第22話
「寒い寒い寒い死ぬ死ぬ死ぬ…」
現在裸で森を爆走中。液体に濡れた体に風が当たり体が震えたが、私はそれに足を決して止めず守りを捨てて洞窟へと全力で走った。
…一体あの花の中で何があったのか。簡単にお話ししよう。
まず私は花に食われた。花の中はウツボカズラのように私の胸辺りまで液体が溜まっていた。
入った瞬間にトイレのように体が溶け出すのかと思ったがそんなことも無かったので私は媚薬の方だと安堵した。だが、そうだったとしても私は絶対ここから出る!!植物如きにやられてたまるか!!
内面から私は全力で右ストレートを決めた。ついでにアッパーもかましてみたが、花が私を吐き出す気配がまるでなかった…圧倒的な力不足。
そして私は登る事を考えた。某番組で見た足と腕の力だけで壁と壁の間を渡るというのをしてみようと死ぬ気でやってみた。
結果、私の日頃の努力の賜物か中腹辺りまで登る事に成功!人間死ぬ気でやれば何とかなるものだ。
しかし無常…私が上がって来ている事を察したのか花が中の壁をくねらせ、私は呆気なく粘液に落ちた。
これはもう私1人ではどうする事も出来ないと、非常に迷惑ではあるがガウ君に救助の要請をする事にした。
ひたすら粘液の中でガウ君を連呼した。耳の良いガウ君が近くを通りかかればきっと聞こえるはずだろう。…ただ、この花の中が防音でなければ…!
必死にガウ君を呼び続け声が枯れてきた頃…私はやっとその異変に気付いた。
透明だった粘液が白く濁ってきた。
何だろうと粘液を手で掬い上げた瞬間私は声にならない悲鳴を上げた!
服が溶けて無くなっている!!
しかもじっとしてたら分かるけれど肌がヒリヒリするっ!!酸性だ!!この粘液っ!
粘液との接地面が少ないからか、胸より上のジャージ部分はかろうじて残っているが、それより下は見なくても分かる。もう下着の感覚すらない。
いけない!本当に生きたまま溶かされる!!私は無駄な抵抗と知りつつパチャパチャと粘液を叩き暴れた。
絶望の最中、暴れる度に耳に届くガサガサという音。その時私はある事を思い出し、急いでそれを胸ポケットから取り出した!
そう、私の最終兵器…結菜のクッキーだ。
あのムカデ事件の後、このクッキーはこの世界でも使えると知った私はもしもの時の為に肌身離さず持っていたのだ。
思えば妖精の時とかウサギの時とかにも投げれば良かったと思ったが、まさかこれほどの致死率がある劇薬とは思いもよらなかった。
…もしかして私、結菜に嫌われてんのかな?
その劇薬があと残り4つしかない!!もしこれを全て溶かされてしまって助かったとしても、私はこの後戦う術を持たないので袋から1つだけ取り出し粘液に落とし両手を上げて残りのクッキーを守った。頼む!効いてっ!!
私の願いが届いたのか、それは思いのほかすぐに来た。
くぐもった音が内部に響き、地震のように周りが揺れ粘液が波を作り出した。
そして段々と粘液の水位が上がりだし、私が息を止めた瞬間体が押し流されるような感覚に私はギュッと目を閉じた。
結果はご覧の通り粘液花を倒し、私は何とか助かった。首元にだけジャージを残し丸裸の私は中途半端に花の中心から出た体を匍匐前進で進み這い出た。
振り向いて見えた花は黒ずんでとてもじゃないが花には見えなかった。……結菜、あのクッキーに青酸カリでも入れたの…?
そんな訳で私は今森を裸で突っ切っている訳です。とりあえず体を洗いたいです。すごく痛いので!!
しかし良かった所もあるといえばある!なんと全身脱毛がなされていたのだ!!
ここに来てから当たり前だがムダ毛が生えて困っていたのだ。…いや…誰に見られるでもないけどさ…
もうこの際下着と替えの服が無くなったのは良いとしよう。命が1番大事だ!それに制服はまだ残っている。
他の生き物に見つかる前に何とか洞窟に辿り着き、私は頭から水を被った。処置が早かったからか肌は赤く焼けた程度で済み、私は心の底から安心した。体が溶けてたら流石に怖い。その体で生きていける気がしない。
水洗いでも粘液ってちゃんと取れるんだな、と感心していると私の背中を誰かが撫でた!!
「かあえ?ぐぅ…」
「ぎ!ぎゃああああああっ!!ガウ君向こう向いて!!危険!近づくな!!」
当たり前だがガウ君だった。お出掛けから帰ってきたらしい。そして私の肌が赤い事を心配してか患部を確認してくれている。
…だが現在丸裸なのでいくら自然に身を任せると決めたとしても、男の子にあられもない姿を見られるのはご免被る。私は葉っぱの中に逃げ帰り近寄ってはいけない、と何とかガウ君に伝えた。
するとこの数日でやっと通じ合えたのだろうか?ガウ君はしょんぼりするでもなくじっと私を見た後また洞窟を出て行った。
「ふぅ…焦った…でも全身の毛も無い状態は親でも恥ずかしいよ…」
そこまで野蛮にはなれない、と自分に言い訳してみる。だがいつまでもうだうだ言ってはいられない。焼けた肌に葉っぱが刺さって地味に痛い!
