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魔性狩り【一章完結!】  作者: カーネルシトラス
Dreamin' dream

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第65話 大番忠則

 俺は恵まれていたほうだと思う。


 俺、大番忠則は親が小学生のころからやりたい習い事はなんでもやらせてくれた。欲しいものも高くなければ何でも買ってくれた。学校ではそれなりに友達はいたし、今でいうスクールカースト上位のグループの一員であった。


 でも、何事も上手くいくわけではなかった。高校受験の時、塾も行っていたが第一希望の学校に落ちてしまった。ちゃんと勉強は人と同じくらいしていたし、塾もさぼることがなかった。両親は俺が関心を持っていた高校のどこへでも志願させてくれたが第一希望の高校に入ることは叶わなかった。


 とはいえ、高校生活に不満はなかった。友達は出来た。部活はインターハイ予選で負けたがテニス部でレギュラーにもなっていた。趣味も出来た。いわゆるオタク趣味だ。当時は市民権がなかったが俺はその趣味を表に出さなかった。というよりも趣味なんてものは表に出さなくても楽しめるものだろう。だが勉学だけはうまくいかなかった。授業はちゃんと聞いてノートも取っていた。地元の塾にもしっかり通い続けた。でもずっと学年の半分くらいであった。


 結局そんな調子であったから大学も受からなかった。親は俺が大学に落ちる様子を見て優しく励ましてくれた。それでも2回目の受験、つまりは浪人は許してくれなかった。もう、いい年なのだから自分で生きろと、大学に行きたいのなら自分の稼ぎで行けと。そう言われた。


 急に突き放されたような気分であった。いきなり働けと言われても上手くいかなかった。当たり前だろう。何も準備していないのに就職活動を上手くできるわけも、働けるわけがないじゃないか。それでも実家にはいさせてくれた。そのまま家に引きこもり、オタク趣味に没頭しようかと思った事もある。だが、俺のプライドがそれを許さなかった。


 結局東京の工務店に就職した。就職を機に地元から離れることになったが、これが東京で仕事を探していた理由でもあった。俺の地元は田舎といえるような環境で俺の一挙手一投足が誰かに伝わる。あの忠則が大学進学に失敗して地元で就職した。そう言った事を話されるのが目に見えていた。そしてそれを俺が嫌ったのだった。


 就職と一人暮らしをすることに両親は喜んでくれた。これまで2年、実家に居座り一切のお金を落とさなかったのにである。両親はさらに俺の門出を祝い、賃貸の契約金とは別に50万円渡してくれた。家具や家電をそろえるのには十分だった。余ったお金では当時高かったゲーム機を購入した。


 俺は一生懸命働いた。それなりの地位にはついたしまあまあの給料を得た。でも、満たされることは無かった。周りのオタク仲間も年を取るにつれ結婚をして家庭を持ちオタク界隈から去っていった。仕事も29のころから身体的にきつくなってきた。


 婚活は行わなかったわけではない。上手くいかなかったのだ。俺の話がうまくないからか、あるいは高卒で今の職業についている事についてなのか。もしかしたら今の仕事に不満があることを見抜かれていたのかもしれない。なんにしろ結婚も勉学と同じように上手くいかなかった。身だしなみも、ふるまいも話し方も変えたがそれでもダメだった。


 仕事仲間もほとんど結婚していた。職場の話題はもっぱら、家庭の事か下世話な話であった。俺はそのどちらにも参加したくないし出来なかった。こうしていくうちに職場でもだんだんと浮いていった。それでも、仕事は出来るほうだったのでそれなりの評価はつけてもらえた。


 どうして俺はこんなに恵まれているのに上手くいかないのだろうか?生まれた家は間違いなく恵まれている。別に地元は田舎だといっても都内に大学進学して大手企業に行くやつも少なくなかった。環境的には日本全国で見ると全然恵まれていたと思う。職場も残業が多く肉体的に厳しいものではあるが残業代はしっかり払われ、基本給だけでも同年代の平均収入は超えていた。


 何も悪くないのに、俺が望むものは何も手に入らなかった。周りと同じように生活することが出来なかった。いつの間にか、ワンルームの自宅でアニメグッズに囲まれる生活にみじめさを感じるようになった。


 ある時ネットで夢が叶うサイトというものを見つけた。しょうもない画像を10分見ると夢が叶うといういかにも、うさん臭いものだった。見てみることにした。でも、何も変わる気がしなかった。結局は自分で何かしないといけないとしょうもないサイトで思い直させられた。


 なんで俺は上手くいかないのだろうか?家族には間違いなく非はない。俺に問題があったのか?そうは思えなかった。俺は別に他の人より遊んでいたわけではないし平均よりは色々と頑張っているはずだ。運がない?世の中が悪い?そんな理由しか考えられなかった。時の巡りで自分とは違う楽しい人生を送っている人間の事が恨めしく思った。


 もう自分の将来に希望を持てなくなっていた。もうどうなってもいいと思ってたし逆にどうしても俺自身が満たされることはないと分かってしまっていた。


 だから、腹いせに壊すことにした。


 ネットで牛刀を買った。切れ味のよさそうな奴を。牛刀を選んだのはなんとなくだった。猟奇殺人と言えば牛刀というイメージが俺の中にあっただけだ。


 別に捕まることは怖くなかったが返り血で衣服がべとべとになるであろうと思い小さなリュックに着替えを持った。仕事柄ベトベトな衣服がいかに不快であるか分かっていたのもある。


 俺は適当に近くの住宅街に向かった。俺の住むとこから2丁目程離れたとこだ。そこのほうが家族連れが多い気がしたからだった。


 1軒目、おもむろに玄関を開けようとした。だが鍵がかかっていた。別に俺はこだわりは強くなかったのでその家はあきらめた。


 2軒目、ドアノブを引くとガチャりと開いた。土足のまま家に上がる。物音を聞き若い男が寄ってきた。


「おい!」


 その声を無視して後ろ手に持っていた牛刀を振り下ろした。失敗だった。服と肌に防がれ相手のシャツを血でにじませるだけだった。男は唸るような声を上げて腕を押さえていた。人間は思ったより切れなかった。そういえば牛ひき肉も切るときは大変だなと思い返していた。次は刺してみた。こっちは感触が良い。何度か刺すと男が動かなくなった。


 1人殺せば後は流れ作業になるかと思っていたがそうはならなかった。みんな抵抗するし丈夫だった。でも、だからこそやりがいを感じた。


 夢が叶う思いだった。


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