第15話
「ねぇ、ガウ君。私森を探検したいんだけど、付いて来てくれる?」
私はガウ君に手を合わせてお願いした。
つまりあれだ。戦いとは敵を知って初めて戦い方を知るのだ。まずこの森の事を私は知らなければならない。手始めに地理の把握だ。
お供が居なければすぐに殺されてしまいそうなので、この森に何年も住んでいそうなガウ君にお願いした。私がガウ君を心配するなんて逆に無礼だよね、小物のくせにさ。
フンッ!と憐れな胸の抉れた棒人間のような女を想像して鼻で笑う。
現代の知識を捨てると自分がよく見えてきた。2歳ほどの歳の差に縋るなんと愚かな女か。
そして言葉どころか物も知らないときた。まるで向上心がない。ガウ君を見習わねば。
そんな決意の下お願いすると、ガウ君は首を傾げながらも付いて来てくれた。多分危ない所とかあったら私にすぐ注意してくれるだろう。今までの経験上、ガウ君は危ない所に私を置き去りにはしないようなのでそこは信用している。
私はキャンパスノート片手に洞窟を出た。まずは地図の作成だ。
森には道らしい道がないので、近くにあった変な色の植物とか岩とかを目印にしてスラスラと簡易的な地図を作る。妖精の住処とかは絶対書いておかないと…!
私が書いていると暇なのか、ガウ君がしきりに何かを私に見せてくる。と言ってもただの葉っぱだ。
「その葉っぱがどうしたの?」
「かぁえ、ぐぅあう…うー」
なにやら私の足を気にしている…はっ!まさかこの火傷の湿布みたいな葉っぱはこれ!?何、もしかして新しいのに替えろって言ってるの!?
私はガウ君から葉っぱをひったくった。また舐められでもしたらたまったものではない!!
「あああありがとうねガウ君!後で!後で自分で貼るからっ!!ねっ!」
「…がぁ…」
なんだか納得いって無さそうな声で鳴く。疑問形ではなかったので理解はちゃんとしてくれているようだ。
……でも念のため帰ったらガウ君に指摘される前に取り替えよう……
「あっ!ここって行き止まりのとこだね。ガウ君と初めて会った」
私の目の前には巨大な大木が立ちふさがっている。天にまで届きそうだ。
この辺りに来たという事はここは妖精の縄張りの範囲なのだろう。確かに妖精以外敵が居ないから安全だけど……ガウ君、行った事無いとこに案内してよ。過保護が過ぎるよ。
たぶん何度も襲われている私を心配してここに連れてきたのだろう。妖精はガウ君を怖がっているのか私達を遠巻きにして近づいて来ないのが見える。
……っていうかビービ―鳴いてる……私が1人になった瞬間食べるつもりだな…
そうして妖精の視線を感じていると、ガウ君がまた葉っぱを持ってきた。
「がぁ!ぐるる…ぐぅあ!」
「わっ!?ちょ、どしたガウ君っ!?」
思いっきり葉っぱを頭にかぶせられた。
葉っぱを持ったガウ君は急に歯を剥いたと思うといきなり私に葉っぱをかぶせてきたのだ。しかもめちゃくちゃデカい葉っぱだ!
私の頭もすっぽり入り、網目越しに見えるガウ君が私に罠を仕掛けたように見え、笑顔のガウ君をジロリと睨む。……ん?網目?
かぶせられた葉っぱを取り観察すると、その葉っぱはガウ君が妖精を捕まえる時に使用していた葉っぱだった。元からこの形で生えてるの!?
ガウ君にこの葉っぱの木を見せてもらうと、全ての葉っぱが網目状だった。葉脈だけの葉っぱみたい……
どうやら先程ガウ君は、この葉っぱで敵を捕まえられるよ!とやっていたみたいだ。なるほど、親切。
しかも強度もなかなか。妖精が出られないだけの事はある。まるでネットのようだ。
……その時少しひらめいた。
このネット使って魚とか獲れるんじゃない?