私は絶対失えないものリスト入りを果たした制服を大事に着ていく。…下着が無くなったから胸が透けるな…しかももう屈めない…。失くした下着が今になって胸を抉り私は視界がぼやけた。
あんな可愛さしか重視してないような下着でも無いよりは良かったんだよ…!!
「……はぁ…スッキリした…」
しばらく泣くと不思議とスッキリしてポジティブになった。そうだよ!下着が無いなら作ればいいじゃない!木の実のブラジャーとかイカしてるじゃん!!
若干ネジが取れたような気がしないでもないが、胸が痛まなくなったので良しとしよう。それに元々無かったと思えば大したことはない!
「ははははははははっ!!パンツがどうした!!そんなもの、火付けの役にも立たないっ!葉っぱでも貼っとけ!!」
はははは!!と大声で笑っているといつの間にかガウ君も帰ってきたのか合唱に参加してきた。私がガウ君に気付き笑うのを止めるとまた何かの薬を私に手渡した。
前回と違って粘り気のある透明な色をした薬に、数分前の粘液を思い出し、身震いするように体が震える。
「ガウ君…それって飲むの?」
「うー?うがぁ」
水を飲むような動きで問うと首を横に振られた。…塗り薬か。溶解液焼けに効く薬をガウ君はどこかから取ってきてくれたらしい。
何と優しい!自然治癒を信じる程ガウ君は野蛮ではなかったようだ。
ありがとうと言って薬を受け取り患部に塗った。ひんやりして気持ちがいい…アロエみたいなもんかな?
そして安静にしろという事か、ガウ君に寝かされ私は身動きが取れなくなった。
ガウ君は見張るように洞窟の前で私を見ている。大丈夫です、流石にもう出掛けようという気分にはなりません。
ガウ君的には帰って来ると私が食われそうになったり、怪我してたりで信用ならないんだろうな…面目ない…。
大人しく葉っぱに包まると、最近風が冷えてきたからかガウ君の葉っぱまで私に掛けてくれた。薬で寒くなってたのでありがたい。
私は包まりながらこれからについて考えた。
もう服は1着になってしまった…おまけに結菜のクッキーも残り3つだ。ここに来て10日程…流石に消費が早い。ゆっくり筋トレなんてしている場合ではない。
明日にでもガウ君付き添いの下、妖精でも狩る練習をさせてもらおうと思う。1人では絶対嫌だけれど、ガウ君がいれば何かあっても大丈夫だというこの数日の実績があるのでチュートリアルとしてガウ君には面倒だろうが同行して頂こう。
私は図々しくもそんな計画を練り寝返りを打ってバッグを見た。
…スマホ…これについてはまだまだ考えなくてはならない。きっと帰るカギはこのスマホだろう。
本来こういう異世界に来たら元の世界との繋がりなど無いに等しい。それがまさか元の世界からメールが届くという事は、このスマホが元の世界と繋がっているという事だ!だってこの世界に電波なんて無いし!!
期待に胸がバクバクと音を立てた。聞こえていないだろうけれどそっと後ろを振り返ってガウ君を見た。
ガウ君は眠いのかウトウトと船を漕ぎながらたまに起きたりを繰り返していた。私はそれを確認してからもう一度スマホについて考えた。
…まず何故いきなりメールが表示されるようになったのか。私がジャージを初めて取り出した時は確かにメールなんて届いてなかった。ではいつ届いたのか…。
「あ…」
思い出した。今朝私が新しい虫だと思った音…あれは私の着信音だ。非常に奇妙な音だったので虫かと思った。
あれに変えてから間もなかったので虫と勘違いしてもしょうがないのかも知れない。
そもそもあれは私と結菜と沙織の合作だ。この間授業で作った着信音を3人で使ってたのだ。
私と沙織が考えてほぼ完成したメロディーに結菜が余計な事をして奇妙な音になった苦い思い出の着信音だ。
それを思い出し何となく懐かしい気持ちになる。…懐かしいと思う程過去の事になったのだと思うと少し寂しくなった。
…だがそれが着信音だとすると、スマホが受信したのは朝だったという事だ。
勿論その時虹が二重に見えたとかいう特別な事など何一つ無かった。…別のきっかけがあるのだろうか?
むむむ…考えれば考える程分からなくなる…!だって異世界に行くっていう事自体説明もつかないしきっかけだって分からない。それを理解出来なければ帰れないんじゃないだろうか?
…ちょっと帰れないの考えてぞっとした…やめよう、私は今ポジティブになってるんだ……なってるんだ!!
自分に言い聞かせて考えを頭の隅に追いやった。ここにずっと居るなんて…!言葉も通じないし娯楽も無いのに無理だよ!今だって朝の10時くらいだろうけれど怪我したら寝る以外やる事無いのに!!
やっぱり早く怪我を治して妖精狩りに連れていってもらおう。と野蛮な考えをして、早く怪我が治るように無理やり寝た。




