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嘘ばかりの貴方を愛すなんて誰が出来るの?  作者: 夏見颯一


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26.【婚約したいと言う割に自分しか見えてない】


 ブレール子爵令息がいなくなると、部屋はとても静かになりました。


 普段は隙あらば神罰(コスプレではない)姿で喚き出すリンカ様の婚約推進派の神官達も、いつの間にやら新しい神罰(昭和的要素多め)を増やされないように部屋から連れ出されていたようです。


 気が付けば、部屋には私の他に扉の前にいるアステリア伯爵家の使用人と案内の神官の三人だけとなっていました。


 大事な話をするので人払いをしたいとは思っていた私ですが、突然巡ってきた絶好のタイミングに、いっそ緊張のあまり少し胸が苦しくなりました。

 それでも、五月蠅い人間がいない今、聞かなくてはいけません。


「……聖女様、少しお尋ねしても宜しいですか?」

『ん? 改まってどうしたの?』

「以前から気になっていたのですが、直にお目にかかった時と口ぶりやテンションが全然違いますね」

『それは単に大声出さないと声が届かなさそうだからだね! 残念だけど、これには深い意味はないから!』


 その回答では別人に入れ替わっている可能性を否定も出来ず、肯定にも足らずという感じでしょうか。

 まあ、神罰(聖女の力の神秘の宣伝になりそうだと放置気味)を起こせるのは聖女様の他には考えられないとの神殿長を言葉を信じるとなると、


「つまり、聖女様はテンション高めで話す事で何かを誤魔化そうとした訳ではないのですね?」

『うん?』

「隠そうとした訳ではないのですよね?」


 当たり前のように私は聖女様と扉越しにとは言え親しく話させて貰っていたので、多くの神官や王城関係者が私達が仲の良い友人達であると勘違いしていますが、私が仲が良かったと言えるのはリンカ様の方だけです。

 喧嘩を売られた時には思わず『親友』なんて言ってしまいましたけど、私と聖女様との正確な関係は正真正銘『ただの知り合い』です。


 一度や二度ならまあ、会話のタイミングが悪かったからと思えましたが、


「聖女様、リンカ様に何がありましたか?」


 ここまでリンカ様が一切話さない不自然さ。

 その不可解な事実に私の前に気が付き、リンカ様を気遣えた者は一人でもいらっしゃったでしょうか?


 もし誰1人として神殿関係者がリンカ様の異変に気付かなかったとしたら、婚約推進派などは善意を口にしている分、実に醜悪な事です。


 いつまで経っても聖女様からは返答がありません。

 これはつまり、言いにくい状態となっていると言う事で、


「やはり……リンカ様は酷くお腹を壊されたのですね。いくら扉を開けたくないからと言っても、私は洗ってもいない触手を介した食べ物の受け取りは衛生的にもどうかと……」

『全っ然、違うし!』


 その言葉と同時に外で大きな落雷がありました。外は晴天でしたし、完全に聖女様を怒らせたと思われてしまった私は神官に部屋の外に連れ出され、駆けつけた神殿長からも怒られてしまいました。

 ただ、不衛生な触手の件については私は絶対に譲れず、何とか神殿に触手の洗浄を試みると約束を取り付けてから家に帰りました。




 片付かない神殿の混乱は、巡り巡って別の場所でも問題となっていました。


 不思議と立て続けに起きている謎現象の煽りを受け、左遷先がソリウスの受け入れ期日の延期を申し込んできました。

 ただでなくても騎士団長が仰る通り「閉じ込めておけば問題が起きない訳ではない」状態であり、関係者の口も謹慎も限界が来ていた所でした。


「一刻も早い左遷を」


 私や騎士団長は会議で強く訴えるのですが、文官は遅延している事務手続きが終わる事を左遷の前提とし、「何か起きたら殴って止めろ」と言うだけです。

 実際、いない人間となっているソリウスを殴った場合、通常とは違って『何事もなかった』事にする必要が出て来るのでそう簡単な話ではないのですよ。乱闘のあった痕跡を完全に消し、治療も隠れて行わなくてはいけないなど、通常とは明らかに別会計の負担がかかります。

