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嘘ばかりの貴方を愛すなんて誰が出来るの?  作者: 夏見颯一


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32.【カレー本体以前に添加物と添付物が危険】


「たまには肉も食べたいです!」


 聖職者と言えど、人の子の業を背負っておりました。

 調理に向かうとどーんと机の上に肉がテーブルの上に載っておりました。

 何肉か?

 私では見たぐらいで分からないので、どれも謎肉ですよ。


 もしかすると、大豆ミート的な何かは私の穿ち過ぎだったかもしれません。

 そう言えば、ここまで親切ぶりを発揮した暗黒物質も肉については最初から何も助言がなかったですよね。


「この肉はどうしたの?」

「神官のいずれかの実家からの差し入れだそうだ」


 今日も助手をしてくれるシルヴィスはさらりと言いますが、6人が同時につけるテーブルを埋め尽くす程の肉をくれる家って、結構良い家だと思うのですけど。

 御礼はカレーのお裾分け? 流石に暗黒物質入りを一般人に食べさせてはいけない気もします。


 ただ、いただく物に文句を言ってはいけないのですが、塊肉って切るのが大変なんですよね。

 こういう時は前世の世界が恋しくなります。

 まあ、ぶつ切りするしかありません。


「残りは焼いて食べても良いかもな」

「聖職者ってそんなにがっつり肉を食べていいの?」

「同じ聖職者でも聖騎士の場合は体の為に肉はそれほど禁止はされていない。特にもらい物は残すなとは言われるぐらいだ」


 聖騎士でも騎士は騎士という事ですか。

 ん?

 私は騎士と聞いてうっかりシルヴィスの周囲をぐるりと回って確認をしてしまいました。


「どうした?」

「普通に騎士の体型ね! 貴方と比較したらソリウスなんて剣を振るう体型とは思えないわ!」


 興味がなかったので今頃気付く私でした。


「ああ……聞いた所によるとソリウスは外見枠だったらしい。王家の騎士には実力より見栄えが重視される場合があるからな」


 あー……料理も味より見た目が整っていれば売れますよね。

 散々裏口入隊と心の中で詰ってきましたが、今度からは案山子と呼んだ方が良いのかも知れません。


「そんなのでもリンカ様との婚約が進められたんですね……」

「実力云々は横に置くとして、ソリウスという騎士は聖女の周囲に立つのに見栄えが良かったから反対する理由がなかったのだろう。」


 ソリウスは騎士団で出世するつもりだったと聞きますが、果たしてリンカ様の夫になって考えていたような立場になれたのか。今更起こり得ない話ですけど、自分の望みが叶わないと知ったらソリウスはリンカ様を責めそうで、二人の仲を壊して良かったと思いました。



 話している間に暗黒物質も煮えて、フラーベル侯爵家で前もって作ってきたカレー鍋を並べました。

 最初はここでカレーを一から作るつもりだったんですが、スパイスを持ち歩かなくてはいけない量を考えると事前に用意する方が手間がなかったのですよ。料理チート持ち主人公に生まれさせてくれなかったので、このショートカットは神々も許して頂ける筈です。


 以前に作った瓶詰めの方を振ると、


『数粒入れよ』

「具体的な数は?」

『適量入れよ』

「いや、だから具体的に」

『好きな量を入れよ。我は溶け込み一体化するだけ』


 面倒なので大きめオタマに一杯の暗黒物質を取って、瓶詰めの前に持っていくと、


『欲深き者よ。その半分が適正なり』

「早く言ってよ」


 そして、そのまま私はカレーに投入しようとして、ふと気付きました。

 大豆ミート的な物ではなく溶けるんだったら、隠し味?


「やだ。隠しきれない隠し味になろうとしているの? そういう自己主張は止めてくれる」

「我は暗黒の欠片なり……故に全き隠れし味とならん」

「え、じゃあ、たくさん入れても大丈夫じゃ」

『薬とは用量と用法を正しくしてこそ効果を顕わさん……我の力を正しく引き出すのが汝の使命なり。よって、適正量を守りし事もまた、義務なり』


 どうやらいつの間にか私は使命を帯びていたようです。

 これは転生者に付きもののアレ、と言って良いのでしょうか?

 個人的な感想を述べさせて頂ければ、「もっと華麗なものにチェンジをお願いします」ですね。


『汝の使命……カレーと共にあり』

「もしかして読まれていたの!? 華麗であってカレーじゃないのよ!」

『大差なし』

「違いが分からないなんて、とんだ暗黒物質ね! 貴方はもう古い方だから人にあげるわ。そして、新しい方を瓶詰めにする!」


 私が古い瓶詰めを横に置くと、すっとシルヴィスが外に持っていった。

 賄賂にでも使うのかしら……。本人が食べなければ良いのだけど。


 オタマ一杯の方は新しい瓶に詰め、半分だけ暗黒物質を掬うと瓶に見せて、


「これくらい?」

『適正なり。我は溶け鍋に満ち足りた時、汝の使命の一つは完遂する……』


 声もナビの具合も変わりませんね。

 どうなっているのでしょう?


