第20話
あれからさっきのコスモスのような花が咲いていた所に案内してもらった。
何と絶壁のど真ん中に咲いていて、私は思わずガウ君を見つめた。
…私の為にあんな所から取って来たのか…いや、ガウ君からしたら造作もない事なんだろうけども。
見つめていると催促していると思われたのか、もう一度登ろうとし出したので慌てて止めた。無いと思うが目の前で転落死はやめて欲しい。
そして現在洞窟。実家のような安心感を感じながら私はガウ君の手伝いで串に木の実とウインナーを刺していく。
ちなみにガウ君は魔石を採取しに出掛けた。
私が刺し終わる方が早かったので手持ち無沙汰で洞窟を徘徊する。後々私もあの化け物から魔石を取れるような女になるのだ!
「ほっ!ほっ!ほっ!」
実に絶望的な野望を抱き軽快なステップで徘徊していると、不意に視界の端で何かが点滅しているのが見え、私はその場で足踏みをした。
「えっ、何……はっ!?あそこは私の鞄置き場っ!!まさか新たな虫じゃないでしょうね!?串焼きにしてやる!!」
私はウォーキングを一時中断しバッグに飛びかかった!だが虫は鞄に潜り込んでいて、鞄の中で点滅しており、私の奇襲は失敗に終わった。
…何なんだろ、この虫……蛍系か?
ゴクリと唾を飲み込み、網を片手に自分でも目で追えぬ速さでチャックを開け飛び退く。……が、一向に虫は飛び出さなかった。
疑問を抱きつつも思い切って中を開けると光っていたのは私のスマホだった。
私はそれに気付き、止めていた息を吐いてへなへなとその場に座り込んだ。
「ビックリしたぁ~…ほんと止めてよね…ガウ君居ない時に新種の虫かと思って心臓バクバクしたじゃない………ってえええっっ!?すっ、すすスマホが何か受信してるっ!?うそ何でっ!!」
一旦座って休んでいた体を再び可動させ鞄からスマホを取り出す。すると画面に48%の電池と、思いもよらぬメッセージが書いてあった。
“メールの新着があります 154件”
「…はあっ!はあっ…!………新着……っ…!!」
思いもよらぬ文字に私は過呼吸を起こした。
だって、嘘…!新着って……!!
私はゆっくりと息をするように心掛け、震える手で画面を指で突いた。
うそ、何で…おかしい!だって、今だって圏外なのに!時間だってっ…表示されてないのに…!!
冷や汗をかきながら瞬きもせず新着の内容を確認する。
すると、表示された縦に順番に並ぶ送り主の名前を見て私は気付けば涙を流していた。
「お…お母さん…!お父さん、お兄ちゃん…沙織っ、結菜っ…!!」
瞬きもしていないのにボロボロと零れる涙で視界がよく見えない。
だが一度拭ってクリアになった視界で再度見ても、そこに映っているのは変わらず私の大切な家族と友人の名前だった。
私は制服に何度も涙を吸わせて1件目から全てメールを開けた。
“叶!カップケーキ上手く焼けたから叶にもあげるねぇ!また感想聞かせてね?あと、久世川君転校するんだって~…さみしいよ~っ!!”
“叶、結菜からカップケーキくれるってメール来たけど叶はなんて返したの?こういう時、本当の事言ってもいいのかしら…?もう部屋にカチカチのカップケーキ3個も溜まってるのよ…どうやって処分すればいいと思う?”
“今日の夕飯、お兄ちゃんが麻婆豆腐がいいって言うから麻婆豆腐にしたわよ。あんた帰り何時になるの?早く帰ってこないとお兄ちゃんに全部たべられちゃうわよ”
“叶?今日は延長なの?お兄ちゃんが叶が遅いなら叶の分も食べるって言ってるわよ。もうすぐ着くならメールして”
“叶あなた今どこに居るの?お店はもう閉店の時間でしょ?電話にも出ないし何やってるの?”
“叶忙しくてもメールかラインだけでも返して!お兄ちゃんが探しに行ったからメール出来るなら早く返して”
“お前今どこ行ってんの?”
“叶、お母さんから連絡来たけど帰ってないの?帰りたくない理由あるなら私も聞くからメールして?”
“叶、お母さんから連絡が来たわ。どうしたの?せめて空メールでも良いから安否確認としてお母さんに送りなさい。捜索願出されるわよ”
“叶返事して”
“お父さんだ。叶。お父さん今車で駅前に居るから近くに居るなら来なさい。お母さんも隆志も心配してるよ。帰ろう”
“叶、そこに誰かいるのか?”
“何でラインも既読付かないの?もしかして今読めない?”
