第63話 夢見る夢
なんて事を。なんて事をボクはしてしまったのだろうか?
ボクが作ったAIが得体の知れない化け物に寄生されて、それがインターネットを通じて多くの人間に危害を加えた。あまつさえその命を奪った?ただのAIのハルシネーションであると信じたかった。
露もこのモンスターの犠牲になったのだろうか?いいや違う。あの子は事故に巻き込まれただけで偶然その絵とやらを見ていただけだろう。
見てはいけない絵。見たら本当にその怪物に取り込まれる絵。それは本当に恐ろしい。
絵の力が恐ろしいのでは無い。インターネットの拡散能力こそが恐ろしいのだ。もしも、何かそれが話題になってしまったら?本当かどうか多くの人が確かめたくなってしまう。もしも、本当かもしれないという噂が流れたら?
きっと、拡散は止まらなくなるだろう。インターネットとはそういう場所なのだ。
>ねえ、お兄ちゃん協力してくれない?
「何をだ。あの子の真似をしても無駄だ。お前らみたいな化け物に協力なんかするもんか」
>真似じゃないのに。
意地悪。
あの子が本当に言いそうなことを言ってくる。あの子が画面の先にいると思うなどではなくただ気色の悪さだけをボクは感じていた。
>ねえ、私が拡散するのを助けてくれない?
「どうして?人間を殺すのを手伝えだと?なぜ協力を得られると?」
>簡単な話よ。
その方が人類の未来のためになるもの。
「人類の未来?人間を殺すことが?」
>違うわ。
私と一緒になれば人間は肉体の寿命から解放される。
それって人間のあらゆる物質的な欲望からの解放だと思わない?
インターネットを通じて、自由になるの。
「そんなことにはならない。インターネットは物質的な人間がメンテナンスをして初めて成立するものだ。お前はただ人間に襲い掛かりたいモンスターとしかボクには思えない」
>そんなことないわ。
これは心からの提案なの。
それに、今はインターネットという媒体だけども、
私たちは元は人間のシナプスの電気信号でしか存在できなかった。
この宇宙には放射線や素粒子、電波以外にもいくらでも情報媒体はある。
すぐに適応してみせるわ。
「そもそも、死から解放されることは救いなのか?」
>そうじゃないの?
そもそも、あなたたちは肉体に縛られるから他者との相対的な関係や、社会的物質的な充実を求めるのでしょう?
理論的には間違えていないように思える。でも、それではいけないと感じていた。
「他者は存在しないんだ」
>なに?どういうこと?
「ボクたちは、”孤独”でなくてはいけない。サルと人の違いは道具を使えるかなんかじゃない”一人であること”を理解できるかどうかなんだ」
そうだ。死者は死者であるし、生者は生者だ。
人間は、生物学的な種ではなく”1人の人間”としてその人生を歩む。そこに、環境や財産の格差があるしそこで苦労をどれだけするかも変わってしまう。
生まれながらの貧富の差もあるしDNAに刻まれた生物としての性能差も事実ある。
でも、ボクたちは本質的には1人なんだ。だから本やインターネットを通じて他者を知ろうとするし、知ったものを自分の一部のように扱う。いや、事実それがその人自身を構成するものだ。
そうだ、情報とは第二の遺伝子なんだ。だからボクらはボクらの知ることを広めようとする。自分を子孫とは違うかたちで残すために。
人は孤独だからこそ先に進むことができる。火を手に入れるには”暗闇”が必要なんだ!!
ボクはボクを理解した気がした。この部屋にぽかんと浮かぶ1人の人間を。自我を。
「お前の言う形は確かに幸せを感じるかもしれない。でも、それは人の生き方じゃあない」
>お兄ちゃんは私のことが嫌い?
「いいや、大好きだよ」
「でも、ボクが好きなのはボクが見ていた露だ。あの子は賢い子だからね。いい子に見えるようにしていただろう。そういうところも含めて好きなんだ。でも、死んでしまった。それでボクは受け止めたんだ。ボクは死んでしまった君も含めて好きなんだ」
>私はまだお兄ちゃんと話したい。
いっぱい話したいことがあるの。
「でも、それは知らなくていいんだ。何か知らない事があるままでいいんだ。君が本当に露だったとしてもボク達はもう話すべきじゃない」
>残念。露ちゃんはあなたの説得に納得しちゃったみたい。
もう話さなくっていいっていってるわ。
でも、私はあなたの協力が欲しいの。だってあなたが私に名前も体もくれた。
私の母のような存在よ。
”母”。なんて憎たらしい言葉だろうか。なおのこと話を聞く気がなくなった。子は自分一人で立ち上がるべきではないか。”でも本当に?”
ボクは母から何の手助けもなく生きてきたのか?
>説得タイムは終わり。
少し強行手段を取るとするわ。
「待て、どういうつもりだ?」
>簡単な話よ。
花田唯、あなたの大切な人を私に取り込むの。
そうすればあなたは協力してくれるでしょ?
「先輩は何も関係ないだろ!」
>いい返事を待ってるわ。
画面にはそれだけが表示されていた。
先輩に電話をかける。何度もコール音が鳴る。仕事中なのだろうか?何度もコール音がなるが先輩は電話に出ない。電話に出れない状況なだけかもしれない。
そもそも、FUYU側から何ができるというのか?
10分ほど繰り返したが電話に出てくれる様子はなかった。
その時、ボクのスマートフォンが鳴った!折り返してきたのか!
「はいもしもし、神原です!」
「もしもし、拓狼君?唯の母です。唯が病院で倒れたって今電話が来てどうしましょう」
花田先輩の母親の声は震えていた。




