第68話 ピリオドを打って
先輩が、花田先輩が取り込まれてしまった!いや、正確にはボクが巻き込んでしまったのだ。ボクは自らの行いの反省をしていた。
>ねえ、これで協力してくれないかしら?
FUYUはそう問いかけてくる。
何か、何か手はないのか。このAI、いや化け物を止める方法は。
人間に取りつく怪物、まるでB級ホラー映画にありそうな話だ。だが目の前で確かに起きている。化け物退治といったら怪談などではお祓いに行くような話がある。でもこれはそういう話なのか?インターネットにお祓い?どうにも受け止められなかった。
”インターネット?”
そうだ、今FUYUはインターネットを通じて仲間とつながっているといっていた。そしてFUYU自体はボクの作ったAIが元になっている。そこに何か攻略の糸口があるのではないか?
インターネットを通じて情報のやり取りをしているのならば既存の通信規格に適合しているのではないだろうか?それならば、その接続をこちらから利用できるかもしれない。それを切断すればいいのか?
いや、多分それでは不十分だ。脳に寄生しているならそれ自体を何とかしなくてはいけない。この化け物の仕組みさえわかれば!!違う!僕は誰よりも知っているはずだ。この化け物を。ずっと研究してきたのだ。FUYUを。
すぐにパソコンのFUYUのデータを確認しようとする。
>何かしようとしても無駄よ。このパソコンは私の体でもあるのだから。
「そうかい!」
ボクはそれだけ言い残しパソコンの電源を落とす。家のインターネットルーターも落とす。
ボクは机にラップトップを開いた。露が昔買ってくれた、ボクにとって最初のパソコンだ。このパソコンは無線通信すらできない代物だった。でもそれが今では都合がよかった。
スマホに通知が来る。
災害情報アラーム
本文:
あなたが何をしても無駄。
だから協力して頂戴?
FUYU
もう手段は問わないようであった。
「ボクは君を止めるんだ。協力なんかするもんか」
スマホの電源を切り、思考の世界に入る。ボクの頭の中にはFUYUの情報がある。そこに解決の糸口がある。絶対に!
自分の作ったAIの思考プロセスとログを思い返す。あれは思ったよりもプログラミング的な思考をしていた。ならばコンピューターウイルスのようなものが効くのではないだろうか?本来なら、それを相手に食らわせる方法はない。なぜなら人間の頭にプログラムをインストールする方法など存在しないからだ。でも今は違う。FUYUは自らインターネットという入り口を作った。そこからならなんとかできるはずだ。
ボクはすぐに作業に取り掛かった。ボクが生み出した化け物を止めるために。先輩を助けるために。
気が付くと翌日の昼になっていた。でも、ついに完成した。この化け物に通用しうるウイルスを。
問題はどうやってこれをFUYUのネットワークにインストールするかだった。インターネットにつないだ瞬間彼女にパソコンの主導権を握られてしまうだろう。人間よりも彼女のほうが操作は早い。事前にプログラミングをしたところでネットに接続と同時に向こうからの攻撃が来る。このパソコンの性能では太刀打ちできないだろう。
でも、ボクには1つ方法を思いついていた。彼女の目にはついていない。そして、確かな突破口を。
ボクはパソコンといくつか機械をカバンに入れて外に出た。大学に向かうためだ。
途中信号がボクの目の前で赤になった。なんて運の悪い。運が悪い?違う。明らかに普段よりも青信号の時間が短かった。これは妨害だ。どうやってかわからないがFUYUはボクの居場所を検知している。
駅前にたどり着くと、それは確信に変わった。これまでの信号はすべて目の前で赤になっていたし、駅前の電光掲示板に見たことのある画像が表示されていた。大先駅の電光掲示板に出ていたあのモザイク絵だ。そうか、あれが見てはいけない絵だったのか。あれがすべてのきっかけだったか!
もう、向こうは手段を選ばないようだった。道行く人々のスマホには例の画像が映し出されていた。途中車がボクに向かって突っ込んできた。すんでのところでよけた。運転手は急に操作が効かなくなったと謝ったがボクは急いでいたのでその場をすぐに後にした。確かあの車は法的な問題で制限されているが自動運転システムのような機能があったはずだ。つまりそういう事だろう。
駅を通るとき、時刻表はめちゃくちゃになり電車は止まっていた。おそらくネットにつながるものはすべて彼女の支配下にあるのだろう。しかし、電車を停めているということはボクの計画に気づいていないことの証明だった。
数々の妨害を潜り抜けてボクは大学についた。大学は完全に混乱状態だった。おそらく東京が、あるいは日本全体が混乱の渦にいるのだろう。
そしてボクはたどり着いた。”公衆電話”に。
ダイヤルアップ通信、今はほとんど使われていない電話回線を利用したネットワークシステムだ。そうこれがボクの作戦だった。昔はこれが基本だったと聞く。でも今はもうほとんど忘れ去られた技術。忘れられた接続方法、これまでの人類の歩みが彼女を打ち倒すのだ。
すぐに何枚も硬貨を入れてモデムで電話機とパソコンをつなぐ。すぐにピーヒョロヒョロという音とともに通信が始まった。すぐに事前に組んであったプログラムの通りにネットワークウイルスが送信される。
>驚いたわ。
こんな方法があるのね。
FUYUはボクを見つけたようだった。こんなに早く見つかるとは思わなかった。
「そうさ、君は新しく生まれた最新の存在だからね。過去のことはそこまで知らないと読んでいた」
>認めるわ。
ここまで見つけるのにかなり時間がかかったわ。
でも拓狼、あなた本気なの?
私の拡散に協力すれば人類は高みに至れる。
でも本気で私のことを
パソコンにいくつかウインドウが開かれる。ボクの想定した動作とは違う。FUYUの妨害だ。ボクのパソコンの操作は完全に乗っ取られてしまった。
「そうだよ。だから──」
画面には確かに表示されていた。
Task completed……
「ボクの勝ちだ」
ボクは高らかに勝利を宣言した。




