!と。そして貰えた大沢君に突っかかり、大沢君はおろおろと何故自分がチョコを貰えたのか分からないと困惑していた。


その時私達は気付いた。男とは、目の前のステータスに弱い生き物なのだと。



ステータス。つまり分かりやすいステータスと言えばモテているか否かだ。大抵の争いはこれに収束する。



ガウ君もまた、男として…生き物としてのステータス、女子からの好意を得たいと考えているのだろう。しかし涙が出る。…ガウ君、私しか女子が居ないから好意に飢えてんだな…私なんて性別が女なだけの胸も無ければ尻も無い女モドキだというのに…



「…かっこいい。かっこいいよ、ガウ君…世界一だよ、君は…」


「うー?えかいいち?」



私は生温かい目で頭に疑問符を浮かべるガウ君を褒めた。何だか幼稚園児を見ている気分だ…。私好きなんだよ、初めてのお買い物系の番組…



世界一の説明が面倒なのでスルーしてかっこいいを言い続けるとガウ君も世界一に興味を失ってすぐにかっこいいに体を揺らした。言われたかったからもう良いのか、ピンクの妖精を小さな入れ物に1匹だけで入れると、他の妖精もいつも通り無理やり押し込み入れ物を手に2つぶら下げた。どうやら一緒の入れ物には入れないようだ。



「ねぇガウ君、こっちの妖精は何になるの?」


「がぁ!ぐるるがぁお!」



妖精を分けているので、このピンクの妖精は妖精液にはしないのだろうか、とふと思い何になるのかと問うと、ガウ君は飲む動作をしてニコニコと笑っている。……この妖精も妖精液になるのだろうか…ピンクの妖精液…



一抹の不安はあるが、レアそうな色違いの妖精なのでさほど心配しなくても大丈夫だろう。…でもあれが警戒色だったりしたらどうしよう…ピンクだし…毒じゃん。



出来れば美味しくなってくれ。ともう完全にこの世界に溶け込んでいる自分にあえて目を逸らして私達は洞窟に帰った。





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