“叶電話出て”
私はその瞬間声を上げて泣いた。
154通のメールはその先もずっと同じ内容だった。
確認すれば私の捜索願を出してもうすぐ10日になるらしい。…私が来た日と丁度合致する。
メールだけでなく着信も同じように大量に来ていた。
サービスに入っていなかったので留守電などは聞けず私は何度もメールを読み返した。ラインは起動しなかった。
「うっ…うっ…皆ぁ…!私、生きてる…っ!生きてるよぉ…っ!!」
聞こえないのにスマホの前でそう繰り返した。死んでないよ。ずっと違う世界で生きてる…助けてもらったの…
こんな時真っ先に異世界に行ったと言い出しそうな結菜ですら誘拐を疑っている。そりゃそうだ。本当に異世界なんて行ったと思う人間なんていない。だって行方不明者は大概死体で見つかるものだ。現実的ではない。
『叶っ!沙織っ!私が居なくなったら異世界に行ってるって事だから探さないでね!!私幸せに逆ハーレム築いて楽しくやってるから!』
馬鹿みたいに笑う友人の顔が思い出されて再び視界は歪んだ。
…結菜のバカ。逆ハーレムなんて無いじゃん。食うか食われるかだよここは。
探さないでよ。もう戻れないかも知れないのに。何で心配するのよ。私の事捨ててでも異世界に行きたがったくせに。
ああ、痛い。苦しい。胸を掻くように足掻いた。
…そうだ、帰らなければ。家族が…友達が待っている。帰らなければ。
本当はここで死ぬまで暮らすのだと思った。でも家族にも友人にも、いつまで私を探させるのだろう?
私が諦めたとしても皆はそれを知らなければずっと捜し続ける。そんな苦痛を与え続けるの?
…そんな事は出来ない。だって、そんな不幸な話があるだろうか?帰らない人をいつまでも待ち続けるなんて、それは…そう。地獄だ。
そんな事、愛する人達に負わせていい苦痛ではない。私は涙を再び拭い、言い聞かせるように、決意を確立するように呟く。
「……帰らなきゃ…」
「かえう?」
背後から突然聞こえた声に思わず飛び上がった。振り返れば一対の碧眼が私を穴が開くほど見つめていた。
ガウ君は私の言葉を復唱すると目を見開き固まる私に首を大きく傾げ、もう一度「かえう?」と聞き直した。
「え…っと…」
何故か気まずくて下を向いてしまう。そもそも元の世界に帰るという事をどう説明すれば良いのかも分からない。
無言で下を見続ける私をガウ君は何も言わずに洞窟の奥に座らせた。
そして火を点け何事もなかったかのように私に串を差し出してくれ、その行動に私は安堵した。
…何故か、ガウ君には元の世界に帰ると言いづらかったのだ。
そしてその日の夜はよく眠れなかったので、ガウ君が寝静まった頃を見計らいスマホの事について考えた。
…分からないのだ。確か私がこの世界に来て最初の頃から、スマホは圏外になっていた。それは今だって変わらない。では、何故今更まとめてメールが届いたのか。
気になり圏外ではあるがお母さんに“私は元気だよ”とメールを送る。
しかしやはりと言うべきかメールは届かず私の元へ帰ってきた。
やっぱり、とそれに目を閉じ深く深呼吸をすると、もう1つの疑問が浮かび上がった。
「……電池も…おかしいんだよね…」
ぼそりと呟き電池の残りを確かめる。45%……2%しか減っていない。しかも今ずっと見つめていても電池を少しも消費しない。これは一体どういう事だろうか?
正直もうとっくに電池など切れていると思っていた。しかし私の予想に反し電池は全く減らない。
試しにカメラを起動してみたがカメラモードでも減らない。音楽はガウ君が寝ているのでやめた。
「……うー…かあえ…?」
「あっごめん、ガウ君起こしちゃった?」
スマホの光でガウ君が起きてしまった!音楽以前の問題だと私は自分の頭を殴った。
急いでスマホを仕舞い葉っぱに潜る。考えるのはまた今度にしよう。
すると夜中に起きてしまい不安になったのかガウ君がピタリと私の横にくっついてきた。
ちょ…全裸少年と隣でくっついて寝るのは…
「ガウ君…ち、近くない…?」
「うー…うー…ぐるる…」
また猫のように喉を鳴らしてすりすりと私に頭を擦り付けてくる。
しかしガウ君、自覚は無いのだろうがそこは私の米粒程の胸があるのだよ。
だがガウ君は何も引っかからないからかすりすりし続け疑問を抱かない様子。
………私は現実の悲しみから逃げる為に夢の世界に逃げた。




