第13話
夜になると流石に冷えてくる。特に洞窟は気温が低く、隙間風も多いのでかなり寒い。
ガウ君が火をおこしてくれなかったら今頃私は死体と化している事だろう。ありがたいが…何とも情けない。
ガウ君は寒さに慣れているのか、全裸で硬い木の実をくり抜いて新しい器を作っている。
私はというと土器を作ろうかと考えたが、粘土が見つからなかったので断念した。こんなんばっかだな…。
ガウ君は職人気質なのか作業に入ると一切喋らなくなるので今すごく暇だ。しかし居候の分際で家主の邪魔など出来るはずもないので私は大人しく教科書を読みこんだ。まだ現代科学を諦めてはいないのだ。
「くそー…ウランなんてどうやって採取すんの……ん?」
科学の教科書を読みこんで代用できる物は無いかを探していると、どこかで見たような情報が書いてあるのを発見した。
“可燃物の危険性と利用法”
可燃物……嫌な事を思い出した。私は苦々しい気持ちでそのページを読む。
「何…えっと……ええっっ!?待ってよ嘘でしょ!ウールじゃなくてスチームウール!?どこにあるんだよそんなモン!!しかも静電気じゃ火点かないじゃん!おま、先に言えよ役立たずっ!!」
私は教科書を地面に叩きつけた。
つまりあれだ。私はしなくて良い苦労をして1枚しかないパンツの生地を刈り取りムダに静電気で苦しんだだけだった。何だそれ。
怒りに髪をかきむしると毛が一気に14本くらい抜けた。絶対ストレスだ。
くそっ……!!何が現代科学だ。そんな偉そうな事言うなら金でも錬金してみろよ。魔石って知ってるか?無から炎を生み出せんだぜ?ライターさんよぉ。
お前も燃料が無くなったら買い替え時だったなぁ?見てみろよ魔石、持ち主の魔力が枯れるまで燃え続けるらしいぜ?(結菜情報)おまえ、用なしだよ。私と一緒で……。
「ちくしょーっ!!」
私は泣いた。誰だ現代知識で無双とか言ったやつ!!全然役に立たないじゃないかっ!!
一般人が銃の構造どころか弓の作り方知ってる訳ないし!そもそも知ってたら誰か殺す気満々じゃんっ!!
石鹸?んなもん作れるか!!個人の力でジャングルの木の実だけでどれだけの油が取れると思ってんだ!!料理にも使えんわ!そんな少量の油!!あと油の他に何入れるのか分かんないし!!
しかも油って種から取るんでしょ!?ここの種、勝手に歩くんだよ!!そんな種潰して油なんて取れないよ!!
「うおおおおおんっ!!」
「うお――――――ん!」
私が泣き声を上げていると、ガウ君が遠吠えだと思ったのかいきなり遠吠えをしだした。
一瞬イラっとしたが、ガウ君は無意識に言っているようで目線は木の実に向かったままだった。だがそれが余計に悔しくてさらに泣いた。
「うおおおおんっ!!くやしいよおおおっ!!」
「うお―――ん!うお―――!」
じたばたと暴れながら号泣し、異世界の夜は更けてゆく。
深夜、草木も眠りガウ君も隣で就寝しようと寝転がるプライベートなど皆無な空間で、落ち着きを取り戻した私は日記用にと定めたキャンパスノートを広げ、心の内を綴った。
只今この世界に来てから4日目。まだ1週間も経っていないが、私の精神状態はかなり危険な所まで来てしまっている。
せめてこの世界で自分にもできる何かを見つけて自尊心と安心感を感じなければ、私は早々に廃人になってしまうだろう。
私はやっと覚悟した。現代の知恵を捨てる覚悟を。
こんな役に立たない情報に縛られているからいつまで経ってもガウ君の扶養から抜け出せないのだ。即ち1人でこの森を抜ける事が出来ない。
ガウ君が居なくなった後でも1人で生きていけるだけの生活力を身につけなければならない。最悪ここで生涯を終えるのだ。腹を括らなければ。
私はノートに決意を書き、不思議そうに私の書く文字の羅列を見つめるガウ君に目を向けた。
「いっぱい助けてくれてありがとうね、ガウ君」
「あいがと?うー?かぁえ、あいがとー!」
本当に意味が分かっているのか、キョトンとした後に私にありがとうと言うガウ君に、私は自分の顔が綻ぶのを感じた。
「そろそろ寝よっか。おやすみ、ガウ君」
「おやうみー?うー?……おやうみーかぁえ」
私が目を瞑ると、意味を理解したのかガウ君は最後に私におやすみを言ってくれた。
その言葉を聞きじんわりと心に何かが広がるのを感じながら私は眠りに落ちた。
「ピピピピピピピピ」
嫌な予感と共に私は目覚めた。デジャヴを感じる。
薄く目を開けて音の方向を見てみると、やはりというかショッキングピンクのムカデがいた。
「ピピピピピピピピ」
私が目覚めぬ事に余裕を見せているのか、ムカデはまた私の傍で鳴き出す。きっとバカにされてんな……バカにすんなよ!こっちには野生児ガウ君が居んだからな!!
