34.【自己主張が多いのは食材も一緒】
慌てて聖騎士達を呼びに何人かの神官達が走って行きました。
残りの神官達は結界を張ったり、皿を片付けたり、中にはノートを取り出して観察している方もいて、それぞれ思い思いに振る舞われております。
私にしても、坊ちゃん神官達が何か一瞬世紀末覇者っぽい雰囲気を出したので驚きましたが、よく見れば見栄え重視の筋肉であまり実践的でない体だったので、今はそこはかとなく残念感を感じております。
取り敢えず私の立場ではやる事もないので観察していると、闇に染まった感じに変容した程度で気が大きくなったらしい坊ちゃん神官達が、何やら準備運動っぽい動きをし始めました。
次に私を見て、暗黒微笑とか本人的には言いたい感じの笑みを浮かべ、
「「私にカレーを強いるなど、良い度胸だ……」」
複数で同じ事を仰いますけど、どちらかと言うと私ではなく、暗黒物質と『白き堕天の滴』が自ら口に飛び込んだので、カレー『が』強いたのが正しいと思います。
それにしてもこれが闇落ち……。
分かりやすく肌も黒くなっているので、視覚的差別化を狙ったのでしょう。
その部分に関しては中二病の豆達の割に親切さが半端ありません。
ただ、最大の問題は自己主張の強い食材同士が相殺しなかった事です。
料理前に暗黒物質は互いに相殺するなんて言っていたくせに、『白き堕天の滴』と一緒になって何やってるんですか……。
「暗黒物質と『白き堕天の滴』……どういうつもり?」
『使命を逸れし『暗黒に染められし孤高の結晶』……既に胃から消滅せし……故に我らの性、優先されん……』
『落ちよ……そして、我ら永久に腹の一物とならん……』
頼みの綱である暗黒物質が消え、同じく使命から逸れた癖に『白き堕天の滴』だけが残ったと言うの!?
私はよりによってな事態となってしまった事に目眩がしました。
「結局、ちゃんと米を用意して炊かなかった私が悪かったの? それとも、ちゃんと貴方達『白き堕天の滴』の為人を知ってから炊くべきだったと言いたいの?」
『我ら、隙あれば……堕天に誘わん……』
『白き闇……我ら胃を褥とし……差し当たって堕ちるなり……』
暗黒物質と違い、雰囲気重視の豆の言う事は意味が分かりません。
一応、暗黒物質の時には警戒してたのですけど……暗黒物質がちょっと偉そうな喋り方だけのフレンドリーで親切な豆だったから、同類っぽい外見だった『白き堕天の滴』には警戒心が薄れておりました。
暗黒物質と大差ない危険さを白っぽい豆っぽい中にぎっしり秘めていた豆は……あれ、闇落ちって暗黒物質の方の効果では?
何か上手い事『白き堕天の滴』は結果だけかすめ取った気がしなくもなく。
『地を這いずりし者よ……この渇きに耐えられようか……』
『汝の臓腑より呼びかけり……我らその闇に落ちて留まれり……』
『身に纏いし色、反逆する事許されざる……忌まわしき光にて堕天せしめん……』
カレーだから喉も渇きますよね!
食べ物として到達した胃から話してるって事ですよね!
カレー繋がりで、ウコンの黄色は長時間日に当てれば消えるって話ですか?
闇落ちした本人よりも内蔵に収まっている筈の『白き堕天の滴』の方が饒舌じゃないですかー。
これは消化される気なんて全然感じられませんよ。
「食べ物と主張していたじゃない!」
『我らを食せ……そして残虐に糧にせしめよ……』
『噛み砕け……そして我らは汝らの血となり肉とならん……』
『適量を守れ……さすれば堕天せしめん……』
消化吸収の言い方!
私は何という恐ろしき中二病の大豆をこの世に解き放ってしまったと言うの?
