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傾ぐ世界(均衡の彼方)  作者: 斎王暁圭
第一部 兆し

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5/17

第一部 第4章 中央神殿

7/10 第十四章まで完了。


2026.09.27

一部修正。

 

 馬車と並行して上り坂を進む。

 リオンは、歩きながら退屈していた。

「ねえ、ガレス、ずっと黙って歩いてるのって、たいく…」

 と、一瞬、視界が白く光った。

 リオンはその場で目を瞑って立ち尽くす。

 気付いたガレスは、リオンに声を掛けようと半歩踏み出した。

 そのとき、まるで呼応するかのように、馬車を引く二頭の馬が棒立ちになり、神経質そうに鼻を鳴らした。

「?」

「どうし…」

 声が終わらないうちに。

 ガガガガガッ!

 大きな横揺れが起こった。

 ヒヒ、ヒヒーンッ!

 馬たちが後足で立ち上がって嘶いた。

「どうどう」

「落ち着け」

 ユルトとガレスが手綱を引いて馬を宥める。

「リオン、離れて」

 エリシアがリオンの手を引いて、馬車から引き離した。

「馬はとても神経質な生き物なの。今の揺れで怯えているのよ。蹴られたら危ないから、こういう時は近づかないように」

 男二人が馬を宥めている間、リオンは「動物たちが不安がってるのに、人間は何とも感じないの?」と疑問に思っていた。

 リオンは知らない。

 今、この揺れが世界の中心にまで届いていることを――。


 同じ頃。

 中央神殿――その名の通り、世界の中心に位置する神殿だ。

 その、中央神殿の最奥、白一色で統一された部屋に、ひとりの少女が眠っている。

 しかし、百年の歳月を寝台の上で眠り続けた少女は、苦悶の表情で荒い呼吸を繰り返していた。

「まだ落ち着かないのか?!」

 ざわつく室内で、一人の老神官が神経質な声を上げた。

「各地で柱が倒れています。ミリヤにかかる負担が増しているからでしょう」

 眠る少女――ミリヤの体を調べていた神官が答えた。

「そんなことは解っている!倒れた柱の代わりはまだなのか!ミリヤを失えばどうなるか…!」

 老神官はひとり、喚いている。

 少女の寝台の周囲を落ち着きなく歩き回る老神官を、他の神官たちは半ば無視していた。

「この百年、なんとか均衡を保ってきたというのに…何故急にこんな事態になるんだか」

 ぼやき続ける老神官を無視して、他の神官たちは慌ただしく部屋を出入りしていた。

「ぐっ…!」

 突然、ミリヤが呻いた。

 次の瞬間――

 ガガガガガッ!

 足元から突き上げるような揺れが起こった。

「あああー!」

「何だ?!」

「地震か!?」

 方々で声が上がる。

「なんてことだ!これ以上待っていられん」

 揺れが収まるや否や、老神官は足早に立ち去ってしまった。

 他の神官たちは、ミリヤの様子をくまなく調べる。

「変化なし」

「周辺の被害状況と他の柱の状況を調べろ」

 部屋の緊張は高まっていた。


 夜。

 昼間の地震から体がふわふわする感覚が抜けないリオンは、「体調がすぐれない」からと早々と就寝した。

 規則正しい寝息が聞こえてきたのを確認して、ガレスが話し始めた。

「中央神殿は、この地震をどう捉えているんだ?」

 ちらとユルトを見やってエリシアが答えた。

「『各地で柱が倒れている』と。それによって魔力が不足し、世界が不安定になっていると考えているようです。地方には『柱の代わりを提供せよ』と指示が出されています」

 スープを啜りながら、ユルトがガレスに聞いた。

「なあ、この子が十五年前の赤子なら、柱の候補ではないだろう?『存在しないものとして見過ごせ』と西の神官長に言われたんだ。出生記録は存在しない」

「ユルト、中央神殿には強力な柱がいる。リオンはその柱と並ぶ素質を持っているかもしれない。だが――」

 そこまで言ってガレスは鋭く周囲を窺った。

 そして声を潜め言い切った。

「柱にはしない。神殿に利用させるつもりはない」

 エリシアが後を受ける。

「私は、ラーソン村のリオンという少年を保護するように言い付かっています。『保護』の目的が何かは聞いていませんが、『柱候補を連れてこい』とは言われていません」

「神官が逃亡するのはままある事ではあるがあな。身元を隠してどこかで生活してるのはいても『存在しないもの』とまで言われたのは、後にも先にもあの時だけだ。十五年前、中央神殿で何があったんだ?一緒に保護した女神官はどうした?」