 書類さえ書かなければなかった事に出来ると思っている文官の皆さんにはその辺りの手間が理解出来ないようで、私は騎士団関係者とため息をつくのも会議の定番となっていました。


 なお、余談ですが、そんな会議を繰り返していたおかげで騎士団長と私は結構親しくなり、最近では互いの領地の特産品を送り合う仲です。


 とある日の会議後、以前に騎士団長から頂いた特産品をパウンドケーキにして奥様へと渡すと、珍しく騎士団長が愚痴を話し始めました。


「結局、罪人でもなく貴族籍を持っているソリウスは謹慎させ続けるしかない。公的にはいない事になっている者に人手を割く事も出来ないから、見張りも付けられないし、外部の人間が接触する事を防ぐ事は出来ない。本当に迷惑な事だ。いっそ本当に消したいぐらいだが、そうなると書類にしっかり残されるのだろうな……」


 騎士団長はとてもお疲れでした。

 騎士団の中でもソリウスは既に旅立った事になっているそうで、多くの騎士達に真実を隠しつつソリウスの監視をしているのですから当然でしょう。


「人知れず監禁も無理ですか?」

「監禁にかかる手間を誰も負担したくないからな」


 と言うか、『ソリウス』が旅立った事で、逆に本物はいつ消えても良い状態になってしまった気がするのですよね。

 多忙が続いて疲労状態が継続している方々はまだ気が付いておられないようで、微妙に運の良いソリウスが命拾いをし続けているのは、私としてはちょっと腹立たしい所でした。



 そして、それを本人が一番分かっていない事が最も腹立たしい事です。


「おい! お前の所為で私はリンカ様に誤解されたままじゃないか!」

「ソ……コルデーン伯爵令息、ご無事でしたか!? 神殿長はもうすぐ来ますから、直ぐに治療は受けられます! ご安心下さい!」


 自分の状況がさっぱり分かっていないソリウスが神殿に現れた事で、私は矛盾を悟られぬよう大声で即興の話をせざるを得ませんでした。

 見張りもない謹慎などいつか破ると思っていましたし、驚きはありませんが、誰ですか、私の居場所をソリウスに教えたのは。


 ソリウスが二言目を言う前に、騒ぎに集まってきた年配の神官達が神業の如き早さで有無を言わさず別室に連れて行きました。


 全ては時間にしたら五分もかかっていない出来事でした。

 ですけれど、巷で人気者の『ソリウス』の登場に、神殿内に僅かにいた一般人は目敏く気付いて色めき立ち始め、地位の高そうな神官が周囲によく通る声で、


「あくまで今日のソリウス様は治療の為だけです。直ぐに辺境に戻らなければいけません。つまり、ファンならどうすれば良いのか当然お分かりですね?」

「はい! ソリウス様の邪魔をしてはいけませんから誰にも言いません!」


 馬車から見た光景にしても見間違いかと思っていましたが、これは完全に押し活でしょう……。

 何処かに間違いなく私と同じような、ほぼ役に立たない知識しかないモブ転生者がいる気がしました。探しませんよ? その方の恐らく多分平穏な生活を乱したくないですからね……。


 その場が上手い事収まったのを見て、私はソリウスの連れて行かれた部屋に向かいました。

 無視して後から来る筈の騎士団に任せても良かったのですけど、運が良ければ殴れそうな機会だけは無視する事が出来ませんでした。

 扉を開けると、これまでのブレール子爵令息や王太子と何ら変わらない大声で、


「私はあの女に人生を狂わされた被害者なんだ!」


 久し振りに見た気がするソリウスは、神罰(三種類オプションなし)を受けている様子もありませんでした。全く以て謎判定です。ソリウスが元凶なので三種付けた上に足並みに手が臭いだとか、鼻からの息も口臭と同じように匂うだとかやって欲しかった所です。


「あいつの所為で私はリンカ様にも誤解をされたままだ!」

「は? 御自分に誤解出来る部分がまだ残っておられると、随分都合良くお考えのようですね」


 私の声が聞こえると、大きく体を震わせて振り返ったソリウスは……ぷるぷるし始めました。王都の男の反応は何回見ても謎です。


「丁度良い機会です。貴方とはじっくりと話し合う必要があるようですね」





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