第57話 To save
小林菖蒲と、大番忠則を前に私は思考を巡らせていた。
恵麻さんの死についてではない。今私がやらなくてはいけないもの。それが何か一生懸命考えていた。
あの化け物は私たちをこの現実世界とは違う空間に閉じ込めて、願望を実現させようとする。そしてその願望が実現すると私たちが襲われる。それが恵麻さんの件から予測されることだ。
私は今、メジャーデビューしている。”だが、私はそんなこと望んでいない”。どちらかというと目立たないことを望んでいる。メジャーデビューしているにもかかわらずそこまで声をかけられないことこそが私の願望じゃあないのか?
では、なぜデビューしているのか?実力?
いやそれはない。なぜなら、デビューしたきっかけなどの記憶があまりにもあいまいだからだ。あの化け物が関係しているとしか思えない。
ではなぜ?
思い返そう。誰が一番喜んでいるのか。
そうだ、葉山だ!
私は、葉山陽子を助けるためにここに来たんだ!!!!
私はすぐにスマホを取り出し葉山に電話をかける。店内の他の客が私に目を向けるが気にしない。どうせここは現実世界ではないのだから。
数回のコールののち葉山は電話に出た。
「もしもし、明日香?どうしたの?」
「ちょっと急ぎの用があって。今すぐ会いたいの。今どこにいる?」
あの化け物が牙を向ける条件はいまだにあいまいである。一刻を争うとみてもいいだろう。
「今?家だけど」
「確か、船橋だったよね?住所、住所教えて!」
「な、何?明日香?そんな慌てて?」
「話は会ってからする。急いでるの」
「分かった。分かったから。でも家まで来るのはやめてよ。駅じゃダメ?」
「いいよ。すぐに向かう!」
すぐに電話を切り目の前の2人の方を向く。
「恵麻さんの事でいっぱいいっぱいかもしれないですけど、もう一人私たちと同じ状況の子がいるんです!一緒に来てくれませんか?」
「いいけどよ。俺たちが集まって何ができるって言うんだ?」
大番さんがそう言う。
「気持ちは分かります。でも、絶対に手を取り合うべきなんです!今助け合えるのは私たちだけなんです!」
私は説得を試みる。
「分かった。俺もあんな死に方はしたくない。坊主はどうする?」
「ぼ、僕も行く!」
こうして私たちは意志を一つにする。あの化け物を認識できるのは多分現実からこの世界に巻き込まれた人だけだ。だから、そのつながりは大事にしなくてはいけない。私たちが今唯一頼れる存在なのだから。
私たちは池袋駅に向かい丸ノ内線に乗る。そして、中央・総武線に乗ったあたりから各々口を開くようになった。
「なあ、これって現実なのか?」
「大番さん、現実世界ではないって恵麻さんは言ってたけど、確かに起きたことだと思います」
私はそう言う。そうした流れで今私たちが直面している問題について改めて共有する。
ここは現実世界ではないどこかであり、私たちの願望を何かが叶えようと働く。そして、その願望が叶った時にその願望に関わる人か何かが、化け物に姿を変えて私たちを襲ってくる。襲われた人はこの世界の存在から消されて私たちみたいな現実から来た人以外から認識されなくなる。そうやって整理した。改めて考えるとまったく何が起きているのか理解できないというのが素直な感想だった。
私はかろうじてこの世界に自ら入ってきたという認識ができているが、他二人はまったくわけがわからないという状況だった。
かくいう私もどうやってここに来たのか。それを思い出すことはできなかった。これは他2人も同様だった。
口々に不安を吐露する。
無事に生き残れるのか。どうすればいいのか。いつまで逃げればいいのか。あんなものからどうやって逃げるのか。
専門家である恵麻さんの逃げ切るという提案を、目の前でつぶされたのが私たちにとって相当ショックなことだった。でも、あきらめるつもりはなかった。
明日は進み続ける者の先に現れるのだから。
船橋駅の改札を出るとそこは人であふれかえっていた。辺りを見渡すと遠くから葉山が手を振っているのが見える。良かった。無事みたいだ。
本当に?この葉山はあの化け物が化けた存在ではないのか?
だがそれは確認する術はない。本物だと仮定するしかない。そう考えることにした。
「明日香、どうしたの?後ろの人たちは?」
「えーと、どう説明した方が良いのかな......?」
私の中でもしっかりと整理できているわけではないので、言葉が詰まる。
「ねえ、葉山。何か、身の回りでおかしなことは起きていない?あり得ないくらい上手くいっている事とか」
「えー?そんなことはないかなぁ」
「そんなことはないでしょ?ほら、ストーリーズがメジャーデビューしているのとか明らかにおかしいでしょう?」
「何言ってるの明日香。私たちの努力の結果でしょ?」
「違うの、違うの葉山。私たちの頑張りが嘘って言いたいわけじゃ」
「わかんないよ明日香。明日香が何を言いたいのか、ここまで来たのかさっぱり分かんない」
それはそうだろう。私だってどう説明すればいいか分からないのだから。
「お姉ちゃん?」
そう、呼ぶ声がした。
「和人、どうしたの?」
葉山がそう呼ぶ。
葉山には年が近い弟がいたのか。知らなかった。
知らなかった?4年も一緒にいたのに?一度も話題に出たことがない?
絶対におかしい。
私は葉山に体を寄せる。
「明日香、どうしたの?さっきからおかしいよ」
「いいから」
緊張のボルテージが上がる。
「お姉ちゃん。その人あれでしょ!前言ってたバンド仲間の!」
「そう、紹介するね。うちのバンドの司令塔の明日香です!」
仲睦まじい様子を見せる。
「いイなあ、タのしそウ!」
和人の体があの化け物に変化する。
今回は、今回こそは救ってみせる。




