第78話 死んだ竜がいるPERT7
「除霊とはどうやる?」
「なんか相変わらず面倒くさい話し方ですね?」
浜野さんはたまになんか儀式めいた話し方をします。話の順番というか流れの形式を嫌にこだわるときがあるんです。そういえばそういう呪術があるって師匠が言ってた気がします。
「えーと、除霊となると伝承的には死者の未練を断ち切ること、呪文とかでしょうか?でも私が師匠に教わったものは違いますね。幽霊の形をかき混ぜてバラバラにするみたいな?すみません感覚的な話で」
私は本当にたまにだが連盟のお仕事を引き受けています。だから除霊みたいなことも何回もやったことがあります。とはいえほとんどは何もないただの形式的なもので終わりましたが。連盟でのお仕事単体ではルール6に違反してしまいます。でも連盟が一番私の力を制御するすべを得るのに適した場所です。
私は自分の能力を制御する大切さはよくわかっています。そのためのルールなんです。それに、浜野さんと初めて会った時に紹介してもらった組織でした。何年もいて浜野さんの連盟嫌いはよく知っています。そんな中、わざわざ話を通してもらったので今更距離を取るのも申し訳ないような気もしているんです。
「いいや、かまわないさ。連盟の能力者も秘密主義で秘術は隠すものさ。まあ、魔性に知られないためという目的もあるだろうがな。ただ、そうだな今回はそのどちらも有効じゃないだろうな」
「有効じゃないというのはどうして?」
「単純な話だ。こいつの力が強すぎるんだよ。幽霊ってのはせいぜい近くの人間に害をなす程度だがこいつは死後、カシュガルから西安まで影響を及ぼす力がある」
カシュガルも西安もどこかわかりません。一応世界史で一般入試は受けているはずなんですが、本当にこの人の知識量には驚かされます。あるいは左目の力なんでしょうか?
「じゃあ、どうするんですか?お手上げってことですか?私、一応勘はいい方です。中の奴が目覚めたらやばいってことはわかります。私が全力で押さえ込んで、なんとか抑えられるかどうかって感じです」
勘がいいからわかるっていうのは嘘です。ええ、皆さんご存じのように私は一度実際に見ているので。私ではどうにもできないことも経験済みです。だからこそこれをどうするのかを聞いてるんじゃないですか。
「まあ、見てろ」
浜野さんはただそう答えました。その表情は自信にあふれてました。
「宙理、少し待っていろ」
そう浜野さんが言うと部屋を出て行きました。完全に置いていかれました。足音的に自宅へ行っているようです。壁の本棚から読めそうな本を手に取り読むことにしました。
「すまん待たせた」
20分ほど経って戻ってきた浜野さんが言います。手にはカナヅチと何かが握られていました。
「さてと」
そう言って浜野さんは小さい黒い箱を机に置きます。
「結婚指輪ですか?プロポーズなんて!もう!タイミングというものがあるでしょう」
どうせ何の説明もせず私にやってほしいことを言ってきます。妖に向き合うときのこの人はいつだってそうです。何か引き出せないかと茶化してみます。
「変な妄想はやめてくれ」
「ちぇ、適当に既成事実を作ってやろうかと思いましたがだめですか」
普通にマジトーンで怒られました。それはそれで悲しいんですよ?
「さて、うまく行くといいんだが」
「さてはあんまうまくいかない可能性がある奴ですね?」
「ああ、五分五分かね」
「それで私は何をすればいいんですか?」
話が長いのでこちらから切り出します。心を読まなくたってこれくらいは先が読めます。
「これから封印を解く。中から出てくるやつを押さえてほしい」
「え、あれを?私一人で?」
正直すぎる感想かもしれません。一度やらかして実物を見ていることがばれるかもしれない発言でした。とはいえ、中身についてはその左目の力で私よりわかっているはずです。さすがに無理なお願いです。
「やれるか?」
さすがにそれは私に期待しすぎです。とはいえそれしか方法はないのでしょう。やれるだけはやりましょう。
「浜野さんが私に振り向いてくれるなら?」
一応、報酬についても聞いてみる。
「活躍次第だな」
お?思ったよりいい返事が返ってきました。言質、取りましたからね?
「じゃあ、やりましょう!」
私はやる気が出てきました。期待されたからには応えるしかありません。
「じゃあ、宙理が準備でき次第封印を解くぞ。いいか?」
あれは正直気の持ちようくらいしか対策のしようがないのでいつでも問題はありませんでした。
「いつでも!」
元気よく答える。
浜野さんがいともたやすく封印を解くと中から例の霧のような化け物が飛び出します。どう見ても竜なんかには見えないです。
それを私は能力で押さえ込みます。霊的な物とわかっているからか、前よりもうまくいきます。周りの揺れも前回よりましになっています。前回より余裕ができたからわかったんですが部屋中に変な文字が浮かび上がり鐘のような音が鳴り響いてました。浜野さんかお師匠さんが用意した何らかの術でしょう。もしこれがなければ、多分私が押さえることなんかできないくらい目の前の妖は強い。そんな確信がありました。
「宙理!力を止めろ!」
指示に従い押さえ込む力を緩めたらみるみる霧は浜野さんの手の中にある箱に吸い込まれていきました。
「これで終わりですか?」
私は完全に疲れ切ってました。冷静に考えるとこれと二連戦しているようなものなのでヘトヘトです。
「いいや、これだと封印先を変えただけだ」
そう言いながら箱の中を見せられます。なんか黒い石があることしかわかりません。
「これは?」
「黒曜石だ。昔から黒曜石という物は人類の発展に深い関係のある鉱物だ。成立しない形の鉱物。理屈は抜きにして、こういった霊的な存在にとって仮の肉体となるんだよ。それでだ」
そう言いながら目の前でその黒曜石を壊しました。
「こうすることで、完全にもう一度殺すことができる。本当は相手の魂を引き抜いてから呪殺する用の魔法の品なんだがね。こういう時にも使える」
なんか物騒なことが聞こえましたが聞かなかったことにします。
「いいんですか?聞いたこともない物です。貴重な魔法の品でしょう?」
「まあね、作るには手間がかかるし、黒曜石の状態にも左右される。その時の気候次第ではうまくできあがらない。まあ平均3年に1個できたらいい方だ」
人物 人物 「待ってください!作る?いま作るって言いました?」
「ああ、君たちが相対する呪いの品も、自分たちが使うような不思議な品も誰か高名な僧が作ったような物じゃないか。物っていうのは誰かが作ってこそ存在する物だ」
「まあ、そうですけども」
なんて言いました?自分で作る?
今まで話してくれていませんでしたがのぞき見はしてました。なのでそんな気はしてました。でも、今の話で確信しました。この人は多分魔法にとても精通している。と言うよりもほとんど伝承に出てくるような魔女や魔法使いの類 人物 なのでしょう。
だから、浜野貫之という人は大祓連盟と距離を取っている。なぜなら、この人はほとんど妖なんだから。
そんな彼は、私が来る前に見ていた本を慌てて開き始めました。
「浜野さん?私の活躍をよそに何してるんです?」
私の声は聞こえていないようだった。さっきの死闘で散らかった机の横上にはちょうどその本が入るくらいの配達の包み紙があった。送り主の名は天野美佐。前に聞いたことがある。浜野さんの師匠の名前だ。
私はなぜ浜野さんが、本人が魔性と呼ぶものの退治に熱心なのかその時初めて理解しました。いや、師匠の教えと行っていたがその実は違うんだろう。
多分この人自身が魔性と人間の狭間にいるからこそ、そうしないといけないと思い込んでいるんです。