「ねえ、今更なんだけど……貴方を食べて大丈夫なの?」

『愚かしき初心者よ……その目に映る物をまやかしと呼ぶベからず。我はその眼に映る通りの真なる食用可なり。知恵なき者よ、汝、未だ精進ならず』


 肉を見て謎肉と言っている人に、何という難題を突きつけるのでしょう。

 まずは食用可のものを見分ける事が、神々が本当に私に与えた試練のような気がしました。

 でも、私は料理チート持ち主人公ではない!


「……私は神々に何を求められているの?」

『カレーの調理なり』


 さっぱり意味が分からないわね。

 前世の格好いい物語に触れすぎた所為でしょう。

 悲しいけれど、現実はこのようにいつでも意味不明で地味なものです。



 取り敢えず、シルヴィスが戻って来る頃にはカレーの中に暗黒物質は溶け込んでいたので試食に移る事にしました。

 カレー自体はフラーベル侯爵家の皆さんにも食べて貰って好評だったのですが、果たして暗黒物質は?


「……その前に白米が問題だった」


 カレーに入れる肉と暗黒物質に気を取られすぎておりました。

 日本式カレーには日本の米が必要不可欠なんですよ。

 どうしようと思って瓶詰め暗黒物質を見ると、


『宝物殿を開けよ。そして、『白き堕天の涙』を持ってくるが良い……』


 やだ、中二病的なネーミング。

 嫌いではないのですが、実は割とファンタジー的だったこの世界ではただただ危険な香りがします。

 取り敢えず……米本体ではないと思った方が無難ね。


「ああ、私が取って来よう」

「シルヴィス、大丈夫? 許可がいるんじゃない?」

「毎年送られてくるから大丈夫だ」


 宝物庫と言っていた気がするのですが、実は食料庫だったの?

 どちらも温度が一定に保たれている気がしますね。


 さて、シルヴィスが取りに行ってくれた事で、次は米?を炊くとしたらどうしましょう。

 鍋しかないので、頼れる暗黒物質にやはり向き直ります。


「どうやって米? ……『白き堕天の涙』をどうしたら私の望む姿に変える事が出来るのでしょう?」

『美味しくなるよう、一心に祈れ』


 前世ならそんな程度でどうにかなるかと怒ったでしょうが、この世界だとどうにかなるのですよね。

 学習しましたよ……。


「……一応聞くけど『白き堕天の涙』って食べたらやっぱり堕天する?」

『ここは地上なり。落ちるべき地にして、その先はなきものと』

「天上に住まう人々だとどうなるの? 食べたら没落するの? 駄目な気が……」

『我と共に食せ。さすれば相殺せん』


 何か明らかに『白き堕天の涙』も危険な気がするのですが。

 それでも食べなければ始まりません。

 色々言いたい事があるのですが、渋滞して言葉が出てきませんよ。


「『白き堕天の涙』をお持ちしました。この使い方が分かると聞いてちょっとお邪魔しますよ」


 シルヴィスと一緒に神殿長達が入ってきました。

 部屋の密度を考えて欲しいものです。


「使い方は分からなかったと? 食料庫……宝物庫にあったのに」

「ええ。毎年何故か採れる不思議な物だったので」


 あ、危険な感じ。

 神官長がいそいそと袋を開けるのを止めるか止めないか考えている内に、目の前に突きつけられました。


「これが『白き堕天の涙』です」

「嘘でしょ! 米じゃなくて大豆!」


 どうやら米となる?のは大豆のようです。

 私はこの世界に何度打ちのめされなければいけないのでしょう……。


『早う炊くが良い。初心者よ』

「祈るんじゃないの? 炊くって言ってるよ!」

『矮小なりし者よ。拘りは捨て去るのが汝に課せられた試練なり』


「試練!」

「試練!」

「試練!」


 他人事だと思って神殿長達が楽しそうに合唱します。

 ちらりと見ると、一切動じる事なくシルヴィスは鍋を用意しております。


「炊けばいいんでしょ! 炊けば」

『祈るが良い、迷える転生者よ』


 ずっと迷わせているのは暗黒物質だと思うのですが、カレーを完成させる為にも我慢をします。

 何とか祈ると………………何故か鍋に米が炊けてました。

 最早米を炊く事前準備も、熱源の準備も何もかもをすっとばすファンタジー。


「……食べて大丈夫かしら?」


 一抹のではなく、全体的に不安しかないものの。

 カレーはとうとう完成してしまいました。





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