 ユルトの問いにはガレスは答えなかった。

 無言のまま、時間だけが過ぎて行った。


 純白の世界を漂う――

 ふわふわと浮いているような、落ちているような、なんとも判別つかない感覚にリオンは目を覚ました。

 感覚として目を覚ましたのだが、目に映るものがおかしい。

 辺りは純白の――闇。

 光も影も存在しない。

 静かに、全身の神経を研ぎ澄ませる。

 右手の平に、魔力を集める感覚を意識した。

 ふいに、純白の世界に小さな点が現れた。

 ふわふわと、ただ「近づこう」と意識する。

 点は次第に大きくなっていく。

 純白の世界に溶け込まない、異質な白。

 それは天蓋のかかった真っ白い寝台だった。

 この白い空間で、はじめて自分以外の存在を感じてリオンは歓喜していた。

 寝台を前に、理由のわからない興奮を感じる。

 刹那――。

「――!!」

 頭を殴打されたような、激しい痛みが襲った。

 リオンは天蓋に手をかけ、そのままずるずると崩れ落ちて行った。


 リオンは目を開けた。

 眼前に満点の星空が見える。

「大丈夫か?うなされていたぞ」

 ガレスの姿を認め、リオンは安堵した。

「大丈夫です」の一言だけで、無意識に額を抑えるリオンを見て、ガレスはエリシアに声をかけた。

「少し、診て欲しい」

 エリシアは頷いて、近づいてきた。

「不自然な魔力の『揺らぎ』がありました。訓練の影響かもしれません」

 エリシアは横たわったままのリオンの空いている手を取った。

 リオンには握られた手から、ふわふわした温かいものが流れ込んでくるのがわかった。

「ああ、いい気持ち」

「魔力の流れがいいわね。随分疲労しているようだけど、無理せず休みなさい」

 エリシアは、離した手でリオンの頭をひと撫でした。

 リオンはまた、眠りに落ちていった。

 その様子を見守っていたガレスが、エリシアに尋ねた。

「リオンは特別なのか?」

 エリシアはちょっと首をかしげて答える。

「とても魔力の流れが良いです。でも、そういう人はたまにいるので、なんとも」

「中央神殿には知られないようにせんとな」

「今までは僻地にいたので、上手く隠してこれたのでしょう。神殿には、色の薄い人は沢山いますが、魔力の流れに敏い者は多いです。隠しきれるかどうか…」

 座っていれば分かる程度に、小さく大地が揺れた。

「それでも、この子しか残されていない」

「まだ子どもなのに、世界を背負わせるのは…私は反対です」

「俺はもう、生贄を求める世界を終わらせたい」

「それは…私も同意です」

「俺たちはもう、見たくないんだ。神殿に連れてった子どもが死んでいく様を」

 ガレスとエリシアが振り向いた。

 仮眠を取っていたユルトが、決意の籠った目でこちらを眺めていた。

「この世界は、狂っている」

 その声に、返事をする者はいなかった。


「ミリヤの魔力が飽和状態です!」

「どういうことだ?」

「原因は調査中。ですが、しばらくは潤沢に魔力供給が行えます」

「それならいい。とにかく、少しでも時間を稼げ」

 白一色の部屋には純白の寝台。天蓋は下り、中の様子は僅かに透けて見える程度。

 周囲の喧騒を無視して。

 寝台で眠る少女は、穏やかに呼吸している。

 その表情は、僅かに微笑んでいるようだった。




第一部は十四章までですが、全体を整えて修正を加えていきます。

途中、長くなったら章を分けるかもしれません。

公開が先か、校正が間に合うか…w

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