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嘘ばかりの貴方を愛すなんて誰が出来るの?  作者: 夏見颯一


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31.【検査機関などないので全てが自己責任】


 カレーの材料はスパイスです。

 折角なので最高のカレーを食べて頂きたいので最高のスパイスを求めて旅立つ為にも冒険者登録をした訳なのですが、


「アステリア伯爵令嬢、スパイスがあるのは冒険者ランクが最低でもBはないと辿り着けない国だ」

「!!!」


 親切にも所持しているスパイスを持ってきて下さった騎士団長が、私に悲しい事実を教えて下さいました。

 今から冒険者ランクを上げてCまでは何とか出来ても、BになるにはCで一年以上実績を積んでからと決まっております。

 一応私も曲がりなりにも令嬢なので、趣味の扱いになる冒険者登録をしなかったのが悔やまれました。


 ただまあ、冒険者となって旅立つにしても、大航海時代の船長のようにスパイスを探しに行って別大陸を見つけるなどのタイムロスも含めると……ちょっとカレーまで到達するには時間がかかりすぎな気がしました。あ、そもそも船を確保する必要もありますね。

 これは自力は諦めるしかありません。


「肉ぐらいは自力調達したいのですが、丁度良い狩り場はございませんか?」

「令嬢の口から初めて聞く言葉ばかりだな……まあ、いい。狩り場を教える事は別に問題はないが、肉は熟成させないと固いままだぞ? 固めの肉がいいのか?」


 私は瓶詰めにした暗黒物質を取り出した。

 一緒に煮込まれるなら意見を聞かなくてはいけませんよね。


『……初心者よ、肉を狩りし事はお主の求める食の道に通じるであろう。されど解体の道は険しく、そして年月がかかろう。その年月を耐え抜き、たゆまぬ努力を続ければ、お主はいつの日か熟練者に辿り着かん……』

「つまり、私には解体の才能が……」


 これまで私には何の才能もないと思い込んでいたので、令嬢として生きるなら使わない才能でもあると分かると嬉しいものです。

 一番欲しいのはやっぱりチートなんですけど!


「アステリア伯爵令嬢、色々言いたい事があるのだが、まず手にしているその黒っぽいものは何だ? ……気のせいか喋っているように感じるのだが」


 私は頭上高く暗黒物質の瓶詰めを掲げ、


「これは神々の意志に準じるかも知れない暗黒的な指導者です!」

『剣と義の道に進みし者よ……我を三日三晩凍える水に晒せ。そして灼熱をもたらす天の日で焼き、砕くが良い。さすれば赤子の夜泣きを止めん……』


 ……このレシピは剣を使う者限定でしか作れないのかしら?

 どうなのかじっと騎士団長を見つめてみます。

 じっと、じーっと。


「……手隙の部下に作らせる」


 ため息をつかれたものの、検証に付き合って頂ける事になりました。

 これで我が国の赤ちゃんの夜泣きで寝不足になっているご両親の助けになれれば騎士団も……ああ、疲れた体で帰ってきても夜泣きの子供で夫婦喧嘩となり離婚となる騎士の救世主になるんですね!

 道理で作成者が指定されますよ。

 ただ…………こんな得体の知れない薬は子供に飲ませないような。



 多分きっと恐らく希望的観測的に良い事をしたと思いながら、その後も話を聞きつけ応援の品を持ってきて下さった他の方々とは暗黒物質の瓶詰めとお出迎えします。


 それにしても暗黒物質だからか、誰に対しても深みのある助言を出せる事は凄いですね。

 やはり暗黒物質は何かの深淵に繋がっているようです。

 食すと稀に闇落ちするのを恐れていたなんて……いや、やっぱり恐ろしい?