そして、気付いてしまいました。
これこそが多分きっと恐らく仮定的に女神の与えた真の試練だったのです。
そう、カレー作りに秘められし、真の意図に多分きっと十中八九恐らく仮定的暫定的に込められし意図は、とってもこの場で重要な事だったのです。
つまりは、私と『白き堕天の滴』の邂逅こそが真の運命であり試練だった。
となると私のした事は……。
「神殿長……私は知らず、リンカ様に婚約を強いた貴族達と同じ事をしてしまったようです」
隣で闇落ち坊ちゃん神官達を観察していた神殿長は、私の震える声に顔色を変えました。
「アステリア伯爵令嬢……混乱してますね?」
「冷静ですよ、間違いなく豆よりは! 私はその豆の……『白き堕天の滴』の意志を確認する前に炊いた米にしてしまった! こんな私ではリンカ様を救えません! リンカ様が婚約を強いられたと知っていて……私は『白き堕天の滴』に炊いた米になる事を強要してしまった!」
これこそ私の試練だったのでしょう。『白き堕天の滴』が簡単に炊いた米に出来ると分かっても、私は手間をかけて本当に米を炊くべきでした。時間がなかったとしても『白き堕天の滴』には炊けた米になりたいか確認をするべきでした。
意思を確かめずに自分の都合を強要するなんて、これではリンカ様の周囲の貴族と同じです。
私は何と迂闊で未熟でしょう……。
すっと神殿長は私の前に瓶詰め暗黒物質を差し出しました。
『妄想に囚われし者よ……全き炊きたてなる白き輝きを得ん事、『白き堕天の滴』の永きに至る宿願である。お主達矮小なる食欲の持ち主、心して食すのみ』
見た目煮豆なのに尊大ですが、その言葉には安心感はあります。
所で、シルヴィスが使い古した暗黒物質を持っていった先は神殿長だったのですね。
「宿願が叶うにしてもこのタイミングで?」
『『白き堕天の滴』……闇に潜みていずれの刻にも機会を待つ存在なり。その上で彼の存在を慮らんとするならば、『真なる結合』を求めるべし』
大体『真なる~』って付けるものって普通には存在しないと言うか、中二的世界だけのものだと思うのですよ。
取り敢えず、危険な匂いしかしないので全力で求めません!
「「さあ、かかって来い!」」
「普通の神官と女性なので無理ですー」
何故だか会話的に置き去りが成功していた闇落ち坊ちゃん神官達と間延びした声で話しているのは結界を張った神官です。
闇落ち坊ちゃん神官達達は結界内に囚われて、ただただ意味のない準備運動っぽい動きをしております。
多分私達が一人として武人がいない事で調子に乗っているのでしょう。でも、そろそろ……
「お待たせしました。闇落ちですか?」
ゾロゾロと聖騎士が部屋に入ってくると、闇落ち坊ちゃん神官達は一気に黒い顔が青黒くなりました。
なんて言うか、あらかさまに聖騎士達の装備は殺意が強めです。まあ、一応闇落ちした人間も魔物に入りますので重装備は仕方ないでしょう。
「「お前ら……」」
「悲しい殉職ですね……」
確かシルヴィスの上司だと紹介された騎士は他よりも装備の殺意が高く、巨大で鋭利な棘のついたモーニングスターを手にしておられます。
ここまでの装備を持ち出したとなると元々の坊ちゃん神官達は深く恨まれていた事が何となく察せられます。
「一応、『白き堕天の滴』を消化させると闇落ちは解けると思うので、胃薬を飲ませるのも良いと思うのですが」
「あれは魔物ですよ? ふふふ、神官は闇落ちなんてしませんよ?」
私の提案は即座に笑顔と共になかった事にされました。
他の聖騎士達も凄い笑顔で闇落ち坊ちゃん神官達を見ています。
これは……魔物討伐を止められません。
『今こそ使命に従いて『白き堕天の滴』に『真なる結合』を求めるべし』
暗黒物質の提案が怖いんですけど!
