22.【芋羊羹の安全性は闇に包まれ】
とんだ謎に塗れた材料で作られていた事が判明した芋羊羹は、やはり食べてはいけない系のものだった気がしました。
なるべくなら前回の訪問時に、食べる前に、教えて欲しかったです。
「聖女様、芋羊羹の材料が小豆(?)も含めて全体的に得体の知れない物質だった可能性が浮上しました……芋羊羹本体は黄色く細長いんですけど、何というか闇に包まれた暗黒的な」
『ふうん。例のあれの結果でしょう。転生者ジョークの結果。餡子と暗黒が似ているから、いっそ材料にしようと思い立ったと思うのよ』
「言葉が似ている程度で材料になると思えません」
『作った人間が食事系チート持ちだったんじゃないかしら? もしくは、この世界の闇がちょっと美味しそうだった?』
そうだとしても、どういう心理状態なら得体の知れない暗黒の物質を材料にしたお菓子を作って食べさせようとなるのでしょうか。
この世界には何処までも得体の知れない闇が広がっている気がしました。
私がこうやって扉の近くで聖女様と話している一方、離れた場所では神殿長とシルヴィス、運命の悪戯で神罰(聖女がやってると知っているので呼称は欺瞞)を逃れたシルヴィスのお兄様が話し合っておりました。
侍従達の件が収まると、私達の対応にあれやこれやと文句を言い出した神官達も体力が切れたのでしょう。今はとても大人しくなっておりましたので、3人の声は私の耳にもよく聞こえました。
「ええ。では、神罰(当然の帰結)を受けた聖騎士達も芋羊羹を食べさせる方向で」
「芋羊羹を食べた副作用は口だけなのですか。なら、うちも使い物にならなくなった文官の口に突っ込もうかな」
「無駄な口を叩くくらいなら聖女様を讃えるぐらいでいいですよね」
シルヴィス達は暗黒物質が材料でも気にならないようですね。
ただ、
「聖女様、芋羊羹の摂取により聖女様を無闇矢鱈に讃える方々が増量するようです。これでは聖女様と芋羊羹が無関係だと主張しても誰も信じません!」
『うーん、私達とは無関係なんだけど……。まあでも、芋羊羹の謎効果で讃えてくる人ばかりになったら、ここから出てきたくないかな!』
どう考えても、普通に嫌ですよね。
私も聖女様達に積極的に出てきて下さいとは言えなくなってきました。
「□○○×! □~!」
侍従達以外にもタラコ唇化した者がいたようで、何やら周囲に必死に訴えていますが、聖女様達の気持ちを追体験しているだけと思うと、私は手を差し伸べる気はサラサラありません。
だから、神罰(洒落大目)を受けた方々が治る方法などはっきりしているのです。最早わざわざ治さないとしか考えられない者達の事なんて、私からしたら不幸を楽しんでいるようにしか見えません。
……そう、恐らくきっと神罰(実はかなり適当)なんて珍しいものを受けて喜んでいるのでしょう。
不幸自慢という言葉を前世で何回か聞いた事あります。
彼らの態度は泣き叫んでいるように見せかけて、その実、はしゃいでいる。私の前世を含めた人生経験からして間違いありません。
きっと自慢出来る不幸になる事を望んで、新たなる罰を受ける為にも努力しているのだと思うと……
「……罰を受けている神官の方々は聖女様に、限界を超える良い感じの追加の罰を求めているようです」
『ごめん。全然言っている意味が分からないんだけど!』
「これは単なる頑固ではありません。芋羊羹を食べさせるか、追加の罰を与えるかの2択を聖女様達が迫られているのですよ! 少なくとも私は彼らに餡子物質を食べて欲しくありません! 聖女様、不幸自慢を幸福に感じるギリ合法らしき彼らに罰を与えてあげて下さい!」
『餡子なら良いんじゃない? 暗黒は駄目だと思うけど。後、罰と言われてもそうそうレパートリーはないのだけど!』
私も拷問なら少々知識がありますが、人に自慢出来る程度で収まる罰についてはちょっと分かりません。
「一応、残るは鼻だけですよね」
『鼻から鼻毛の代わりに花を咲かせるのも良いかなと思ったんだけど、ビジュアルが大分悪いかなって』
「鼻毛から生まれた花でも結局は鼻毛扱いなら普通に刈り取れるのでは? 切れるのなら回避策が簡単ですし、ちょっとタラコ唇のネタと被ってます」
『やっぱベタすぎか。天狗の鼻も考えたんだけどさー』
「あー。それは身支度を整える使用人が困る形ですよね。寧ろ皆鼻の高さを競い始めるかも知れません」
『そっちかー。うーん、フロスティアは何が良いと思う?』
「私なら鼻を顔から消します」
鼻から感じる匂いというのは案外人間にとって大事な物なのです。
匂いが分からなければ同時に味も分からなくなると、前世の世界の研究で分かっております。
決して鼻は眼鏡の土台だけの存在ではないのですよ。
『つまり、そぎ落とす』
「私の言わんとする事とは違うのですが、どうせ罰なのでそれで行きましょうか」
「駄目です。雑に神罰(目撃者からしたら神罰とする根拠不明)を決めてはいけません。既存の罰で十分ではないですか」
神殿長の言葉で私と聖女様は断念しましたけど、既存の罰で十分かと言えば、まだ何処かで叫んでいる方や倒れている方を見る限り、私には足りていないと思うのですよね。
芋羊羹が勿体なくて食べられないのでしょうか?