獲れるよ、てか絶対そう!!何ならあのムカデもいけるんじゃない!?あ、溶解液出されたら溶けるわ……。
とはいえ、こんな便利な道具持って帰るに限る!この先ムカデ以外が出た時はこれで対処だ!!
そう思い立ち葉っぱをいくつか採取して帰る事にした。木は背が高く絶対に取れないのでガウ君に取ってもらう。…私も木登り覚えないとなぁ…
「ーで、ここが洞窟で……こっち行ったらトイレ……で、妖精の住処……」
ぶつぶつ言いながら最終確認をしていく。今日教えてもらったエリアはこれだけだ。新規の場所は教えて貰えなかったので後日に期待だ。
「うーがっ!かぁえー!がおぅ!」
振り返るとガウ君が手を振って呼んでいる。何かまた見せたいものがあるらしい。
私が付いて行くと、そこはあのウインナーが埋まっていた畑だった。そうだ、ここも書いておかないと…
私が畑を書き込んでいるとガウ君はせっせと土を掘り返し始めた。ウインナーを収穫するのだろうか?……って、そこは…
「ガウ君、そこは肥料埋めた所だよ。ムカデが出るからやめなさい」
昨日、初代ムカデを埋めた所を掘り進めるガウ君に注意する。あのムカデ、なかなかデカいんだよね…
しかし聞こえていないのか一心不乱に掘り続けるガウ君はそのままウインナーを探して掘ってゆく。
するとムカデを掘り当てたのか「がお!」と鳴くとガウ君は私を振り返った。
「いや、いいよ。戻してきなさい……はっ?」
目が取れるかと思った。それほど私は目を見開きそれを見つめた。
そう、ガウ君の右腕に掲げられた見覚えのあるそれ。名をウインナーという。
……嫌な予感に汗が止まらない。というか何故気付かなかったのか。私は心労が祟りその場で膝をついた。するとガウ君はウインナーを手にしたまま、項垂れた私に走り寄り心配そうにがうがうと言っている。
しかし私はそんなガウ君よりも彼の手の中にあるウインナーにくぎ付けだ。だって…
「私っ…妖精だけじゃなくて、ムカデも食べてんのかよ…っ!!」
どこも痛くはないのに涙が止まらない。人はこれを悔し涙と呼ぶ。
意味わかんない!だってウインナーじゃん!!プリっとしたウインナーじゃん!!
何でムカデが牛肉の味すんの!?そもそも土に入れてなんでムカデがウインナーになるのっ!?ってかビーツみたいな色してる時点で気づくべきだった!!いや気付かんわ!!
悲しみのままガウ君を見上げると何故か変顔をしていた。……何やってんの…
「ガウ君…何やってるの…?」
「うぐぉあ~!えひゃあ~」
訳が分からん。…もしかしてあやされてる訳ではあるまいな?それは子供を通り越して幼児扱いだ。さすがに容認できない。
「あの、私子供じゃないからね?ガウ君」
「う?がぁ!かぁえ、がうっ!」
泣き止んでずっと変顔をし続けるガウ君に事実を述べると、良かったー!みたいな顔で清々しく達成感に溢れた顔で笑うガウ君に推測が確信に変わった。本当にあやされてた…
二重のダメージを負い、泣いてやろうかと思ったがその安易に泣く所が幼児だと思われている原因なのかもしれないのでうざい顔をしている結菜の顔を思い出し耐えた。
そもそも向こうではそんなに泣いた事ないんだよ、私。この世界だと不安なのか気付けば涙が出るだけで。
ガウ君の変顔を見たからか、先程のムカデショックもどうでもよくなってきた…妖精食べてて何を今更現代人みたいな事言ってんだ。現実見ろ現実。
「かぁえ、うー!うー!」
涙を拭いガウ君からウインナーを受け取ると何故か頭を撫でられた。絶対年下だと思われてるじゃん……
「…ガウ君、私年上だよ。ガウ君より」
「おいうえ?」
「………もういいよ…」
ひたすら撫でられながら聞き返され私は脱力した。ええそうですね。何言ってんだって話ですよね、忘れて下さい。