とは言え『真なる結合』の方法すら分からない私が躊躇していると、モーニングスターが試しで振るわれ、机を粉砕しました。
…………ここで『白き堕天の滴』が『真なる結合』するとしたら、結合ですから納豆になるか、巨大合体ロボになるかのいずれかだと思うのですが。
どちらにしろ混乱しかもたらさない恐怖から私は言葉も出てきません。
そう言えば祈ったら大豆から米に形状変換ですらない、完全に別物変化をしましたし、やはり一番高い可能性は巨大合体ロボ?
あんまり私が迷っていたからでしょうか。
突如天からキラキラした光が闇落ち坊ちゃん神官達に降り注ぎ、
〈今こそ『白き堕天の滴』……『真なる結合』を果たす時なり……〉
脈絡もなく女神の強制が来ました。と言うか、暗黒物質をくれたおばあさんの声じゃ……。
強制は宜しくないって話になってましたよね。聞いてました?
と言うか、女神の力を闇落ち解除に使って頂けないんですか!?
闇落ち坊ちゃん神官達の体が何か内側から波打ち始めました。
やだ、荒れ狂うカレーが今になって。
私も穏やかな方ですが同じカレーを食べているので、少し怖い気がしました。
『真の結合を果たせ!』
光が爆発し、誰もが闇落ち坊ちゃん神官達から目を逸らしました。
視界が戻ったのは数分後でしょうか。
光が収まり目も見えるようになった事で、改めて闇落ち坊ちゃん神官達を振り返ると、そこにいたのは豆腐、でした。
「え?」
四角い白い何かから手と足がシュールに出ております。
見た目はちょっと田楽っぽい?
「女神の奇跡……素晴らしき『真の結合』」
大分シルヴィスの上司の言葉は平坦で、取り敢えず女神を讃えておけばこの奇妙な場を凌げるという下心が見え見えです。
「え、豆腐? ですよね」
「恐らく触って崩れたら……欠損です」
うわぁ……。
絹だったら立ち上がった自重だけで体真っ二つになりそうですね。
いえ、まず立てるでしょうか?
………………いやいやいや、これは女神の奇跡にしてもどうかと。
「流石アステリア伯爵令嬢。普通の神罰(乱用中)よりもえげつない」
感心しきった顔で神殿長は仰います。
神殿長も同じく試練カレーを食べているのに、闇で真っ黒だと今更自分が闇落ちする心配もないのですね。
「神殿長、私に責任をなすりつけようとするのはお止め下さい。今のは直接女神でしたよね。私はそんな事出来ませんよ」
「ふふふ……慈愛に満ちた女神がそんな事をする訳ないでしょう」
「『真の結合』ですから仕方ないんですよ! 『白き堕天の滴』とあの坊ちゃん神官達が結合しただけなんですよ」
「「おのれ……」」
複数の反響音の入った声がしました。
「「このような……白き冷たき四角にせんとは……汝、恐ろしき外道なり」」
「『白き堕天の滴』の中二部分までも結合するなんて……」
どちらかがどちらに取り込まれたという話ではなく、一体化した?
さっぱり意味が分かりませんね。
闇落ち坊ちゃん神官達が魔物として処分される未来がなくなったにせよ、豆腐ボディでは自壊する方が討伐時間より早いのではないでしょうか。
「「我を白き堕天せしめん……異邦より来たりし魂を持つ乙女もどきよ……その使命果たせど、我、冷水に浸かりし事を求めん」」
「そんな人間大の容器って直ぐには用意出来ませんよ。我が儘言わないで今は常温で待機して下さい」
ですが、私の制止を無視して、闇落ちから豆腐化した坊ちゃん神官達は動こうとしてボロボロ崩れ始めます。
「駄目です! 何で動いて命があるのか分かりませんが、貴方達は豆腐なんですよ!」
『豆腐?』
人が集まりやり取りの声も大きくなる中、私の悲鳴のような声はようやく聖女様達に届きました。




