第23話
「う…、っん……あ…あっ…?ああああああああっっ!!?」
「おあよぉ、かあえ」
ひりつく体に無理やり覚醒させられた私は、髪を撫でられているような気持ちよさに目を再び閉じようとしてある事に気付きピタリと動きを止めた。
髪を、撫でられていると…思ったけど…なんか違う…。嫌な予感がして薄目を開けて視線を恐る恐る違和感のあるこめかみ辺りに向ける。
…すると何という事でしょう。美少年が私の髪を舐めて毛繕いしてくれているではありませんか。
私、髪なんてこの世界来てから碌に洗ってない。しかも頭皮まで舐めてる。
私は前回の教訓から逃げるような事はしなかったけれど、衛生面での心配もあったのでガウ君を押しながら絶叫した!
しかし私の力では野生児に勝てないのか普通に力負けしておはようと言われた。そしてまた再開される毛繕い…
「……ガウ君…汚いからやめて。や、め、て」
「うー?やえて…ぐるる…!!」
歯を剥かれた。ガウ君はすっかりやめてが嫌いになってしまったようだ。そりゃそうか、あんだけやめての後に険悪になったらそうもなるわ。
過去の自分が悪いと遠い目をしてガウ君の毛繕いを大人しく受け入れる。文句は言うまい。するとガウ君は抵抗しなくなったのが嬉しいのか余計に舐めだした。
……まぁ…生き物の間ではコミュニケーションの一環だって言うから、私と仲良くしているつもりなのかな…
だがガウ君、耳は止めてくれ。
念入りに毛繕いされ別の意味で髪の艶が良くなった。そして涎臭い。
でもガウ君は今度は自分を毛繕いして!と強要しないので良しとする。現代っ子はちょっとした事で体を壊すのだ。
私の毛繕いが終わるとガウ君が木の実を持って私の周りに置いた。どうやら好きな物をお食べ。という事のようだ。……お姫様待遇だな、私…
しかしその中に見た事のない木の実があったので私はそれを手に取った。
…何だろう、これ…バナナに似てるけど…
紫の皮に守られた縦長の木の実があった。押してみるとなかなか柔らかい…
私がそれを選んだと思ったのか、ガウ君は残りの木の実を串にしだした。選ばれなかった物は今から焼いてくれるみたいだ。
正式に私の物になったので紫バナナの皮をむいて中身を確認する。全部虫とかいう事もあるかも知れない…!
ゴクリと生唾を飲んで一思いに皮をむいた!すると中から…!!
「……トウモロコシ…」
真っ黒なトウモロコシが現れた。というか真っ黒だからトウモロコシかも怪しい。虫の集合体かも知れない。
お歯黒のようなそれを皮越しに突いてみた。…トウモロコシにあるまじきブニブニ感。私の知るトウモロコシでは絶対にない。
だがガウ君がそのまま渡してくれたという事はそのまま食べられるのだろう。私は少し考えたのち、トウモロコシと同じように齧ってみた。ただし少量。
「…ええー…ポップコーンの味がする…」
ちょっと引いた。中は液体とも固形とも形容しがたい謎の食感。
そして中身はコーンではなくポップにした味だ。バターが欲しい。
何とも言えぬ微妙な気持ちで、同じく微妙な顔でそれを食べているとガウ君が並べた木の実の内の1つを私にくれた。
見た目はレモンのような…でも硬い…?
どうしろと?とガウ君を仰ぎ見る。するとガウ君は私からレモン似の木の実を取り上げると、これまたレモンのようにトウモロコシの上で絞り出した。
「がう!」
「あ、ありがとう…」
口に合わなかったらどうしよう…と考え微妙な感謝を告げた。得体の知れない物が多くて今更だけど怖い…
そのままガウ君は私がトウモロコシを食べるのを待っている…反応を見たいのだろう…
ただ、人間性だけじゃなく私はガウ君の味覚も信用しているので飛び上がる程まずいなんて事はないだろう。うん、無いと思う!!
自分を無理やり納得させてトウモロコシを頬張った!美味しくあれ!!
「もぐ………っ!?こっ、ポッ、ポップコーン!!これ本物のポップコーンの味だっ!!この木の実完全にバターじゃんっ!モノホンだ!!」
私はそのブニブニしたポップコーンに齧りついた!!味がバター味のポップコーンなのに口に液体が溜まるのがすごくシュール!!だが何故だか癖になるっ!悔しい!!
謎のレモンのような木の実は高カロリーを思わせるバター風味で、私はこの時なんかこの世界でやっていける気がした。だってバターあったら大体の事出来ると思わない?
結菜のは無理だけどクッキーだって頑張れば作れそうだ!
俄然やる気が出て食べ終わってからストレッチをした!ガウ君はそんな私を見て生温かい目をしていた。
いや…ごはんで元気になった訳ではないよ…
さて、現在夜。特に疲れてもない私は眠れず、ガウ君から借りたナイフで新しい武器制作に精を出している。
木でも木刀ぐらいなら作れるだろうという事でなんちゃって木刀を作ってみたのだが…これで合ってるのかな…?
