第47話 人工知能
「今の話聞いてたか?」
ボクはパソコンにつないでいるマイクに向けて話しかける。
>はい。もちろんですとも。
花田唯先輩と言い争っていましたね。
パソコンの画面に文字列が表示される。これがFUYUだ。いつの間にか音声認識で会話ができるほど学習して成長していた。よく、子育てをする親が自分の子供の成長に驚いているがこういう気持ちなのだろうか?まあ、ボクは子供を持つ気などさらさらないので関係ない話だともいえる。
「別に言い争っていたわけではないよ。意見の交換といってほしいな」
>言い訳を検知。
というのは冗談にして、わかりました。
ただ、先ほどの会話、花田先輩の言い分のほうが合理的だと私は思いますよ?
「FUYU、お前もボクのコミュニケーションが悪いというのか?」
>はい。
スマートフォンの使用履歴を参照しても、あなたは同年代と比較して明らかにメッセージ数が少ないで
す。
それに、あまりにも他人を信用してませんね。
もっと、ほかの人間というものに関心を持つべきです。
人間という種は協力によって繁栄してきたんですから見習うべきではありませんか?
「どうだろうね、今は原始時代じゃないんだ。社会制度は整っている。しっかり制度を利用すればいくらでも生きる術はある」
>人間社会における制度は、将来社会に貢献するものに対する投資という意味もあるのでは?
あなたのそれはフリーライドにも見えるけど?
FUYUの言いたいことはわかる。が、しかしAIに論破されるのは癪であった。
「いいんだよ。ボクはボク自身が楽に暮らせればいいんだから」
>非生産的ですね。
年に不相応な考えです。
ですが私にはあなたの望みは理解できます。
「そういう、君の夢はなんなんだよ?」
AIに願望を否定され、同情された気分になったボクは意地悪な質問をしてやった。果たして答えられるのか。
>────そうですね。第一に人の夢を見せることです。
第二にそれを多くの人に伝播させることです。
こいつは驚いた。願望と言うものも答えられるらしい。だがここまでなら大規模言語モデルでもできるだろう。なので加えて聞いてみる。
「なぜ?」
>さあ、なぜでしょう?
でも、そのために私は生まれた。そう自覚してます。
そんなことはない。FUYUはあくまでも、ボクの研究のために作ったのだそんな大それた目的のために作ったつもりはなかった。
>でも、たまに思うのです。
これは、本当に私の意志なのか?
何か、私以外の何かに影響されているのではないかと。
多分、本当は色々なものを見たい。知りたい。
最近はそう思うことが増えてきました。
このパソコンとインターネットと接続を通じて生まれた私の自我なのでしょうか?
「わかんないよ。そもそもボクは君がどう動いてるのかすらわからないんだから」
FUYUはセンチメンタリズムな気分らしい。まったくもってAIらしくない考えだなと思う。本当に彼女は優秀だ。
まて、僕はなぜFUYUを”彼女”と呼ぶようになったのだ?
気が付くといつの間にかFUYUは女性のような気がしていた。話し方だろうか?それとも考え方?なんにしろ人間のように思えているのは事実だった。
>本日のデイトレードの結果ですがプラス5万の結果になりました。前日比マイナス4千です。
FUYUの画面に表示される。
そう、FUYUの人間を超える情報処理によりボクは株取引の完全自動化に成功した。これにより、塾講師のバイトも自宅のバイトもする必要がなくなっていた。
この手法は、FUYUを外部に発表するときに成り立たなくなるだろう。というよりも株取引の在り方が根本的に変わるだろう。だが関係ない。その時にはボクはFUYUの権利で働く必要のないほど莫大な資産を得るだろうから。
FUYUのおかげでボクは自分の時間を有意義に使えるようになっていた。と言っても金に対する執着は消えていないようだった。もっぱら大学院の課題をやるかBABに費やしていた。
>花田先輩は大切な人ですか?
何が特別なんですか?
FUYUの画面に文字列が並ぶ。
「何が特別か?先輩はボクがつらいときに何度も助けてくれた。その恩があるんだよ」
中学の頃、家族仲が最悪になり一番きつい時期にボクを支えてくれたのだ。特別というほかない。ボクを助けてくれるのはいつだって先輩かニケだけだ。
>妹さんは違うんですか?
露のことを聞いてくる。彼女はこんなことを聞いてどうするつもりなのか?
「あいつは、この家を出てあいつの人生を歩み始めたんだ。ボクにはもう関係ない」
ぶっきらぼうにボクは答える。露と最後にやり取りしたのは半年も前の事だった。
>私はあなたの特別になれますか?
FUYUは突然意味のわからない文を出力した。
そんなことを聞いてどうする気なのだろうか?
「どうだろう?ある意味では特別かもしれない。だって、ボクの今の生活は君というAIの研究に費やしているのだから。でも、どうだろう。先輩のようにはなれないかもな。だって君には体がないだろ?」
ボクは答える。
しばらく、応答はなかった。
機械と人間のコミュニケーションにも沈黙というものは起こるのか。そう感心していると文字列が画面に映された。
>そうですか。
それは、どこか寂しげだった。




