↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
嘘ばかりの貴方を愛すなんて誰が出来るの?  作者: 夏見颯一


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
27/37

27.【左遷先が欲しがるのは明らかに彼女】


 聖女様とじっくり話したいのに、本当に邪魔な男です。

 書類の遅延なんて言ってますけど、どうせ左遷先でもいらないと思われ、遠回しに断られかけているのが真実なのでしょう。アステリア伯爵家の護衛達が良く口にしていました。

「辺境は甘くない」

 自分に激甘なソリウスには一番向いていなさそうな場所です。



 涙目でぷるぷるしながらもソリウスは威勢だけは良く、


「お前がいた所為で私の人生は台無しになった! どうしてくれる!」

「どうもする訳ないでしょ。貴方が自分の人生を壊したのはあくまでも自分の所為です。真面目に誠実にして勉強もしっかりして己をきちんと弁えていたら、少なくともこんな事にはならなかったのよ」


 改めて口にしてみると指摘点の多さに、前のコルデーン伯爵がどういう教育方針だったのか気になりました。

 裏口入隊と分かっていても酷いものです。


「お前……! 騎士である私を侮辱するつもりか!」

「貴方の存在が騎士を侮辱しているのです。ち・が・い・ますか?」


 ソリウスが手にしていた剣を抜いたと同時に、私は家畜を襲う害獣に対して繰り出してきた蹴りを食らわせました。

 これでも令嬢ですから対人は初めてで、思いっきりやれば良いかと、魔熊を倒すときの全力の蹴りです。

 ちゃんと方向も見ていますから、途中でぶつかる物や人間もなく、ソリウスは壁まで吹っ飛んでいきました。男の割に軽いです事。


「素手の女性に対して剣を抜いた挙げ句に、素人の女性に蹴り飛ばされる。ああ、これが誉れ高き王城の騎士の姿だと言うのでしょうか!」


 物語の登場人物の台詞の如き言葉になったのは、『ソリウス』の設定が無意味に私の頭にあったからでしょう。


 悪女に反撃された主人公、ソリウスからの反論を私は待ったのですが、いつまで経っても返事がありません。

 近付くのも面倒なので離れた位置からソリウスを見つめてみますが、その体はピクリとも動かず、駆け寄った神官が軽く診た後「気絶しています」と言いました。


「まさか……騎士なのに、貴方そんなに弱いの!?」


 はっきり言って私はアステリア伯爵領では最弱のカテゴリーです。近所で働いていた地方勤めの騎士達からは、いつも「か弱い令嬢」って言われてたんですよ?


 魔熊を一頭倒すのが精一杯な私に対し、地方勤めの騎士達は一人で夥しい魔熊や魔狼を倒してました。猟師の方達にしても、一人で魔猪を複数狩るのがデフォルトで……。

 ソリウスの事は見た目からして弱い弱いとは思っていましたけど、王太子の護衛までやった人間が、これ!?


 しばらくして案内の神官の方がちょっと位の高そうな神官を連れてきました。

 どうやら私が混乱している間に呼びに行ったようです。


 倒れて動かないソリウスを見て、


「何がありましたか?」

「剣を向けられたので……思わず蹴ったら動かなくなりました」

「はあぁぁぁ? 女性に? 蹴られて? 現役の騎士が?」


 信じられないものを見る目を高位の神官の方がソリウスに向けました。

 オロオロして涙を流している下っ端の神官は高位の神官に、


「蹴られた事より剣を向けた事でしょう! ここは私闘をする場所ではなく神殿です。騎士団には厳重に抗議しないと!」

「そうだな。この人は……まあ、怪我自体はないようだ。余程驚いたのかな?」


 蹴られた事ではなくて驚いたから気絶した事実に、私の心は再び千々に乱れました。

 いくら裏口入隊だったにしても驚いて気絶したなんて、明らかに騎士ではなく、騎士に守られる方じゃないですか! これはひょっとしてもしかして……ソリウスは騎士に守られたかったから騎士団に入ったと言う事なの?


 私は残念な事にソリウスの幼馴染み(自称)の分類なので、誰も知らないソリウスの真の野望に一人だけ気が付いてしまいました。


 主人としてではなく騎士として自分が守られる事こそソリウスにとっての萌えシチュエーションだった。

 王城の騎士の騎士になったのは、恐らくここだけが裏口入隊が可能だったからでしょう。……理解は出来ましたが、それでも騎士になったのですから、ソリウスにはなるべくなら王城を守る人間でいて欲しかった。


「騎士団長がお見えになりました!」


 慌てた神官が飛び込んで来た直後に、息を切らした騎士団長達一団が飛び込んで来ました。

 皆さんお忙しいでしょうから、ソリウスは私が後で適当に箱にでも詰めようと思っていたのですけど、見られては不味い存在なソリウスはあっという間に布に包まれ担がれていきました。


 恐らくあれもソリウスにとっては萌えシチュ。

 そう考えると、どうあってもソリウスだけが得している気がして、私にはどうにも納得が出来ませんでした。




 謹慎中なのに外に出たソリウスは、今度という今度こそ左遷先に直行の筈です。

 私もきちんと正当防衛になる形を取りましたし、ソリウスの想定外の弱さも許されざるものであり、速やかに左遷先で鍛えて貰うべきでしょう!


