12.【血縁者は良くも悪くも似ている】
今度という今度こそソリウスは左遷だと私は確信していたのですが、聖女周りに瑕疵がある事を異常に嫌う人々は、尋常ではない程に慎重でした。
後日、談話室に呼ばれると、フラーベル侯爵が「ソリウスは当面謹慎となった」と仰いました。
「……勿論謹慎中に毒杯を仰ぐのですよね?」
「リンカ様に婚約を申し込んだ者が消えるには早すぎる。勘ぐられたくない方達がもう少し待つと判断された」
あれだけ不敬と混乱をもたらしたのに?
謹慎程度では当然溜飲は下がりませんし、より腹が立ちます。
せめてソリウスは迷惑料として聖女様に顎くらい砕いて頂くべきでした。
「聖女に毒を盛った犯人の処分の方が優先だったから仕方ありません。既に日数が経過したら辺境行きが決まっているソリウスの事など後回しの後回しでしょう」
同席していた従兄が優雅にワインを傾けながら説明を続けました。
従兄は王城で第二王子殿下に仕えているそうで、あのお茶会の終了時には迎えに来てくれました。
「……毒を盛られたのが聖女で良かったのか、悪かったのか」
「良かったのですよ、父上。誰もあんな下らない理由で死ぬ事はなく、穏便に退場して頂けたのですから」
聖女様の毒殺未遂事件はお茶会があった事そのものが伏せられ、表面上はなかった事になりました。
なにせ毒を入れる事を指示したのは、第4王子殿下の母君である側妃様でしたから。
早々に判明したとは言え、聖女様にとっては婚約者の母。
聖女様の瑕疵を一切なくしたい方々にとっては頭の痛い事でしょうね。
「下らない理由って何でしょう? ソリウス以上があったのなら聞きたいです」
「君がいくらお茶会の当事者でも動機は一応話せないけどね……誰でも知っている事だけを話すなら、側妃様は第4王子殿下の何もかもが気に入らない方だ。以前の殿下の婚約者である公爵令嬢のように、聖女様の事も気にいらなかった。本当、誰でも知っているんだよ」
……この状態から、瑕疵が聖女様周辺に見当たらないようにする?
聖女様周辺の方々の、ほぼ達成不能と思われるミッションが始まっていたようです。
「……聖女様の立場で第4王子殿下を婚約者に据える時点で問題が出ると予想出来たのではないでしょうか?」
「私も意味が分からないと思ったんだけどね。世の中には、折角王子として生まれたのだから第4王子殿下にも立派な婚約者をと願う、善意の暴走というものが存在するんだよ」
「それでも意見を……」
「私の主も無理だったのに私如きでは……」
「親心なら仕方ないですね……」
「祖母心だ」
あー……。
明言しなくても、そこまで言ってしまうと聖女様の婚約の元凶は王太后って事になりますね。
問題を片付けぬまま追従して婚約を認めてしまった周囲にも問題がありますが、前世も今世も変わらず善意は扱いが非常に難しい。
「今回の件は誰の責任となりますか?」
「さっきの話を聞いていたかな? 実行犯と一緒に塔に行く事になったんだって」
犯人の処分が優先としか聞いていなかったのですけど?
実行犯と指示役だけが分かりやすく処罰を受ける事になったのですね。
王家の問題は不敬も出て来るので色々はっきり言えないにしろ、分かりにくい会話になってしまうのはとても困りものです。
「塔に蟄居って問題があった証拠になりますよね。その処分って、聖女様の瑕疵にならないのですか?」
「この処分は聖女様は関係なく、ただの積み重ねという事になっているから。他にも側妃様はあれこれしてたし」
「……面倒ですね。どうせ側妃様の件が積み重ねで通すのなら、中途半端な事をせずに今まで積み重なった分をかっちり清算した方が良いのでは? 寧ろきっちり処分を下した方が瑕疵のない聖女様とは無関係の顔が出来ますよ」
でもかっちり処分となって第4王子殿下の母親が離婚したなら、それも避けるべき聖女様の瑕疵になるのかと私が悩み始めた一方で、私の言葉に伯父と従兄が笑い出しました。
「それは良い意趣返しだな。闇雲に瑕疵を気にして伏せるより、敢えて大々的に公開してから処分をするか……」
「下地もありますし、良いのでは?」
何やら上機嫌に伯父達が話し出し、私は上等なワインを一杯頂いて部屋に戻されました。
二日後、国王陛下と側妃様の離婚が発表されました。
王宮生活に馴染めず長い年月で体を壊された元側妃様は、遠いご実家に帰られ静養されるそうで、第4王子殿下の結婚式にも参列されないとか。
最初からこの形でやれよ、と私などは思ってしまいますが、王宮の賢い文官の方々や清らかな神官の方々のお考えは分かりませんね。
取り敢えず、私の案はどうやら側妃様に困っていた方々の溜飲を下げさせる事に成功したようです。
その後、誰からか分かりませんが、御礼として従兄から瑕疵ならぬ菓子を箱で頂きました。菓子を分けてあげた時にエウリシアが「第二王子殿下御用達の店のマークがあるね」と言ったのが答えなのでしょうね。
聖女様のお茶会が終わったと思ったら、今度はリンカ様からのお誘いがありました。
何でしょう?
つい私の口から出てしまう言葉から、同じ世界の匂いを嗅ぎ取られたのでしょうか?
「お姉様、干物の匂いがしたのでは?」
一応まだ私はリンカ様とは親しくはないと思うので、会話の助っ人として探した所、カテリーナも都合が悪い日だったので、急遽エウリシアに同席を求めました。
淑女学校でも家族関係の用事の外出は認められております。
「まさか……」
私が普段食べている干物はクサヤではありません。普通の海産物です。
納豆でなければ気が付かれないと言う考えは、浅はかだったのでしょうか。
「干物の匂いに気付かれると言う事はお嫌いなのね。どうしましょう。お土産にスルメを持ってきてしまったわ」
「お姉様! 毎回言っておりますが、その贈り物のセンスはどうかと思いますよ? 若い女性なのですから、お菓子かちょっと高い紅茶。その二択で良いんですよ」
「貴女を迎えに行くまでに決めてしまったわ」
「どうせそんな事だろうと思ってお兄様に連絡して用意して頂きましたよ。今、時代は芋羊羹なんです」
頼りになる実兄と実妹です事。
でも、私がフラーベル侯爵夫人やカテリーナと一緒にいる時に、芋羊羹が流行っているなんて聞いた事がないのだけど、大丈夫かしら?
「……そう言えば、淑女学校で流行なんて耳に入ってくるものなの?」
「じゃあ、スルメの方が良いと仰るの?」
スルメか芋羊羹か……。
ここでも二択を迫られるのね。用意したのはどうやら実兄ですし、ここは家族の顔を立てるしかありません。
「両方お出しするしかないわね」
「どちらも食べられる物だから大丈夫ですよ!」
「貴女はいつも呑気よね」
私達はそんな呑気な会話をしておりましたが、リンカ様の用事は能天気な私達には縁遠い深刻なものでした。




