第70話 目が覚めて会うのは
私が目を覚ましたという連絡がすぐに送られたらしく、父がすぐに病室にやってきた。父が来るまでの1時間は意識の確認などの検査をしていた。そんなこんなをしているうちに父が来たという感じだ。
「明日香、そのどうだ?大丈夫そうなのかい?」
「うーん、私も起きたばっかだからね。そんなことを言われても」
「それはそうか」
「でもありがとうね。お仕事抜けてきたんでしょ?休みの日は必ずお見舞いに来てたって看護師さんに聞いたよ」
「当然だろ」
「そう、ありがと。軽く検査したところ異常はないから、少しリハビリしたら退院だって」
「それは良かった。まあ、なんだろう。少し休みをもらったと思ったらどうだい?ほら、前にもこんなことがあっただろう?」
「もう、あれとは一緒にしないで!でもごめん入院費とか高いでしょ?」
「お前は気にするな。まあ無事ならよかった」
父は会話を続けていくうちに表情が緩んでいくように見えた。この人に凄く心配をかけてしまったようだ。とても申し訳なく思った。
それと同時に、あまり深く聞いてこない父からの愛情を感じた。私は昏睡状態になる前に浜野に連絡するように言っていたこともまるで、こうなることを知っていたことについても聞いてこなかった。
父はまだ仕事が残っているようで話したいことを一通り話すと職場に戻っていった。病室が静かになると思った矢先に浜野と真夜が入ってきた。
「受付で聞いたが本当に目覚めたんだな。無事でよかった」
「ほら!言った通りじゃん!お見舞い買ってきて正解だったね。私こういうの当てるの結構得意なんだからね」
「浜野さん。ありがとうございます」
2人を見て私はなんだか心強い気持ちになっていた。現実に帰ってきたという実感がわいたのだ。
「それで、どうなったんですか?」
私は浜野に聞く。私が目覚めたのはきっと彼が何かしたからだろう。浜野の隣で真夜は椅子に座りながら何か聞いたことのない古い歌のようなものを口ずさみながらリンゴを切っていた。
「すまない。僕たちは何もしてやれなかった」
「あれは、浜野さんたちのおかげではないんですか?」
「あれとは?」
「私、目覚めるまでここじゃないどこかにいて化け物と戦っていたんですけど急に辺りが暗くなって。化け物の本体?みたいなのだけになってそれをつぶしたら目が覚めたんですよね」
「なるほど、興味深いな?」
浜野は何か考え込んでいるようだった。
「だが、結局僕は君の助けにはなれなかった。依頼を受けた身で申し訳ない。でも、受付の話を聞く限り昏睡状態になっていた人はどんどん目覚めているそうだ。葉山さんも無事起きたらしい」
「まあ?結果オーライでいいんじゃない?少なくても今回は。浜野はそんな気負わないの!私だってなーんも役に立ってないんだから!ほら、これでも食べて」
真夜が綺麗に蝶の形に切ったリンゴを渡してくる。リンゴを食べながら浜野の話を聞いた。どうやら私とほぼ同時期に昏睡状態になっていた大祓連盟の人間が亡くなった話を聞き、心配になって見に来たそうだ。多分恵麻さんのことだろう。
浜野は今回の魔性の正体は掴んでいたようで詳しく教えてくれた。私はさっきまで夢の世界にいたのか。夢の中ではあんなにも痛かった背中には傷一つ残っていなかった。
なんにせよ原因は分からないが急に魔性が弱るようなことが起きて、それを要因に私たちは目覚めたのではないか。それが浜野の仮説だった。もう、ネットのサイトもいつの間にか消えたらしい。しばらくは心配しなくてもよいと言ってくれた。
それと同時に、この魔性は人の弱さが生み出すものだと。本質的には根絶出来ないのではないかと浜野は言っていた。もしかしたら、今回よりもひどいことが起こるかもとも。
でも。今は何もできない。私にも、彼にも。ただ無事に帰ってきてくれて良かったと。2人は私に言ってくれた。
翌日からはリハビリが始まった。半月近く昏睡していたらしい。病院のリハビリ中に葉山に会った。
「明日香、約束」
「うん、忘れてないよ」
交わした言葉はそれだけだった。それで十分だった。私は1週間待たずに退院出来た。葉山は私よりも長く昏睡していたことからもう少し退院までかかる様だった。
入院中に聞いた話だと、私が昏睡状態になった後に連続猟奇殺人が起きたそうだ。犯人の名前と顔を聞いて驚いた。大番だったのだ。警察の調査は不十分なまま昏睡状態になり、私が目覚めた日に死んだそうだ。
救急医療も対応する医者から聞いた噂話だと、その事件で生き残った子供も亡くなったらしかった。祖母が目を離したすきに自分の足で歩道橋から車の往来に飛び降りたという。
やるせないな、と私は思った。
でも、私は生き残った。そして葉山も。
それをまず踏みしめることにした。
葉山から、退院を伝えるメッセージが来たのは私が病院を出た5日後だった。




