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嘘ばかりの貴方を愛すなんて誰が出来るの?  作者: 夏見颯一


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16.【結婚は姉を倒した後で(戦闘能力差的に不可能)】


 聖女様とリンカ様は転移者です。

 私達の常識とは異なる常識で生きておられ、王家に忠誠を誓った貴族では当然ありません。


 つまり聖女様達には王家に従う理由もなく、まして勝手に承認した婚約をリンカ様が拒否するなんて、物凄ーく当たり前の事でしょう。



 リンカ様の婚約が王太子権限で決まった後、シルヴィスからの連絡はありません。

 単に忙しいのでしょう。


 神殿内では婚約を喜んで受け入れている層と、リンカ様達の意見を尊重して拒否する層の2つに分かれて対立しているそうで、聖騎士もその騒ぎに無縁ではいられるとは思いません。

 あまりの対立の深さに神殿の通常業務(?)が行えないという話で、かなり多方面に問題が波及しているとか。



 フラーベル侯爵夫人がお茶の時間に深いため息をつきました。

 友人達を慰めに行ったとは聞いていたのですが、


「あの対立の所為で結婚式が行えなかったそうよ……気の毒に」


 仕事しろよ、神官。

 予約の時点で高額の手付金を払わせているのに結婚式をやらないなんて、流石にあり得ない事でしょう。

 第一、聖女様やリンカ様が結婚してもしなくても、神官の方々が一喜一憂するようなものはない筈です。神官の方々は一体何を考えているのやら。

 一緒に出かけていた母も大きなため息をつきました。


「大神殿ではないのだから、結婚式くらいやれるでしょうに……」

「本当にねぇ。職場放棄してまで議論する事なのかしら? 神殿長は頭を下げたそうですけど、一般の神官の方達は普通の結婚式よりリンカ様の方が大事だって」


 神官達の都合でしょうに、その結婚式とは本来無関係のリンカ様を引き合いに出すのは信じられませんし、非常に腹立たしい事です。

 それに、結婚式の準備には何年もかかるのですよ。一回流れたら準備し直す事は勿論、予約も取り直す事になって何年先になるかも分からないと聞きます。神官達はこんな常識、生まれた時からこの世界に住んでいるのに知らないのでしょうか。


「新婦になる予定だった子は泣いて部屋から出て来ないそうよ」


 何年も前から結婚を夢見て待ち続けていたのなら、本当に気の毒としか言い様がありません。

 事故でも何でもなく、神殿の都合なんてあまりに理不尽です。

 私は少し考え、


「伯母様、神殿の外で結婚式を挙げる事は出来ないのですか? この季節、領地の裕福な平民は結婚式とガーデンパーティーを合体させて行う事があります。当然自分達で用意する事になるので、ささやかな形にはなるかもしれませんが……」

「確かに平民の式よね……でも、神殿の外になるのだから呼ぶのは司祭だけで済むし、十分可能じゃないかしら。それに皆で新郎新婦の幸せを願って結婚式を準備したら、金ばかり取る神殿より余程素敵な式になるわ」


 私の意見に母も賛成してくれると、フラーベル侯爵夫人も考え込みました。


「……そうね。一応提案してみるわ」


 出来ないよりは出来る方が良いと思いますが、当人に神殿で挙げたいと言う拘りがある場合もあります。

 私もそれ以上は何も言わず、何も聞きませんでした。



 その後、どうやら新婦はガーデンパーティーを兼ねた結婚式を無事に挙げたそうです。


 それに続くように王都ではいくつものガーデンパーティーを兼ねた結婚式が執り行われたそうです。

 一部の神官は文句を言ってきたそうですが、外の人間が神殿内の議論の決着をダラダラ待たなくてはならないっておかしいですからね。自分達の都合で結婚式をやらせない癖に前金を返さない事も含め、逆に神官達が何処に行っても怒られまくったとか。



 こうして、ささやかな幸せの流れを作ったわけですが……これがリンカ様の結婚を押し進める流れになってしまったのは、私としては本意ではありません。


「聞けば、リンカ様の相手はブレール子爵令息だそうだ。あそこは爵位こそ低いが由緒正しい家で、どこよりも堅実さを重視した家風を持っている。私から見れば良縁だな」


 サロンに現れたフラーベル侯爵は難しい顔をしておりました。

 いくら神殿でも断りにくい家とかそう言った理由ではなく、


「あの家が正式に婚約したと発表したなら、私でも正しく婚約が成立したのだと思ってしまう」


 信用度の高いブレール子爵家が嘘をつく筈もない。そう貴族達は考えるとフラーベル侯爵は仰りたいのでしょう。

 これは非常に厄介な事です。


「リンカ様は貴族を恐れております。サインなどする筈もありません。王太子の承認した婚約の書類は偽造に違いないのに」

「そうであっても王太子が承認してしまった以上、リンカ様の婚約は成立しているという事だ。まして相手がブレール子爵家だ。虚偽の疑いを持つ方が責められる。フロスティアも外での言葉には気をつけるように」


 先祖達が立派だったから子孫は嘘つかないと考える価値観はなんでしょうね?