と私が隣で眠るガウ君に同意を求めるように目を向けると、隣どころか洞窟自体にガウ君の姿が無かった。
やだ!食料取りに行ったの!?私このムカデと2人っきり!?
…いや?これはチャンスではないか?
飛び起き逃げようとしていた私は、飛び上がった体勢のままムカデを凝視して固まった。
そうだ。私1人でこのムカデを退治するんだ!そしてガウ君に頼もしい所を見せて自尊心を高めよう!
ムカデは正直怖いけれど妖精とかに比べれば変な声で鳴くだけのただの虫なので私1人で十分だ。そしてこの洞窟の留守を守る係としてガウ君から信頼を勝ち取り、職を手に入れるのだ!洞窟警備員!!
「うおおおおっっ!!」と雄叫びを上げ決意を抱き私はムカデに立ち塞がった!
こちとら幾度も死の危険を乗り越えてきた移転系女子高生だぞ!虫如きが図に乗るな!
「かかってこい!捻り潰して畑の肥料にしてやる!!」
「ピピピピピピ……ポポポ」
「!!?」
私がファイティングポーズを取って高らかに宣言した瞬間、奴は初めて鳴き声を変えた。私の全身に鳥肌が立つ。
姿を変えるでもないそのムカデは明らかに動きが変わった。先程のただ鳴いていた姿と打って変わって、上半身を起こし臨戦態勢だ!
…勝てる?よね…?
一抹の不安が脳裏をよぎったが、私は生きる為に奴を倒す事にした。いくぞっ!!
私の戦法はスクールバックぶんぶんだ。つまりスクールバックをぶん回す。それだけ。
こういう毒がありそうな奴は距離を持って戦うのが鉄則だ。決して接近戦に持ち込まない。噛まれれば即アウトだ。
そしてこのムカデ、何が目的なのか一向に洞窟から出て行かない!何がこいつをそうさせるのか、私にはまったく分からないけれど完全に私狙いだ。
「おま…おまえっ!そろそろ出てけ!!私に達成感を味わわせろっ!!」
「ポポポポポポ…」
尚もムカデは洞窟を逃げ回る。…もしかして、私を食べようとしてる…?
だったとしたら、この世界で私狙われすぎじゃない?異世界人って美味しいの?
鞄を振り回しながら考えていると、嫌な汗が頬を伝った。だとしたら私、永遠にこの洞窟から出れないぞ…
私が諦めて逃げるべきかと思った所でそれは起きた。
「ポポポ…キィィィイイ!!」
鳴き声が変わった。…いや、ムカデの動きも止まり、何かを始めようとしている。
…もしかしてウサギの時みたいに化け物になるの?
昨日の悪夢がよみがえり身震いしていると、不意に方向を定めるようにムカデが私の方向で動きを止め、ピンク色の光を口元に集め出した!
やだ!何かのビームみたい!!
しかしその状態からは動けないのか、ムカデは隙だらけだ。攻めるなら今しかない!
私はムカデの背後に回り、思いっきり鞄で頭部を
「キィィィィィイイイッッ!!」
―その瞬間、ムカデがドロドロしたビームを打ち出した。
どこ狙ってんだよ!と言って鞄で殴りかかろうとしていた私は動きを止めた。
なぜなら、ムカデのビームが放たれたのは、私がさっきまで立っていた場所なのだが…その場所に……大穴が開いたのだ。
大穴。ビームは打撃系の技ではなく、溶解系の技だった。周りの岩肌がでろでろに溶けている。
……私はまた判断を誤った。