「令嬢に剣を抜いたのですから、大臣様も今度こそソリウスの今すぐの左遷を納得されますよね?」


 俯いたまま騎士団長は緩く首を振り、


「貴族令嬢に蹴られて気絶する王城騎士など何処にもいない。つまり、そんな騎士はいなかったんだ」


 ………………何という事でしょう。

 弱さが突き抜けるとなかった事になるなんて、想像もしておりませんでした。


『ねー、ところで何の話? もう少し聞かせてよ!』


 先程ソリウスが突撃してきた事は、リンカ様の心情も考え黙っていました。

 果たしてこれを聖女様にどう説明したら良いのでしょう?


「……実は何も起きていなかったんです」

『令嬢に蹴られて気絶した騎士がいたって聞こえてきたけど、そんな面白ニュース、何も起きていなかったなんて出来るの?』

「そんな事言われましても、事実、蹴ったら気絶した騎士が存在しなかった事にされたんです!」

『……事情は分からないけど、普通、騎士は令嬢には蹴られて気絶どころか、避けたり出来ると思うし。多分、その騎士は自称騎士だから、騎士団に言って捕まえて貰う方がいいと思う』


 ソリウスは左遷寸前騎士から自称騎士にクラスチェンジしました。

 前世のゲームとかだとクラスチェンジしたら色々変わりますが、まあ、私の心の中の名称ですから……と私が思っていると、騎士団長は良い笑顔で、


「そう言う事ですか……分かりました。自称騎士であればこちらで捕縛しましょう。騎士とは言え自称ですし、牢に放り込めば良いですね」


 クラスチェンジで部屋が変わった?

 そんな訳がないですね。一瞬びっくりしましたよ。


「懲罰ですか?」

「流石にこれ以上は看過出来ません。左遷先が環境を整えられないなら、その間は牢に入れて貰う相談でもします」


 そこまで言った騎士団長は、何だかすっきりした顔をしておられました。

 令嬢に蹴られて気絶した騎士は記録には残らないのですが、騎士団長にはいた事も許せなかったと言う事でしょう。

 本音と建て前が入り交じってなかなか難しい世の中です。



 騎士団長が去ると、入れ替わるように部屋に飛び込んで来たのは、


「フロスティア!」


 宿直明けだと聞いており、本人への連絡は控えて貰っていた筈なのですが、少し制服がよれたシルヴィスが走ってきました。

 疲労感が濃く、髪も整えていないシルヴィスでしたが、これは少しいつもと違う魅力がありますね。


「さっき、フロスティアの所に変な騎士が来たと聞いた。無事だったか?」

「何もなかったわ。相手は自称騎士だったし、先程騎士団の方にお持ち帰りされていったわ」


 他にも人がいる場ですから、ソリウスではなく見知らぬ自称騎士がやった事だと言わなくてはいけないのが難しい所です。


「そうか……」

「心配しなくても大丈夫よ。私もそれなりに鍛えているし、いざとなったら走って逃げる事も可能ですから」

「君は直ぐ言葉で相手の急所を突くから心配する。ほとんどの騎士が君より弱いからと言っても万が一の事があるからな」


 ……私に何かあるとしたら万が一。

 地方だと身を守る程度の技量しかないのですが、王都ではか弱くない女性のようです。

 まあ、とは言っても、シルヴィスの方が私より遙かに強いです。騎士団長達も当然私よりも上で、お茶会で高位貴族令嬢達に無礼を働いた若い騎士達は下で裏口入隊でしょう。


『おー、婚約者同士の逢瀬? 折角なので部屋を変えて……』

「聖女様、そんな事よりも、途中だった話を続けましょうか」


 前回は変にセンシティブな事を私が言ってしまって聖女様を怒らせて終わってしまいましたが、これ以上事態を誤魔化し続る事は、私達にとっても聖女様達にとっても建設的ではない筈です。

 折良く、邪魔する者は一通り自滅して去って行きました。


「で、リンカ様に何があったのです?」


 特に説明はなくともシルヴィスは邪魔な口を挟む事はなく、私と一緒に聖女様の回答を待ちます。

 やがて観念したように聖女様は、


『……リンカが起きないのよ』


 ボソッと仰いました。


「リンカ様が? ずっと寝ていると?」

『そー。確かに私達はこの部屋に閉じ籠もったけれど、私は最初扉を閉めて普通に鍵をかけただけだった。扉が開かないのは、恐らくリンカの力が扉を開けさせないようにしている』


 聖女として力を持っていたのはカリン様だけど言われていました。

 それなのに実はリンカ様も聖女だったと判明したら、手のひら返しをした貴族が殺到する事になり、前以上にリンカ様は貴族に振り回される事は想像に難くありません。

 聖女様が必死に誤魔化しておられた気持ちは、私にも痛い程分かりました。


「周囲に知れたら、婚約問題は更におかしくなりますね……」

『どうしよう……ただでなくてもリンカは全然起きないし、私も外に出られないし』


 扉が閉ざされてから長い時間が経っています。

 一刻も早くリンカ様の容態を診て貰うべき所でしょうが、聖女様にも扉を開ける方法が分からないとなると、どうする事も出来ません。


 私とシルヴィスは、扉の向こうの聖女様同様に、途方に暮れました。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。