 先祖の気質や性質が子孫に完全に引き継がれるなら、由緒正しいフラーベル侯爵家の血を引いている父は、もっと思慮深くカードゲームの相手をしてくれる変な貴族に振り回される事はなかった筈なんですけどねぇ。

 私の不満げな視線に、伯父は意味が分からないといった顔で、


「ちょっと過程は問題だったかも知れないが、ブレール子爵家だぞ。良い話ではないか。結婚するだけでリンカ様は自由にしても良いと申し出ているのだろう?」


 譲歩したらいいわけではないのですよ。嘘をつくような貴族とは婚約も結婚もそもそもしたくないという話なんですよ。

 正直に口にしたとしても貴族らしい貴族の伯父は理解出来そうにないので、私は黙ったままです。

 婚約を嫌がってリンカ様は泣いていると聞いても、この調子なんですからね……。


「ラーデン国のようにこの国にも火の雨が降る日も近いでしょうか?」

「何故そんな話になる? リンカ様も結婚して、これでようやく幸せになれるだろう?」


 全然全く話になりません。

 もしかすると、リンカ様の婚約を喜んでいる神官達もこんな感じなのかも知れません。


「結婚したらリンカ様が幸せって、伯父様は何を根拠に仰るのですか? まさか結婚する事が幸せとか子供みたいな事は仰いませんよね。と言うか、明らかにブレール子爵令息はリンカ様から嫌われているのに、伯父様達は何処に目を付けておられるのですか?」

「嫌われているって……そんな事は」

「普通、泣いて嫌がるってそういう事でしょう。伯父様は家名だけですっかり信用されておりますが、ブレール子爵令息がどういう方だか御存知ですの? 息がくさいとか服が何日も変えるのを忘れているだとか、女性の前では挨拶代わりに下ネタを言う人だとか分かったものではないでしょう」


 会話には参加しておりませんが、サロンにいた従兄弟が「そこまで言うかな」と呟いたのが聞こえました。

 あくまで会った事のない人間の、もしかすると実像かも知れない想像上の悪癖ですよ。


「うむ……だが、ブレール子爵家はな」

「家名は女を口説く文句になると仰るのですね。今度から伯父様達が家名を名乗る時は、必殺の口説き文句だと思う事にいたします」

「いやいや、フロスティア、そこまでにしよう。父上も会った事もない人間を家名だけで無闇矢鱈に信用するのはお止め下さい。それにお忘れのようですが、そのブレール子爵令息は王太子の友人ですよ」


 止めに入った従兄弟の言葉に伯父ははっとした顔をしました。


「あやつの友人なのか! 何処に信用が置けるというのだ!」


 王太子にはある種の信用が物凄くあるようですね。

 取り敢えず伯父の説得は出来ましたが、それでリンカ様の婚約の問題が変わるわけではありません。



 とうとう閉じこもってしまったリンカ様に、神殿は困り果てた末に私を呼び出してきました。


「ついでにシルヴィスに会いに行きましょう」

「貴女の方も婚約は嫌だとか何だとか言ってたのに、随分楽しそうじゃない?」


 カテリーナのからかいは全面的に無視をします。

 折角会うのですからね。差し入れも良いのですが、神殿は何かと規則がありますからね……。


「悩んでいるのって差し入れ? 流行っているし、芋羊羹で良いんじゃない?」

「本当に流行っていたの!?」


 芋羊羹はカテリーナとフラーベル侯爵夫人の好みではないそうで、今まで話が出て来なかっただけだそうです。

 この世界は未だに何が何だか分かりません。



 とは言え、他に適当な差し入れも思いつかず、前回とは違う店で用意した芋羊羹をバスケット一杯に持って神殿に行くと、何やら奥から慌てた様子の神官が走って来るのが見えました。

 私に向かってではなく、近くに偶然いたその神官の上司に向かってですけど、


「聖女様が……! リンカ様の結婚を口にした副神殿長を殴りやがっ……ぶん殴っ、いやいや、お殴りにな……違う! 殴られました!」


 殴るって敬語で言う機会はなかなかないですよねー。

 力で制圧するタイプの聖女様の行為が真逆の話になった事で、周囲で話を聞いてしまった他の神官達が大きくどよめき、大騒ぎとなっていきました。


「それで……聖女様は!?」

「はい! 副神殿長を昏倒させました!」

「意味が繋がらないからな!?」


 取り敢えず、一層混沌となっていく周囲は横にして。


 痺れるー、憧れるー、流石聖女様。





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