第12話
「かぁえー!がぁー!」
「どうしたのー?ガウ君ー?」
新婚のようにムダに名前を強調して連呼する私とガウ君。現在料理の真っ最中だ。
朝から洞窟を出て行ったガウ君は、どうやら食料調達に出かけていたらしい。
洞窟に戻ると私が居ない事に気付き探していたのか、化け物に追いかけられていた時には見えなかった食料が洞窟の奥に鎮座していた。
それを原始人よろしく石のナイフで綺麗に切ると、どこかで拾ったのか近くにあった木の枝に刺してゆく。いわゆる串刺しだ。
その中には今朝の畑?から取れたウインナーのようなものも刺さっていた。断面はビーツのような色をしている。正直めちゃくちゃ怪しい。
その串を6本程作った少年は円形に並べて、まさに今から焼く所ですといった形に整えた。
…え?ガウ君、火も扱えるの?わ、私の価値…!
初日に火が点かずに暴れた事を思い出し愕然とした。野生児の前では現代人などたんぽぽより役立たずなのだ。
ショックを受けていると、少年が懐から何かを取り出すのが見え正気に戻る。
あれ…!ばっ、化け物の額の石じゃんっ!?それがコアとかで復活したりしないよね!?
なんと持って帰ってきていたのか、ガウ君はその石をじっと見つめると、囲んだ串の真ん中に勢いよく投げ入れた。
…するとその石はガウ君の手を離れた瞬間、炎となって燃え盛った!!
「えぇえ!?何これっ魔石とかいうやつ!?ってか魔法じゃん!!」
まさかの原始的方法でなく魔法!!私はちゃんと魔法が発動する所を目にして目が飛び出した!現代人使えねぇっ!!
私が叫んでも、火加減が大事なのか少年はガン無視だ。ちょっと寂しい……
『でぇ!私がぁ異世界で現代知識を披露するとね、皆見た事無いって大興奮してぇ~!王宮お抱えの専属技術師としてお姫様みたいな生活するのぉ!!』
『お姫様は無理じゃない?だって社員なんでしょ?もっと寝る間も惜しんで埃のかぶった部屋で…とかなるんじゃない?』
『私はぁ~王子のお気に入りでぇ!面白い女だなって事で目を付けられるのぉ!だから作業場も王子の寝室と繋がってて、夜中……きぃやああぁ!!』
『駄目よそれは。一国の王子がそんなザル警備、許されるはずないわ。それに婚約者だっているんじゃない?略奪愛で結菜、あなた投獄されてギロチンよ。最悪、現代の知識で媚薬を盛ったって言われるわよ』
『うっせえ!!空気読めぇっ!!そんときゃあ私が召喚されてからずっと私の護衛をしてくれていたイケメン騎士が何とかしてくれるの!最悪一緒に逃げてくれるんだから!!』
『それはないわね。騎士は身分も必要だから結菜と逃げたりしたらヒモになるわよ。ずっと結菜の護衛をしていたのは王命だから愛じゃないわ。勘違いして人生を棒に振ってはいけないわ、結菜』
『お前もうほんと喋んな』
唐突に思い出される結菜の妄想辞典。その数は100を優に超えている。その一部が先程再生され、私はため息を吐いた。
……やっぱり結菜使えねぇ……そんで誰か突っ込め。現代知識が役立つのはその世界によりけりだと。私も何お姫様に突っ込んでんだ。お前の行く世界はそれ以前の問題だ。
「がぁ!かぁえ!」
私が昔の己の浅はかさを戒めていると、ガウ君からお声がかかった。どうやら出来たようだ。
正直見てただけなのに頂くのは申し訳ないのだが、ガウ君は笑顔で私にも串を差し出してくれたのでありがたく受け取った。
「いただきまーす」
「………うー?」
私のいただきますが気になったのかガウ君は私を首を傾げて見た。…そういえばいただきますを言ったのは随分久しぶりな気がする。余裕が出来たって事なのだろうか?
私はガウ君に向けてもう一度いただきますをしてから串にかぶりついた。
それで理解してくれたのかガウ君も「いあーきがぅ」と言ってかぶりついた。…順応が早い……
「!?うっ、おお!美味しい!!美味しいよガウ君!!」
「おいいー?うー!ぐがぁ!!」
私は詰まらせる勢いで食べた。久しぶりの固形物に胃が張り切るのを感じた。
めちゃくちゃ美味しい!!よく見たら先頭は私が最初に取ったマンゴーに似たあれだった!
前もって種を取っておいたのか、洞窟に種が氾濫することも無くかぼちゃのような甘めなホカホカお芋系の味になっていてめちゃくちゃ美味しかった!
そしてウインナーは何故か牛肉の味がした。…チョリソー…?
なかなかにジューシーでたんぱく質を感じる。
最悪ここでのたんぱく質は虫を食べなくてはいけないのかと遠い目をしていたが、畑でたんぱく質が取れるのなら杞憂だったようだ。良かった!!
私は無我夢中でそれを食べ続けた。串は半分に分けて3つづつだったのに、ガウ君はバクバク食べる私にもっと食えとでも言うように自分の串を私にくれたのだ!
でも迷惑をかけるだけで特にこれから狩りが出来たり労働する予定が無いので流石にそれは図々しいと断ろうとしたらガウ君が串を私の口に押し込もうとしたので慌てて受け取った。
…あんな力で串を口に入れられたら貫通しちまうよ…
お腹もいっぱいになり、時刻は早いものでだいたい3時頃になった。
ん?何で分かるかって?太陽の向き!!これは同じだった!よかった、太陽とか月が2つ重なったファンタジーな世界じゃなくて!
