第67話 Fight or flight
「ここは逃げましょう!」
私は葉山と大番さんに叫ぶ。
私はあの怪物を抑えることは出来るが止めはさせない。どうやっても倒せる兆しが見えなかった。私だって体力には限りがある。余裕のあるうちに方針を転換させたい。それが私の考えだった。
実際のところ、ここで逃げたところでどうにかなるかはまったく分からない。そもそも逃げられるのかも分からない。
でも、戦い続けるよりもましだというのが私の考えだった。
化け物に私は大きく蹴りを入れる。距離を離せるように、持ち上げるように足を振るう。化け物は大きく吹き飛び、窓ガラスから駅構外に吹き飛ぶ。
よし、よくやった私。
駅から離れて繁華街に向けてみんなで走る。
どこまで離れれば安全なのか。私たちに安全な場所なんて本当にあるのだろうか?
「おい!あいつ追いかけてくるぞ!」
大番さんがそういう。
後ろを振り返ると、化け物が蜘蛛のようにビルの壁に張り付きながらこちらに近づいてくるのが分かった。
そういうことも出来るのか。
でもよかった。あいつは瞬間移動とかはせずに自分の足で追いかけてくるらしい。距離を離すことは出来るということだ。
私たちと化け物の間の距離はどんどんと縮まっていった。
いつの間にか化け物は二階建ての建物ほどの大きさになっていた。
路地や角をいくつも利用して振り切ろうとした。だが相手はぴたりと私たちの後ろについてきていた。もしかしたら私たちの居場所が分かっているのかもしれない。いや、多分わかっているのは私たちの居場所ではなく葉山の場所だろう。
私はともかく大番さんと葉山の息が上がり始めていた。それはそうだろう。もう15分以上も逃走劇を繰り広げているのだ。
化け物もそれがわかっているのか、戦法を変えてきた。
化け物は近くにある車を持ち上げて私たちの方に投げてきたのだ!
「危ない!」
飛んでくる1台目の車は何とかみんなで避けられた。車が地面にたたきつけられ轟音とともに窓が割れ、衝撃で引き裂かれたパーツが辺りを舞う。車も衝撃をそのままに歩道を転がり私たちの行き手を阻むように建物にぶつかる。
「痛った!」
大番さんが声を上げる。飛んできた破片で腕を怪我したようだ。シャツに血がにじんできている。
私たちに影が迫る。
””2台め”が飛んできているのだ。
これは避けられない。
直感で気づいた私は、葉山達に当たる前に全身を使って受け止める。車なんか大きくて、持ち手なんかないものだから、衝撃を受け流すので精いっぱいだった。
「あ゛あ゛!」
情けない掛け声とともに私は車を車道に投げ飛ばす。ものすごい音が辺りにこだました。
このまま外にいるとジリ貧だ。みんなそれがわかっていた。
「あそこに逃げ込もう!」
大番さんが大き目なショッピングモールを指さした。いいアイデアだ。建物に逃げ込むの袋のネズミになるだけだがあそこなら十分逃げることができそうだ。
私たちは再び障害物や建物を利用しながら、ショッピングモールに逃げ込む。化け物が不思議と迫っている様子はなかった。なぜだろうか?だが、都合は良かった。みんな息も絶え絶えである。
私たちは出来る限り距離を取れるように、建物の奥へと足を運んだ。
私が先頭で後ろに葉山、大番さんが続いていた。
「忠則さん!怪我をして、どうしたのよ」
後ろで声がした。
とても嫌な予感がする。
「いや、きくさんこれはただの怪我だよ」
「そんなこと言って、心配なんですよ私は」
きくと呼ばれた女性と大番さんが話している。
「大番さん、その方は?」
私は問いかける。
「家内だよ」
なるほど。
つまり化け物だ。
「大番さん、離れて!」
その声に反応する前にきくさんは化け物に変容する。
「畜生そうだった!」
大番さんが情けなく叫ぶ。私は横から蹴りを入れて化け物を吹き飛ばそうとする。
だが化け物は上手く受け身を取り大番さんの隣にぴたりとついて離れようとしなかった。
鋭い爪が襲い掛かる。
「痛てぇ!痛てぇじゃんか!」
左腕を抑えた大番さんが叫ぶ。
よく見ると肘から先が無い。切り落とされたのだ。
「おい!女!なんで俺がこんな目に合うんだよ!お前がかばえよ!」
大番は私を向きそう叫ぶ。
「お前だってバケモンなんだからバケモン同士で殺しあえよ!せめて俺を守れよ!」
こいつ、私を化け物と言ったか?誰のおかげでここまで生き残れたと思っているんだ。静かな怒り、いやあきれのようなものが浮き上がってくる。
「くそ、くそ!死にたくねぇ。なんでだよ!俺が何悪いことしたっていうんだ!痛い!痛てぇ!清水!役立たずが!俺を守れいお──」
断末魔を上げず大番は私を呪うような言葉を捲し立てながら息絶えた。
「明日香?私は、私は明日香のこと思ってないよ?化け物なんて」
「分かってる、逃げるよ」
私たちが入ってきたショッピングモールの入り口の方でガラスが割れるような音がした。葉山を追う怪物が入ってきたのだ。
私たちは反対側の出入り口を目指して歩を進めた。私たちだけでも生き残らないといけない。
葉山を助けるんだ。