 顔色悪く足早に帰られる皆さんを送り出し、休憩がてらお茶を飲もうとしたら暗黒物質がカタカタ震え、


『生まれし日に年の数だけ我を流れ凄まじき川に流せ……5年の月日の経過後には7日間穀物を絶ち、3日3晩祈りを捧げよ。さすれば我は元の場所に10倍になりて帰らん。その後壺に入れて地中に埋めよ。さすれば芋を宿し、細長き四角きものとして地上に向かい生えん』


 お茶を飲むのに菓子なしは胃に悪いからの助言ですか。暗黒な割に親切ですから今後もずっと隣にいてほしいものです。

 それにしても……それも芋羊羹の作り方? 最早料理とは言えず、ただ生えてくる物としても色々なバリエーションがあったようです。

 と言うか、こんな生まれ方?をする芋羊羹を最初に作った誰かは、何故食べようと思ったのか、私には到底理解出来ません。


「貴方って本当に食べ物なの?」

『笑止。過去現在前後左右、何処からしても我は食品なり』

「普通の食べ物は話さないわよ?」

『我、初心者用の食材にして、初心者を導く使命を持ちし食材。故に話す事不可避なり』


 自己主張が激しい食材です。

 取り敢えず、私は瓶を振り回して暗黒物質を黙らせました。




 天上に住まう方々も協力をして下さり、いよいよスパイスが集まってきました。

 これで普通のカレーは出来そうですが、そこで神殿から知らせが来ました。


「材料として分けておいた暗黒物質の瓶詰めが消えた?」


 ……見た目は煮豆ですから、食べようと思わなくもない?

 いや、味付けもしていない暗黒物質ですから、暗黒味しかしない筈。


 私は遣いの神官の方に、


「お腹を壊している方はいらっしゃいますか?」

「そんな、同僚を疑うなんて! 壊した方は20人程いるので調査するのが面倒なんですよ!?」


 仕事を面倒と思うのは神殿で出世する大事な感覚だと思います。

 後、同時期にお腹を壊しすぎですし、自分で言い出しておいて何ですが、食べたからってお腹を壊すとは限ってはいません。


「なら、暗黒物質に執着している方はいらっしゃいますか?」

「それはほぼ全員ですね」

「じゃあ、面倒なので盗難はなかった事にして下さい。また煮ます」


 時間と手間と費用を考えて行動するのが大人です。盗難があっても闇雲に探して断罪すればいいってものではありません。

 それにきっと……犯人は既に食べてます。私には分かるんです。そう、人間の好奇心ってそんなものなのです。

 まあ、なくなった物は追求しても元に戻らないので、結局新しく煮るのが一番面倒くさくはないでしょう。


「管理が悪くて申し訳ありません……」

「その代わり、暗黒物質入りのカレーの試食をお願いします」

「そんなの恐ろしいですよ! 誰も立候補しません!」


 何故に?

 芋羊羹は仕方ないとしても、煮ただけの暗黒物質は盗む程欲しがるのに、同じ暗黒物質が入ったカレーは無理って、何故に。

 異世界の人間の思考は私も未だ理解出来ません。


「あ、そうそう、この暗黒物質を使ったカレーは試練の一部で……」

「是非参加させて下さい! 私も他の敬虔なる同僚や信者の方を誘います」


 何でだよ。

 シルヴィスが試練が関わると態度が違うような事を言っていたのですが、こうも手のひら返されるとは、私も神殿の人間の発想は分かりません。


『……神の道を願いし者よ……我を一晩熱き湯気に当てるが良い。そして日が登りし前に集めし砂と混ぜよ。そして7日間夜露に晒せ。さすれば下りし腹の薬とならん』


 何で今、腹の薬なの?


 料理の腕を暗黒的なものに心配される多大な理不尽さを覚えつつも、私の元には肉以外の材料が揃いました。

 肉以外です。

 肉は好みがあるので難しいのですよ。本場カレーは鳥一択なんですけど、日本式はねぇ。


 ただ、ここに暗黒物質があるのですよ。

 恐らく、神々が……暗黒物質である小豆を渡してくれましたし、数粒入れよと暗黒物質自体も言っていましたが、あれはおそらく大豆ミート的な意味だと思うのですよ。

 折角なので肉(もどきではなくただの暗黒物質の水煮)を多めに入れようかと。



 そして、材料を全て持って神殿に予定通り向かいました。


「これで……リンカ様達も外に!」


 暗黒物質で作った腹の薬は間に合わなかったので、市販薬も準備しましたよ!

 何ですか? カレー自体には絶対の自信があっても、やっぱり暗黒物質を入れるんですよ?


 ということで、まずは犠牲者に試食をして貰いますよ!





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