第24話
私はスカートの丈を調整してバレないように小さくため息を吐いた。ガウ君は私を放しても舞い上がってご機嫌である。
「…まあ喜んではくれてるけど…っ!ひっ……ひぃええっ!?こっコイツ!!」
ガウ君に溜息と苦笑いを浮かべた瞬間、見知った感覚が私の足首に走った!
慌てて視線を下ろすと案の定、昨日見たのと同じ蔓が私の足に巻き付いていた!何で私ばっかり狙われんの!?
だが今日は私のナイトが付いている!私は急いでガウ君を呼び助けを求めた!
「ガウ君っ!!助けて!!私食べられるっ!ガウくーん!!!」
「!!」
ジャンプしながらトイレの周りを回っていたガウ君は私の呼びかけに口をビックリしたように開けて固まった。そして私が引きずられている事に気付くと慌てて走って来てくれた!
ちゃんと助けに来てくれた事に感動したのも束の間、私の引きずられる速度が急に上がり、追いかけるガウ君と私の隙間は全く埋まらない。それどころか開いていってる!
「あっつうううういいっ!!お腹が焼けるっ!摩擦!!ってか足から引きずるから尻が出てんじゃんよぉおおお!!」
私は泣いた。あれだけ守っていた尻が呆気なく晒された事に。
ガウ君は気にしてないのか見えていないのか先程と変わらぬ顔で一生懸命追いかけてくれている。ありがたいがそのまま気付かないでおくれ。
摩擦から腹を守る為に側面に体の向きを変え痛みを緩和する。仰向けには絶対にならない。それをしたら終わる。
鋼の誓いを胸に、ついに私の体は茂みを抜けた。そして視線を蔓の先に向けると………やはり昨日と同じ花の化け物が居た。
だが昨日とは花の色が少し違う。何だその無駄な個性……
花は昨日同様、私を己の頭上高くに放り投げ口を大きく開けた。
ええ、知ってますとも、この流れ。2回目ですよ?でも私だってこの制服までダメにされるのは流石に怒ります。これを失えば私は女版ガウ君になってしまうと知っているからです。
私が食われればすぐにガウ君が花を伸してくれるという信頼があるので命は大丈夫なはずだ。ただ、制服が心配だ。
無駄な抵抗と知りながらも、投げられると知っていた私は体勢をうまい事整えて風に乗り距離を取ろうとする。しかし花は首を伸ばし一直線に私が落ちてくる場所で口を開いている。動けんのかい!!
その時ガウ君が視界に入り、私はブレる視界でガウ君を追いかけた。
…すると何という事でしょう。ガウ君がその場から姿を消したのだ。………ええ………?
ちょっと待ってよ。もしかしてガウ君も異世界に行っちゃったとか?私、ガウ君居なかったら本当にすぐ死ぬよ?てか今もう死にそうだよ?
唖然とそれを見つめていると、不意に体が浮き上がるような感覚に襲われ私は体を強張らせた。
「ひぃっ!!新たな敵……」
「かあえ、うごい、うごい」
慣れ親しんだ声にぱちりと目を開ける。すると私の目に飛び込んできたのは、先程消えたはずのガウ君が私の体を空中でキャッチしたのか、お姫様だっこのポーズで私を抱え、優し気に目を細めるガウ君だった。
「ガ、ウ…君…?」
呆然とした私の呼びかけに、ガウ君は「ぐるる…」と鳴くと一度だけ私の髪に頬をすり寄せ、そのまま近くの木に私を座らせた。…え?ガウ君が速過ぎて消えて見えたとか……そういうこと?
だとしたらガウ君、人間じゃ無いんじゃないの…?
「かあえ、やえて」
私を威嚇するように低く唸ったあと、ガウ君は私をまっすぐ見てそう言った。
…止めてって…?何を?
ガウ君は私の前で両手を出し、私を押し留めるように体を軽く押した。…止めてって何をやめ………ああ、そうか。ここでじっとしてって意味か!
思えば私がガウ君に止めてと言うと嫌そうな顔をしながら直立不動になっていた。それを見て私は何してるんだろう?と思ったが、あれは止めてを止まってと理解していたからだろう。
謎のアハ体験で脳からドーパミンが出ている。じっと両手を出したまま私の動向に目を光らせるガウ君に「分かった!」と返し手を振ると、ガウ君は正解!とばかりににこやかに鳴くと木から降りて行った。きっとあの花と戦うのだろう。
花はというと、先程から何度か私に向けて蔓を放っている。どうやら盗られた獲物を取り返そうとしているようだ。
しかしその蔓も呆気なくガウ君に引き千切られて地面に倒れてゆく。……ガウ君、あんな硬い蔓…素手で千切れるの……?
微妙な気持ちになりながら見守っていると、ガウ君が本体との距離を一気に縮めた!そのまま食べてしまおうと思ったのか、花はガウ君の頭上に口を持っていき勢いよく振り下ろした!
思わず声が出そうになったが、私の声に気を取られて花に食べられてしまっては元も子も無いので、悲鳴を飲み込み目を瞠るだけに留めた。
だが私の心配も杞憂だったようで、ガウ君はさらりとそれをかわし花の茎…胴体に蹴りを入れた。
「ぐぎゅんぐらあぁぁ!!」
叫びとも取れる音が花から響いた。花はよろめき、遅い歩みでガウ君から距離を取ろうとずるずる後ずさる。蔓があるから遠距離戦の方が得意なのだろう。
しかしガウ君がそれを許すはずもなく、掴むように花弁を1枚持つと思いっきり引き抜いた!
