第76話 死んだ竜がいるPERT5
私は自分の行動にルールを定めることにしています。
1.自分の能力について決して自分から明かさない。
2.自身の力が関係せずに、あるいは力及ばず起こってしまったことは改変しない。
3.他人の心は絶対に読まない。
4.他人の心に干渉しない。
5.未来は絶対に見ない。
6.普通の女の子として生きる。
7.死ぬときは老衰で。
これが私、芦屋宙理が自分に課しているルールです。私はせんげん台駅を降りてデカデンティア探偵事務所に向かうところでした。愛しの浜野さんに会う口実ができたからなんです。
とはいえ、古代の壺に付けられていた紙に依頼が書かれているとは。あの人は一体どんな運命の下にいるのでしょうか甚だ疑問であるが、あの人はいつもそんな感じで不思議に包まれているので。
この話が私の師匠である、能伊煌大の下に来たのも運命なのだろうか?そんなことを私は考えます。
駅から歩いて45分ほどでデカデンティア探偵事務所の前に着きました。いくら、私の片足が義足だとしてもアクセスが悪すぎると思うのですが。とはいえ、あの人らしいなとも感じた。まあ、あの事務所は彼の師匠が建てたものらしいので彼の趣味嗜好ではないでしょう。
さてと、私はどうやって顔を合わせようか。久しぶりに会うのです。それなりに好印象を抱かせたい。私は、浜野貫之に好意を抱いています。
理由はいろいろとあります。彼は私の持つ能力について誰よりも親身になってくれた人物であり、誰よりも強い人間なこと。そして彼の持つ”オーラ”に対していわば一目惚れでした。
「やっぱり、インパクトある方がいいかな」
私は事務所の扉の前に立ってそうつぶやく。なんせ、ほぼ半年ぶりなんですから。私の大学入試などがありなかなか会えていなかったから。彼が私以外の美人に会っていないとも限らない。なので思いっきりインパクトを残すことにしましょう。
事務所の扉を右手で開ける。中では左目に眼帯を付け、黒のオーバーサイズの服を着たあまり手入れをしていなさそうな黒髪の男が本をにらめ付けていました。それくらい熱心に私のことを見てくれてもいいのにと思うのですが。
「はっまのさーん!」
私の声に浜野さんは顔を上げる。私は右手に”取り出していた”例の壺が包まれた風呂敷を大きく振りかぶり、”床にたたきつけました”。
「たのもーう!」
大きな音を立てて壺が割れます。
中から黒い霧の様なものがあふれ天に昇ろうとしています。事務所の壁中に見たことのない緑色の文字が浮かび鐘の様な轟音が鳴り響きました。
あれ。
これ、もしかしてまずいやつですか?
建物がミシミシという音を立てています。まるで木の枝をダンプカーが轢くときのような悲鳴が鉄筋コンクリート製の建物から鳴っているじゃないですか。
「おまえ!これはどういうつもりだ!」
浜野さんが机の下に体を隠しながら怒号を上げる。建物が揺れる。立っていられないほどだ。いや、建物だけではありません。窓から見える電柱も揺れていました。程なくして緊急地震速報がスマホから鳴り始めました。
完全にやらかしてしまった感じですね?
なんとかしようと右手を黒い霧状のものに向けて、強く念じることで押さえ込もうとする。建物にひびが入り、遠くで家が崩れる音がします。そしてこの霧状の奴を私一人では押さえ込むことができませんでした。
もうどうにならなそうです。
なので、”やり直す”ことにしました。
そもそも私の短絡的な行動が原因です。ギリギリ、ルール2には抵触しないはず。それに完全に私がいけないのだから、これくらいのやり直しなら世界が許してくれるはずです。
目を開けると私はデカデンティア探偵事務所の前に立っていました。
私は階段を上り探偵事務所に入る。
「はっまのさーん!愛しの宙理が来ましたよ!」
私は右手を振りながら部屋に入りました。先ほどと同じように本を読んでいた浜野さんはめんどくさそうな顔をしていました。なんて薄情な!
「浜野さん、連盟からのお使いできました」
「なるほど、理解した。帰ってくれ」
いくら浜野さんが連盟のことを毛嫌いしているとしてもひどくありませんか?自分に好意を抱いている少女に対する言いようじゃないと思う。
「ええ~、せっかく浜野さんに会う大義名分が出来て飛んで来たのにひどいじゃないですか。こんな美少女のお願いを無視するんですか?」
「君が美少女なのは否定しないが、自分で言うのはどうかと思うぞ。あとなぁ、おまえら連盟の仕事を何で僕に押しつけるんだ?意味がわからないだろ」
あ、やっぱり浜野さんも私のこと美少女だと思っているんですね。それを知れたのは大きな収穫です。とはいえこの壺の中身は私一人ではなんとかできないので浜野さんの気を引くしかなかった。
「意味がわからないのは同意しますね。いかんせん依頼主からの希望ですから」
「どういうことだ?」
「まあ、つまり話は聞いてくれるということですね?話の始まりは栃木のある神社に持ち込まれた壺にあるんですよ。どうも古代中国かペルシアに由来を持つもののようで、戦後のゴタゴタで日本に持ち込まれたみたいなんですが。それには代々覚え書きっていうか説明書っていうか?なんかそういうものが受け継がれてきたみたいで。そこに書いてあったんですよ。今年の8月、つまり来月までにデカデンティア探偵事務所に持ち込むようにって」
「何を言ってる?古代に書かれたものなんだろ?なんでこの事務所のことが書いてある?そもそも探偵事務所なんて概念すらないだろう?」
「そーれは、その通りですよ?だから私たちも頭を悩ませているんですよ。でも、どう読んでもそう書いてあるんですよねこれが」
「それで実際のものを見せろ」
私が、私の気持ちを全身で表現しながら伝えているといい反応がもらえました。そう、結局浜野さんは私の手伝いをしてくれるのです。と言うより興味がありそうなことがわかりやすいとでもいいますか?
何にしろ浜野さんの一本釣り、成功です。