そして私は新たな生活の危機に直面した。そう、お風呂である。
当たり前だが温泉なんて湧いてはいない。きっと水浴びになるだろう。だが問題はそこではない。
着替えに洗濯しようと持って帰ってきていたジャージを用意し、私は気付いた。
…あれ?これガウ君に入浴シーン見られんじゃね?
振り返りガウ君の様子を見ると、やはりというかガン見していた。未知の生物の生活が気になるようだ。
しかし私は砂浴びをするハムスターではないので今から服を脱いでジャージと一緒に持って帰ってきたスポーツタオルで体を拭く予定。ガン見されては大いに困る。
「…ガウ君、向こう向いて」
「がぁお?うがー」
通じない。当たり前か。しかし、理解が出来ないからか、私がガウ君に声をかけた事だけ理解しガウ君は私の所に歩いて来た。いや呼んでないって!!
「うー?」
首を傾げてたぶんどうしたのかと聞いているガウ君。聞きたいのはこっちだ。しかし残念、こうなってはもう体は洗えない。せめて頭だけ洗おう。
そう思い私はガウ君に空の器は無いか聞いてみた。いわゆる風呂桶が欲しいのだ。
たぶんあの虹色の湖がトイレだとすると、こっちの普通に綺麗な水は飲み水だろう。害がないなら別の入れ物に入れて頭を洗いたい。流石に私の頭を飲み水用の湧き水にはつけられないからね。そんな水自分でも汚くて飲めない。
という事で頂いた風呂桶。少し大きめの物を頂いた。
私は服が濡れて泥だらけにならないように頭だけ風呂桶に浸けてガシガシ洗った。かゆかったんだ…
「かぁえー、うがぁ?」
頭上からガウ君の声が聞こえた。悪いけれど私は体を丸めて頭を突っ込んでいるので、私の足の隙間しか見えない。あとで喋るから待っててくれ。
…しかしあれだ。こうなるとシャンプーが欲しい。リンスなんて高望みはしないから、せめて清潔に出来る道具でもあればいいのになー…
私は自分の滑りの悪い髪を何度も事故で引き抜きながら思った。
しばらく洗い、少しはましになっただろう所で私は顔を上げた。
「どしたの?ガウ君?」
「うー!うー!」
ガウ君は私に違う風呂桶サイズの器を差し出してきた。察するにガウ君も髪を洗いたいのだろう。何だか親の真似をしたがる子供のようだ、と私は微笑ましく思い笑った。
「うー?かぁえー!」
「分かった分かった、お水汲んできな?お水、汲む」
「!うむー!!」
一体何を産むんだ。
バカな突っ込みを頭の中ですると、ガウ君は足早に水を汲んできた。そして頭から私の真似をして風呂桶の中に突っ込んだ。顎の下まで。
「がぼがぼぼっ…っ…」
「ガウくうううぅんっっ!!!」
結論。現代人の真似を現地の人間にさせてはいけない。
「どこかかゆい所ありませんかー?お客様」
「あいまえんがぁー?」
現在私はガウ君の髪を優しく水を掛けつつ洗っている。言ってもガウ君は最初から全裸なので汚れる心配がない。拭けば良いだけだ。
ガウ君は何年髪を洗ってなかったのか分からないが、私が茶色だと思っていたガウ君の髪の色は私が洗えば洗う程みるみる落ちていった。
そして先程、地の色なのか初めて金色が眼前に現れ私は驚愕を露わにした!
パツキンの碧眼!!
これはいよいよ物語が動き出しそうな気がして来た…!可能性が見えたのだ。
ガウ君が実はどこかの国の王子様で、その王子を探しに来た従者達が彼を保護した私を見つけ、帰る方法を教えてくれるという可能性が!!
結菜のような事を言うと思うだろうが、確かにこれは結菜の妄想辞典にあった話だ。しかしこんなに出来過ぎた事があると思うか?
結菜の話ではガウ君が王子だと判明してすぐ、崩御された王の代わりとして唯一の末裔であるガウ君が玉座に君臨し、私が王妃になるらしいがそれは絶対にありえないと沙織も言っていたし私も思う。
そもそも言葉が通じない王妃ってどうよ?日常的に全裸な王様ってどうよ?そういう事です。
でも日に焼けて分かりにくいが、確かにガウ君はかなり綺麗な顔をしている。この世界の顔面偏差値が分かんないからイケメンって言って良いのか分からないけど、私の世界だったら女子が流血沙汰を起こしそうなレベルだ。
そんな王子様(仮)は居候の手で頭皮マッサージを受けぐっすりだ。全裸で。
私はガウ君の髪をタオルで拭くと、そのまま葉っぱの布団をかけて寝かせてあげた。
そして私は未だ雫が落ちるセミロングの自分の髪を一房つまみ、ため息を吐いた。
……うーん、ドライヤーが欲しい……。
その時、私の灰色の脳細胞が煌めいた!!
私は右手に下敷き、左手にガウ君の余った魔石的な赤い石を持ち構えた。
そう…熱風がなければ作ればいいのだ。
私は串の余りの木を組んで再びキャンプファイヤーの準備をした。ここで火をおこして熱風を下敷きで髪に送ればいいのだ。
前回よりの完璧に出来た私のキャンプファイヤーはやる気満々だ!前回とは風格がまるで違う!
私は熱い思いを滾らせながら魔石を木の真ん中に投げ入れた!唸れっ!!私の熱き心と炎っっ!!
……………………。
真顔で木の真ん中を覗きに行くと、先程投げた魔石がそのまま落ちていた。…どうやら魔石を使うにも魔力がいるようだ。
……………………。
私は下敷きで2時間かけて髪を乾かした。




