ミツケナイデ/ワスレナイデ
これは昨日私が下校中に起きた恐ろしい出来事です。自分の中で整理するにも恐ろしい出来事だったのでここでまとめさせていただきます。
私はいつもの投稿から分かるように高校生なのですが登下校に八王子にある地下道を使ってます。〇〇駅から徒歩五分ほどのところにある古い商店街のある地下道です。私は部活帰りだったことから夜遅くなっていた時にその道を使いました。
古い道ですけど、何軒かお店も開いていて、電灯もちゃんとつく場所だから普段は何も怖いことなんかない場所なんです。
でも昨日は違いました。後ろから気配みたいなものを感じて。でも後ろを振り向いても誰もいないんです。
遠くからは居酒屋からの楽しそうな声が聞こえていました。なのでもし誰かにつけられてても逃げ込めばいいかくらいの考えでした。
後ろからの気配はどんどん近づいてきた気がしました。歩く速度を上げて振り切ろうとしたんです。といっても後ろに人影なんかいないし隠れる場所なんてないので。おかしいとは思っていたんです。
するといきなり後ろの電灯どんどんと切れて。暗闇が追いかけてくるみたいな。私は悲鳴を上げながら走りだしました。後ろからはたくさんの足音みたいなのも聞こえて。
とても怖かったです。
後ろから何かに掴まれた気がしました。
その時に、居酒屋から店長だと思える人が飛び出してきて。大丈夫かって声かけてくれて。私の悲鳴を聞いて来てくれたみたいです。
気が付くとあたりの電気もついていて。
それで気配も消えてたんでただの電気的なトラブルかなって思って。その場では感謝して家に帰りました。ただ怖い経験だったのかなくらいで。
でも家に帰って着替える時に私の背中に手形みたいなのがあったんです。
ちょうど押された感覚のしたあたりでした。
すみません。私の体験はこれで終わりです。出来の悪い怪談みたいかもですが本当にあったことなんです。
2018年8月2日 ユーザーネーム鈴木さんのSNSでの書き込み
「ご覧になれましたか?この投稿以降本物のオバケが出るといって色々な人が来るようになって。地域にお金を落としてくれるのならいざ知らずただ迷惑だけをかけて。それに何人か同じような経験をしたとか。連れがいなくなったといって警察に捜索願を実際に出す人も出てきたんです。多分、そういう行為で注目を集めたいだけなんだと思うのですが私たちとしても無視するわけにはいかず」
そう、八王子地下商店街保存の会の会長竹林が話す。
「それで、私に?こういうのもなんだけど、私こういう仕事にかなりお金を取るほうだよ?」
私は巫女服に包まれた腕でジェスチャーしながら答える。
「知っています。だからこうして商店街のみんなでお金を集めたんです。ここは、戦後すぐに作られた歴史的価値のある場所ですから。みんなここを守るのには本気なんです。それで地域の那座さん、ああこの辺で一番モノ知りの人です。T大学の文学部を昔出たとか。彼が、鷺丸神社のお祓いはホンモノだって言ってて。それでみんなを説得して4000万何とかかき集めました」
「ま、お金出されちゃ断る理由もないんだよなー」
私は答える。この辺りに住む那座というとその人物に心当たりがあった。昔世話した彼の息子か孫か。まあ道理でこの怪しい風貌の私を見ても驚かないわけか。
「それで、この辺でそういう話って昔からあるの?」
「実はここは昔から幽霊トンネルって言われてたみたいで。昭和50年代に今の保存の会ができて近代的な地下街に変わった感じですね」
「なるほど、なるほど。もし、何かでなくてもお金はもらいますからね」
私はそういう。
「ええそれで結構です。それで、すみません巫女さんお名前、伺っていませんでしたね」
「私?」
確かにそうだった。神社のものが電話で依頼を受けて私が来たわけで詳しい自己紹介はしていなかったなと思う。
「私は、渡辺真夜。一応鷺丸神社の宮司やらせていただいてます」
私たちは地下街に向かった。今は夜7時を回っていた。そこは時代を感じはするもののしっかりと整備されておりとてもきれいであった。
そして、確かに何かの気配がそこにはあった。
「それで、この投稿以前はこういうオバケ騒動ってあったの?」
「いいえ、昭和の大改装以降ここではそういったものはなかったと聞いています。幽霊トンネルっていう悪名を取り払うため頑張っていたそうですから」
竹林はメガネを触りながらそう答える。
「じゃあ最近何か変わったことは起きた?例えば工事とか」
「それならば、呉服屋をやっていた西野さんが歳を理由にお店をたたみました。それでいまは代わりのテナントを探しているところで」
「ふーん、なるほどね?」
多分あのシャッターの閉まっているお店だろう。位置を確認すると地下道の真ん中あたりにある。
「じゃあ、呼んでみますか」
私は背中からコントラバスケースをおろし中身を取り出しながら言った。
「呼ぶって?」
竹林が不安そうな顔をして聞いてくる。
「ん?オバケ」
そう言いながら私は懐から出した鈴を鳴らした。
1度。
2度。
3度。
通路の真ん中あたりの電灯が消えた。
どんどんと電気は消えていく。
さっきまではおとなしそうな顔をしていた竹林は恐怖で顔を歪ませていた。
どんどんと電気が消えて、暗闇が私たちに迫る。
その中に影を見た。
大量の人の手足が絡まりついているような何かだった。
「ま、真夜さん!足跡、足跡が迫ってきます!」
竹林が叫ぶ。
なるほど、痕跡は”見えない人”でも見えるんだ。なんて考察している。その化け物が私に迫るとき私は手に握る剣を思いっきり叩きつけた。
通路いっぱいに悲鳴が広がった。若い女の声、老人の声、幼い子どもの声。いろいろな悲鳴だった。
「終わったんですか?」
竹林が聞いてきた。
「うーん、まだかな。多分こっちの方だと思うんだけど」
私はまだ気配を感じていた。それは例の呉服屋の方だった。
「ここ、開けれる?」
私の問いかけに答え、竹林はシャッターのカギを開けて中に通してくれた。
中は何もない、開店前の商店にしか見えなかった。気配はまだ先にあった。多分もっと奥だ。
「ここって奥があるの?」
「いえ?古い建物ですから。見える範囲で全てです」
竹林が答える。
そうか。じゃあ、ちょっと手荒にやるしかないかもしれない。私は奥の壁を思いっきりけ破った。
その姿を見た竹林は何も言ってこなかった。あまりの暴挙に反応ができなかったか、あるいは奥に広い空間が広がっていたからか。
真っ暗な空間がそこにあった。竹林がスマートフォンのライトで中を照らすと天井から鎖で何かが釣り下がっていた。
ウゴウクウボ
足元にライトを向けて竹林は体を飛び上がらせた。
そこには若い男の死体とそれを取り囲むような大量の白骨があった。
「こ、これは」
「多分行方不明になったという人だろうね」
私は答える。
ここの白骨化した死体の遺志が集まったとかで例の化け物が生まれたのだろう。強い人の意思というものは肉体が死んだ後も空間上に残るのではないか。これはこういうことに詳しい男が幽霊の正体について考察して出した答えだ。これもそういったものの類だろう。
多分この地下商店街を建てる時にこの空間は見つかっていたはずだ。でもきっとなかったことにされたのだ。あれはそういう時代だったから。本当に辛い時代だったから。
私は鎮魂の呪文を唱える。どうやって効いてるのかはわからない。でも昔から使われている言葉だった。言葉が現象に形を与えるともあの男は言っていたか。
私は、ただこの犠牲者たちに祈りをささげることしかできなかった。