「ぎゅうるるぐぐぐぐるる!!?」
花から青い血のような液体が滴った。そうか!あれが急所なのか!!
もしかしたらあの花弁を全て取ったら死ぬのかも知れない!!これからの対処法にしようとガウ君の動きを瞬きを忘れて観察した。
「うがああっ!!」
雄叫びを上げガウ君は怯んだ花にまた蹴りを入れる。そしてまた花弁を抜き取った。花弁は残り3枚になり、何とも間抜けな見た目になった花は目に見えてスピードが落ちた。
そのまま全ての花弁を取ると、花は守るものが無くなり自棄を起こしたのか急に激しく暴れ出した!
「ひいいっ!!」
暴れた花から放たれた蔓が私の座る木の隣にある木に当たり砕け散った!!どんな威力してんだ!!
しかしガウ君はそれに怯えることも無く冷静に蔓の動きを見て躱していた。動体視力が半端ない。
…だが私の予想は外れてしまった。ガウ君が花弁を狙うからてっきり急所で全部の花弁を抜いたら死ぬのかと思ったら凄い元気だ。一体何をしたら死ぬの?
蔓が私とガウ君に当たりませんように。と祈りながら木に抱きつく。ガウ君はそんな私をチラリと振り返ると、口の中から何かを吐き出した。
「がうっ!!」
そう言ってその何かを花の口に投げ入れた!すると間もなく、花はぶるぶると震え発火しだし、火柱が上がった!!
「きょおおおくるるるああぁぁ!!!」
甲高い音を上げながら火の向こうに揺れる。やはり植物は焼かなくては死なないのだろう。
先程ガウ君が投げ入れたのは、ウサギの魔石だ。やはり人類って火で発展してきたんだなぁ…と、しみじみ痛感した私は1人腕を組んで頷いた。
そして呆気なく花は灰となり風に煽られどこかへと流されていった。
…ていうかさ、最初から魔石投げ入れれば良かったんじゃない?どうしてガウ君、わざわざ花弁引っこ抜いたんだろう?
もしかして絶え間ない苦痛を与えてから倒すタイプなのかな?とドSを通り越した何かを考えていると、ガウ君が私を抱えて地面に下ろしてくれた。
「よいしょ…ありがとうガウ君、かっこよかったよ!」
「あっこよあった?うー?」
「ああ…分かんないかぁ…なんて言えばいいんだろう…かっこいいー…ああ、だめだ浮かばない……えー…素敵!抱いて!みたいなやつだよ」
考えるのが面倒くさくなり適当な事を言う私にガウ君は健気にも「うえき?がいて?」と質問をぶつけてくる。止めてくれ、私はもうそれに対する答えを持っていない。
無言で首を振ってもうこれ以上触れないでくれと意思表示すると、ガウ君は首を傾げ考え込んだ。
そしてハッとした表情になると真面目な顔をして再度問いかけてきた。
「あっこよかった、おいいー?」
「…美味しい?」
訳が分からず聞き返すとガウ君はまた同じ言葉を紡ぎ、キラキラとした目で私の返事を待った…ええー……
ちょっと待って…かっこいいが美味しい?どういう意味?…かっこいいは素敵、勇ましい、みたいな意味でしょ?…で、美味しいが…美味?いやそうじゃない。えっと…感動?幸せ、素敵…………!
その時、私の体を電流が駆け巡った!
点と点が繋がるような感覚にぞわりと鳥肌が立った!ガウ君の言う意味が理解出来たのだ!!
つまりガウ君が言いたいのはかっこいいは美味しいと同じ意味か?という事だ。私が妖精液や球体を食べる時、ガウ君によく美味しいと言ってからお礼を告げた。つまりガウ君にとっては早い話がかっこいいはイエスか?という事だと私は考える。
ガウ君に美味しいという感情はよく分からないのかも知れない。ただこれは甘くて気に入っているとかの認識だと捉えると辻褄は合う。好き、嫌いの意味とも考えられる。
そしてガウ君の中では私が言う美味しいは好きだと理解しているのだろう。つまりかっこいいは叶は好きか?という意味、もしくはかっこいいと嬉しいか?という事になる!
深い!野生児深いよ!!まるで別の星に来た宇宙人のような意思の疎通の難しさ!検定があったら私が今の所ぶっちぎりでトップだ!そんな検定ないけど。
「うん!かっこいい、美味しいよ!」
「!がう、あっこいい!あっこいい、かあえおいいー!」
わーい!と万歳の体勢で花弁を両手に持ち走り回るガウ君。私は花丸を貰えたようだ。しかし今のガウ君はかっこいいというより可愛いだがそれは内緒だ。
とりあえずその花弁でガウ君に腰蓑でも作ってあげようかと考えていると、急にガウ君が思い出したかのように私の元へ走ってきた。
「どしたの?ガウ君、もういいの?」
「うー!…かあえっ!がおう!!」
すこしもじもじ体を揺らすと、ガウ君は私に花弁をくれた。…普通の花だったら可愛かったけど……あの化け物花の花弁か…
引きつった顔で花弁を受け取ると、ガウ君は自分の持っている方の花弁を私に向かって扇いだ。ちなみにこの花弁、あの花が5メートルくらいあるから花弁もまたデカい。スカートにしたらマキシ丈ぐらいのが出来そうだ。
「やだー、ガウ君扇いでくれるの?褒めて遣わす!なんちゃってー…」
可愛いなぁ、とのほほんと見ていた私は、その花弁から送られてきた風を浴びた瞬間驚愕に目をひん剥いた!




