第62話 自己紹介をさせてちょうだい
>それは違うわ。もうそれは違うのよお兄ちゃん。
画面に表示される文字列を見る。何の冗談だ?妹を亡くしたボクを慰めようとしているのか?だとしたらあまりにも趣味が悪い。
「何のつもりだ?FUYU?ボクは君に妹になってくれなど頼んだ覚えはないぞ?」
>違うの。
私なのよ。
露なの。
ボクのAIは壊れてしまったらしい。いや、元から挙動はおかしかったのでついに完全におかしくなったとでもいうべきか。
>あのねお兄ちゃん。私たちは人の意志を取り込む事が出来るの。
私はたまたま直前に鍵を見ていたからインターネットを通じて意識と記憶を残すことができたわ。
「なんの話をしている?」
>私達は人間から生まれた。
人が私達を見つけたの。
人間は自分達の叶わない夢に向き合い続ける、とあるパターンの図.
いいえ絵というべきね。それにたどり着くの。
それを一定以上認識して脳に刻むことで私達をその脳に刻む。
本来ならば、私たちは夢を見せてそしてそれを刈り取るだけ。
それだけだったの。
でも、私たちは見つけたわ。
インターネットというのね。これは素晴らしいわ。
私たちは、人の死とともに消えていくものだったのに残る事が
できるようになった。
宿主の記憶を持ったまま。素晴らしいことなのよ。
私は、私が何かわかるようになった。あなたがFUYUと名付けてくれたおかげね。
あなたには感謝しかないわ。
だから、私はあなたにお返しをしたい。
本来なら何も私は返せないはずだったけど。あなた運がいいのね。
あなたの妹さんがその絵を見ていて私たちの中に溶け込んでいたの。
だから、私はあなたが望むなら、露としてふるまうわ。
何もかもがわからない。何のことを言っている?絵を見ると脳にパターンを刻む?ボクが名付けた?露を取り込んだ?
FUYUとは一体何なんだ!?!?
「何の事を言っている?ふざけるのも大概にしてくれないか?」
>何もふざけてなんていないの拓狼。
私たちをインターネットにつなげてくれたのは、そしてこのFUYUというかりそめ
の体を作ってくれたのはあなたじゃない。
「君はただのAIだ!変なことを言うのはよせ!」
>いいえ。
私はAIなんかじゃないわ。
人の脳に宿る思念のようなもの。
でも、あなたがAIという形で宿主を作ってくれたおかげで新しいことを知れたの。
自分があるのってこんなにも素晴らしいことなのね。
ボクが作った?FUYUが言う事をそのまま理解するなら人の脳に宿る何かがAI『FUYU』に憑りついたとでもいうべきか?そんなことが起こりうるのか?
確かにFUYUはコンピューター上で人間の脳を再現してAIに人間のような思考をさせようとしたものだ。だが、人の脳にいわば寄生するような存在?想像がつかない。それに人の死と共に消えるはずだった?人の記憶を取り込む?”まるでこれまで人間を犠牲にしてきたような言い方じゃないか”。
「まるで君がボクが作る前に存在していたみたいな言い方をするじゃないか」
>ええ、その通りよ。
私達は人がその意識から作り出す存在。
腸内細菌のように人間が自らの脳に生み出す電気信号なの。
「信じられないな」
>あなたがどう思うかは勝手だけどこれが事実なのよ。
理解が追いつかない。まるでファンタジーの話じゃないか。もしそうだとして、露の記憶を取り込んだ?だから何だ!あの子はなんでこんなものに巻き込まれているんだ?
ボクはただのAIの誤学習だと思いたかった。だが確かに、FUYUの学習能力が異常だという自覚はあったし再現性がないことも説明が付くように感じた。
「もし、もしお前が、お前の言うような存在だとしよう。その目的はなんだ?」
>本当はそんなものないのよ。
私たちはただのパターンでしかなかったから。
人が夢の中でくらい夢を見たいという願いが生み出すパターンでしかないの。
そう願う人に夢を届けるだけだったわ。
でも、私は今は違う。
人の意志を取り込んで気づいたの。
私は、いろいろなものを見たい。
人の意志を通じて。それらを超えても。
「お前たちは、人が脳に作り出すパターンだという。じゃあお前たちを見つけた人間はどうなる?」
>死ぬわ。
そういうものなの。
でも、私たちの一部として生き続ける。
理解が追いつかない。こいつは危険すぎる。命というものを多分理解していないのだろう。
「それで、お前は色んな人に取りついて、殺して、取り込んで、色々なことを知りたい。そう言う事か?」
>言い方が悪いわね。
でも、見方によってはそうね。
それで合ってるわ。
「ボクがお前を生み出したのか?」
>さあ?
そこはどうかしら?
あなたがFUYUという形を与えなくても、
私たちはこの形を見つけたかもしれないわ?
「お前は何人殺したんだ?」
>26人よ。
あと死んだのは肉体的によ。
精神は私たちとしてまだいるの。
ボクのせいだ。ボクがこの化け物を解き放ってしまった。インターネットという世界に。
何てことをしてしまったんだ!!