『芋羊羹で治すのは良いけど、変に私を褒め称える人間が増えるなら、絶対に出て来ないからね!』
その一言を最後に、神殿長や私がどんなに呼びかけても聖女様は返事をする事はありませんでした。
「……聖女様もお疲れなのかも知れませんね」
「そうですね。また後日にします」
聖女様が出てきたくなくなるなら、芋羊羹での治療(?)は必要最小限にするしかないでしょう。
何だかんだと色々あって忘れかけていましたが、聖女様達が閉じこもった原因の方を何とかしなくてはいけません。
そして、私と神殿長から少し離れた場所で、
「まあ、取り敢えず、どうしても仕事をさせなければいけない者には侯爵家のコネで手に入る、売れ残りの芋羊羹を食べさせましょう」
「人間の選別が難しいですね」
「そこは将来的に消えてもいい人物に絞って」
私が真面目に事態の解決方法を考えているのに、クライン侯爵家の兄弟達はまだ闇を語ってますね。
それにしても大人気で入手困難な印象があった芋羊羹なのですが、やはり神殿は売り渋られているらしく、どうやら売れ残りが存在するようです。
チート食品でも本気の完売は無理なのですね。
「まあ、最大の問題は糖分の過剰摂取で体調不良を起こしたときかな。店によったら滅茶苦茶甘いしね」
帰りの挨拶をしようと口を開きかけた私は、チート食品でも砂糖の呪いからは無縁ではなかった事を知り、思わず口がへの字になりました。
こんなに事件続きであれば、転生者チートが目覚めても良くないかと思うのは普通だと思います。と言うか、本気で永眠していないで目覚めて欲しい。
前世の記憶を思い出してから、ずっと心の片隅で願い続けているのですけど、私の転生チートは一向に目覚める予兆もなく、迫り来る問題も察知出来ません。
「神殿では王太子を止めてくれたとか。私はとても感謝しているわ」
失言と横暴と自己顔面認識喪失スキルと破滅に引き摺り込む友人達を持つ王太子を夫とする、王太子妃に私は何の因果か呼び出されてしまいました。
私は何ら役に立たないのですけど!
何ら役に立たないのですけど!
礼儀上、出された紅茶のカップを持つと、私の手は震えすぎていたので大きく紅茶が波打ち、慎重に時間をかけてソーサーに戻しました。
様子を見ていた王城のメイドからもちょっぴり同情の目が向けられ、私は心底今すぐ帰りたいと思いました。
私の粗相に近い動きにも王太子妃は静かに微笑まれ、
「それで……単刀直入だけど、相談があるのよ」
私はピンときました。
これは……申請書を提出したものの保留となっている離婚の話ですね!
『アレ』を揃えに揃えた王太子を支えるのにお疲れな王太子妃様、全国民の女性並びに大半の良識のある男性が味方ですよ!
さあ、離婚に留まらず、王太子を討ち取りに行きましょう!
思わず腰を浮かせかけた私に王太子妃は、
「溜まりつつある仕事をやらせる為にも王太子に芋羊羹を食べさせた方が良いと言われたのだけど、そんな物を食べただけで効くと思う?」
「何食べさせても無駄だと思います」
私は思わず即答しました。




