大神信仰①
俺、波多野弘樹は夜の池袋を歩いていた。目的なんてものはない。大学のサークルでの飲みの一次会と二次会の会場の予約時間までの間に1時間あったので酔い覚ましとしてふらふらと歩いていたのだ。
夏とはいえ、少し生ぬるい夜風を浴びるうちに酔いがようやく覚めてきた。俺は酒にあまり強くないくせに付き合いでそれなりに飲んでしまうのだ。これには反省しないとなと思っていた。
街中で懐かしい顔を見た。普通池袋の喧騒の中で個人の判別などはなかなかできないが彼は特別だった。俺の恩人であるし、なんせ左目に黒い眼帯をつけている同世代などなかなかいない。相も変わらず胡散臭い変な服を着ていた。
「おい!浜野!浜野だろ?」
俺の呼びかけで男は振り向きこちらを見た。
「波多野久しぶりだな。まだ夜遊びしているのか?また、変な女に魅了されているのか?」
「ちげーよ、サークルの飲みで二次会までの時間をつぶしてるんだよ。ちょっといいか?」
「いいよ。僕も用を終えて帰るところだったからな」
俺たちは壁にもたれて話を弾ませた。この男は浜野貫之と言い同じ高校で過ごしたやつだった。少し変わっているが話は出来るほうだし俺たちは仲良くしていた。高校卒業して俺が大学に行った後は疎遠になっていたがまさかこんなところで会えるとは。
「浜野は高校卒業後どうしてたんだ?まだ探偵してるのか?」
「ああ、相変わらずさ」
浜野という男は、ある探偵の元で暮らしており彼女の死後その仕事を継いでいたはずだ。話を聞く限りいまだに探偵をしているらしい。確かに浜野はかなり頭が回る。名探偵にもなれそうな雰囲気がある。
そんなことを話しているうちに、二次会の時間が迫ってきていた。
「あっそうだ、浜野。今月の25と26日空いてるか?」
「どうして?」
「25に3-Bのメンバー数人で集まってよ、埼玉のO市でキャンプすんだよ。良ければ来ないか?」
なんとなく、俺は誘ってみた。浜野があまり、人付き合いが得意なタイプではないことは知っているが別にクラスで浮いていたわけではない。久しぶりに彼に会えるとなるとみんな喜ぶだろう。近況が気になるものもいるだろう。
「まあ、行けないことはないが」
「じゃあ、参加な!」
こういう時は押さないと逃げられてしまう。浜野という男はそういう奴なのである。
「ああ分かったよ」
乗り気なのかそうでないのかはわからないが彼は納得したようだった。
そのまま、俺たちは別れることにした。
波多野です。メンバーが増えることになったぞ。ここに招待するわ。
誰?
聞いて驚け、浜野だ。
あいつ?良く連絡とれたな。
え?あいつ普通にクラスグループチャットにもいるぞ?
まじかよ。
意外とその辺ちゃっかりしてんだよな。
あいつに会うの卒業以来だよ。楽しみー。
キャンプのグループチャットに連絡を入れるとすぐに反応が返ってきた。あいつが歓迎されているようで俺はうれしかった。浜野からも何か用意した方が良いものはあるかと連絡が来たがもう役割分担は出来ているので特にはないと伝えた。
25日はすぐにやってきた。
O市唯一の駅に俺は車で向かっていた。車を持ってない浜野と源梨花をキャンプ場に連れていくためだ。
駅前のロータリーで2人は待っていた。
「悪い遅くなった」
俺は謝る。ナビが案内した道が一方通行で通れなかったため回り道をしたりしていたら軽く迷子になっていたのだ。
「ヒロ遅い!外、馬鹿熱いんだけど!」
梨花は怒っていた。白いワンピースに麦わら帽子をかぶっていた。とても似合っている。浜野は黒と白のモノトーンでそろえた服装に大きなクールボックスを持っていた。
「浜野それは?」
「酒だよ。僕だけ何も持ってこないわけにはいかないだろ?」
「それ、全部酒か?」
「なんだ、悪いか?」
あまりにも大きいクールボックスなのだ。家族連れ用にしか見えない。一体どれだけの酒を持ってきたのか。というか、彼は酒が飲める方なのか。
キャンプ場に着くと先に大樹、三里、幸太郎、ななこが着いていた。
幸太郎が持ち込んだテント2つの組み立てをしている。このキャンプを提案したのはキャンプにはまっている幸太郎だった。彼を中心にそれなりに仲のいいメンバーそれぞれが数珠つなぎに呼んで集まっていた。今日はこのキャンプ場の利用客は俺たちだけのようだった。
「浜野!久しぶりだな!元気してたか?」
大樹がそう声をかける。
「ああ、そういう大樹も大学ではアメフトで活躍しているみたいだな」
「なんだ?俺のファンか?」
「情報を追わなくても目に留まるほど活躍してるのはお前の方だろ?」
二人は腕組みしながら話している。大樹がアメフトをしているのは知っていたがそんなに有名になっていたとは。あるいは浜野の調査能力が高いのか。
「浜野君久しぶり。ねえ、私まだ運命の男の人に会えてないんだけど。浜野君の占い嫌な意味で当たってるんだけど」
三里がいう。占いなんかやってたのかあいつは。
そんなこんなで浜野は周りに馴染んでいた。急に呼んだ身としてはその様子を見て安心していた。
「あ、やべ。炭持ってくるの忘れた」
幸太郎が声を上げた。
「着火剤はあるのにか?どんなドジだよ」
大樹があきれるように言う。
「俺が買いに出ようか?」
そう俺が言った。大樹は夕飯の食材を三里と一緒に買ってきているし幸太郎はキャンプセットを持ってきていた。俺だけが何もしていない気がしたのでせめて何か貢献しようと名乗りを上げたのだ。
「いや、その辺の木の枝でもいいよ」
幸太郎がそう提案する。
「じゃあ、僕が集めてくるさ。仕事柄山にはなれてるしね」
浜野は、持ってきた酒を好きに飲んでいいといいながら木を探しに行った。ななこは探偵と山関係なくないと笑っていたが俺もそう思う。あいつは結構適当な奴なので気にするだけ無駄な気がする。
幸太郎が浜野のクールボックスを開けて驚愕する。
「高けえ酒ばっかだし、シェイカ-まで入ってやがる。勝手に飲めねえよこれは」
俺は酒に詳しくないが、みんなが見ながら口をそろえてそういうのできっとそういう事なんだろう。1時間ほどで浜野は大量の木材を集めてきたし、みんなで夕食の用意を進めていた。
高校での思い出、高校卒業後の事。彼氏彼女のこと。色々なことで話は止まらなかった。
気が付くとすっかり日も暮れていた。




