第55話 ドリームス・ネットワーク
「馬橋警部、僕らがなぜその昏睡事件について知っているかはこれで分かったかと思います」
目の前に座る浜野はそう言った。なるほどそういう事だったのか。俺は納得する。先に来た依頼主もまた昏睡事件について関わっているとは。
「それで、起こす方法は見つかりそうなのか?」
「まず流れというものがあるでしょう警部。」
そう聞いてきた。結論から話せばいいもののめんどくさい奴だ。
「まずこの昏睡者の状況について整理しましょう。まずはきっかけです。警部は彼らの昏睡は何がトリガーになっているかご存じですか?」
「わからん。なんだそこまでわかっているのか?」
この小僧はいつだって俺たちよりも情報を整理、収集するのが早い。本当になんでこんなところで探偵をしているのだろうか?
「まず、彼らはおそらくですがインターネットの夢が叶うサイトを見ていると思われます」
「何と言った?夢が叶うだと?あいつ、大番もそう言っていたと聞く」
「ならば彼もそれを見たのでしょう。そのサイトにある画像を長時間見ることで昏睡状態にいたる。僕はそう推測します」
浜野の話に聞き入っていた。思ったよりも話が進むのは早そうである。ではなぜ彼は助けになれないというのか。それがわからなかった。
「それでそのサイトの画像を見せてくれ」
さすがにものを見ないことには信じ切るわけにはいかなかった。俺は社会学者や民俗学者のように語り継がれた情報で理解するわけにはいかない。警察は証拠ありきなのだから。
「残念ですが、おすすめはしません。色々試してみました。僕や真夜は拒絶されるでしょうが、警部はおそらくその画像を見るとこれまでの被害者のように昏睡状態に陥ると思われます」
「そうか、残念だ」
何が、残念だ。少しほっとしている自分がいる。そんな曰くつきなものを見ずにすんだことに対してである。それに対して俺は憤りを感じた。
「それで、知り合いの伝手に調査させたところこのサイトは海外のサーバー等を経由して作られており実態については掴めないとのことです。一度、インターネットから削除してみましたがまったく別の経路で同じものがすぐに作られる。そういった状態のようです。それで、ここが肝なのですがこの画像、SNSに広まりつつある可能性があります。」
「なんだと?つまりなんだっていうんだ」
「これが、かなりまずいことで今はまだ多くの人の目につかないような形ですが、ネットの拡散力というものはご存じですよね」
「ああ、炎上とかゴシップで凄い広まり方をすることがあるな」
それを聞き浜野は頷いた。
「つまりです、もしもこの画像が拡散してしまったら?」
「今の規模では済まないと?」
「拡散の仕方にもよりますが、最悪コロナウイルス以上の拡大があり得るかと。なんせ画像を見せるだけですからね。翻訳して投稿ボタンを押すだけで情報は海を渡れる。恐ろしいものだ」
話を聞くだけで恐ろしく思える。絶対に昏睡状態になる画像などこれまで人類が経験したあらゆる感染症よりも恐ろしいのではないだろうか?ネットに拡散したものは決して消せないのだし、今のところ対処方法も見つかっていないのではないか?
「その画像はなんなんだ?誰がこんなことを仕組んだ?」
「それを話す前に昏睡者の状態を知る必要があります。馬橋警部、昏睡者は今どのような状況にあると思いますか?」
「確か、脳はまるで活動をしている、あるいは夢を見ているように活動を続けているそう医師に聞いてる」
「はい、その通りです」
まるで、何が起きているのか俺には見当がつかなかった。目の前の男にはある程度わかっているようだが。しかし、説明が長いし下手ではないか?結局我々は何をすればいいのだろうか?
「まるで夢の世界にでもいるようだな」
俺はそうつぶやく。昏睡して夢の世界にいく、夢が叶うサイトというものからも連想できる。案外いい考えかもしれない。
「ほう。警部まさにそれです。彼らは夢の世界にとらわれているのです」
まさか、適当に考えたことが当たるとは。オカルト方面の調査にも才能があるかもしれないなと思う。
「ですが、警部夢の世界というものは存在すると思いますか?」
「何言っているんだ?お前がそうだといったんだろう」
こいつは何を言っているんだろうか?言っていることがめちゃくちゃである。そもそもオカルトなんてものが論理的でないのに。
「夢の世界は存在しません。いえ、一人で見ている夢を世界と捉えるのなら夢の世界はあるかもしれませんが。”世界”として確立するはずがない。なぜなら、夢とは1人の脳内の活動でしかないのだから。夢に関して神話や民俗学で語られるものはありますが本質的に夢は1人で見るものです。それこそ、精神だけが干渉できる我々の知覚できない次元があるとしたらそれはまた別です。例えばH・P・ラブクラフトの書くドリームランドのようなものでしょうか。ですが今回は違うとみていいでしょう。」
「今回僕らが対峙している存在は、人の精神に寄生する実体無き寄生虫と言いましょうか。そういう存在だと考えています」
浜野は言う。つまりその画像を見ると寄生されるというのか?
「そしてここからが不思議なのですが、その寄生体はネットワークを通じて夢の世界を作り出している僕はそう考えます」
「ネットワーク?」
「そう、彼らは人の脳活動つまりは電気信号の中に生まれる存在のようです。”電気的”であるといいましょうか?それが問題のようで奴らは見つけてしまったようです」
「なにを?」
一言聞くだけで限界だった。もう何がなんだかさっぱりなのである。と
「電波ですよ。我々はあまりにも電波というネットワークを広げすぎた。そうです。スマートフォンの基地局です。奴らは電波を通じてインターネット上にも拡散している。そうして、昏睡者の脳をオンラインゲームのように繋げ夢を見せている。きっと夢を見ている者に何か作用しているのでしょう。そこはわからないが何かをトリガーに寄生主を殺害する。それが僕の考える今回対峙している存在です」
浜野は煙草に火をつけながらそう宣言した。