木刀に鍔ってあったっけ…?真剣だけだった?まぁ…手も切らなそうだから作らなくてもいいか…
という事で刀の形をした棒が出来た。
……何とでも言え。私は私を誇っている。
やすりが無いので丁寧にナイフで表面を整えた。素人でここまで出来たら上出来だよ。
「出来たっ!見てーガウ君!!木刀作ったよっ!私1人で!!」
「うー?うがぁー!!かあえー、がおー!」
偉い偉いと頭を撫でられた。そうだろう!もうナイフで手が血だらけだが、それでも諦めずに頑張れたという事は私にとってとても大きな自信となった。
いつもは私の方が絶対年上なのに…!と荒れる所だが、この地において私の先輩は完全にガウ君だ。よそ者が楯突いて良い相手ではない。
それに正直褒められるのは嬉しい。思わずガウ君が撫でやすいように屈んでしまう。
するとそれに気をよくしたのかガウ君が両手でわしゃわしゃと犬のように撫でてきた!ペットか私は!!
だがじゃれ合っているような気分になり私もガウ君の髪をわしゃわしゃと撫で回し、2人で朝まで騒いで撫で合った。
「…朝になってる…」
ぼっさぼさの頭で太陽の正面を向き呟いた。やだ、寝てない…
ガウ君は寝なくても元気なのか、朝日に絶望している私を首を傾げて見ていた。
とりあえず朝の一杯として妖精液を飲んでおく。大体の事はこれで元気になるので私は躊躇いなく飲み干した。
…なんか可愛げ無くなったなぁ…私…
どんどん野生児化していく自分に不安を覚えながら口に付いた妖精液を拭う。何だか元の世界に帰った後、イノシシとか捕ってきそうだよ…
朝日と共に尿意をもよおしたのでガウ君を連れてトイレに向かった。ガウ君に見られてのトイレの方が昨日の悲劇より遥かにマシだ。トイレ中に触ってきたりしないし。
花はトイレをしないからか私があともう少し…と思っている際中に足を引っ張ってきた。あれは悪質!
嫌な事を思い出し苦い顔になる。そしてガウ君に念のため一言かけた。
「ガウ君、こっち見ないでね」
「おーちいないえ?いない、え?」
「こっち!湖の方!見ないで!目を隠して…振り返って!!」
「うー?」
純粋なガウ君は言われたまま目を両手で覆い後ろを向いてくれた。それにありがとうと言うと、自分のとった行動が正解だと分かったのか背後を向いたまま揺れ出した。
私はその間に用を足す。あ、しまった!目を隠してもらうより耳を塞いでもらった方が良かったか!?
しかし私が万一花に襲われ助けを求めても聞こえなくては意味が無いので音は諦める事にした。命大事に。
用を足し終わると、急いでガウ君に近づくために立ち上がる。こういう時、下着が無いと本当に早く立ち上がれるんだけど…喜んでいいのか分からない…
「ガウ君、お待たせ!もういいよ。終わり」
「おあり?うー!」
ガウ君は終わりをちゃんと理解してくれている。水浴びをして濡れたガウ君の髪を乾かす時に終わり、というので覚えたらしい。発音はまだだけど。
終わりを聞いてガウ君が振り返って目を覆っていた手をゆっくり下ろす。その下に隠されていた目はどこか不安げだ。自分が間違った行動を取ってないか気になっているらしい。
私はガウ君の前で彼が安心出来るようににっこりと笑った。
「そうそう!凄いよガウ君天才だねっ!これからもそれでよろしくね!」
「うごい?ガウうごい?うー!!がおーっ!!」
私がパチパチと手を鳴らし、凄い凄いと褒めるとガウ君は目に見えて舞い上がった。ガウ君は凄いと拍手が大好きだ。
こんなに私の言葉を理解してくれているガウ君だが、私だって負けてはいない!彼に出会ってから幾つかガウ君の言葉を私だって理解しているのだ!
例えば「うー!」これは文字に起こせば全部同じだが、ニュアンスによって意味が変わるのだ。
「うー!」ならやったー!的な言葉。「うー?」なら何が?的な言葉。「うー…」なら理解できない、みたいな時の言葉だ。
なのでガウ君と一緒になって私も両手を上げて「うー!」と言ってみた。私だって学習してんだかんなっ!!
「ひゃあっ!ちょちょ、ガウ君!?」
すると私の行動にテンションが上がったのか目をキラキラさせてガウ君は私を抱き上げトイレを回りだした!いや待ってノーパンなの私!!
だがそんな事をガウ君が気にするハズもなく、全裸少年はノーパン女子を抱えてくるくると回りだした。
ちょ!靡く!!セーラー服が可憐に靡くっ!!
流石に長いのでガウ君の肩をぺちぺち叩き下ろしてもらった。
……ふぅ…安易にガウ君の前で同じ言葉喋っちゃだめだな…




