第45話 刑事と探偵
大都市東京に位置する文京区、その中で最も立地が悪いといえる雑居ビルの二階に位置するのがデカデンティア探偵事務所だ。
俺は車をコインパーキングに停めて、今まさに着いたところだった。出来ることなら関わりたくない。それが俺の本音だった。
ここは表向きにはただの探偵事務所だ。だが、胡散臭い妖怪だの怪異だのそういった案件でも扱う。それが特徴だった。
別に除霊やお祓いであれば神社仏閣でも対応をしてくれるところがある。ある情報屋が言うには大祓連盟とかいうとこに加盟しているそういう力がある人が日本全国にいるらしい。だが、基本的にそういう連中は決まって追い払う、つまりは何かに事後的に対応すること以外に対して強い忌避感を持っているようだった。まるで警察のようになにか起こっているという状態でしか協力してくれないのである。
それに対して、この探偵事務所を経営する浜野貫之は違った。それが何であれ依頼であれば手を貸す。そういう存在であった。
ボロボロの階段を昇りドアの前に立つ。窓から光源が見えることから中に浜野はいるようだった。
ドアを開けて中に入る。
何度見ても圧倒される異国情緒あふれる空間だった。
黒い髪にどこか浮世離れした服装に左目に黒い眼帯をした男が椅子に座っている。浜野貫之だ。
彼は、机の上に広げた資料や本を読み漁っているようだった。その口には煙草が咥えられている。煙草からハーブのような匂いが立ち込めていた。脱法ハーブではないだろうな?俺は疑惑を抱く。この男はそう言ったものにも手を出すたちなことを知っているからだ。
この事務所を訪れることは何度かあったが、浜野が何か仕事のようなことをしているのは初めてだった。
また、浜野の後ろ隣には、巫女装束を着て、20代前半の外見には見合わない白髪を後ろで束ねた身長が170近い女が立ってこちらに手を振っていた。確か、名前は渡辺真夜だったか?この事務所にいる連中はこのご時世にも関わらずマスクをつけないらしい。
「何だ、馬橋警部補でしたか。すみませんね、取り込み中で。それで、何の用です?」
浜野は資料から目を離さずぶっきらぼうに聞いてくる。
「浜野の坊主、あんたの助けを借りたい。あと、いまは警部だ」
「そうでしたか、馬橋文夫警部。すまんが、今は別の案件で取り込み中なんです。終わったら連絡しますよ。」
「ごめんね?今はちょっと面倒な状況でね?いつも、もみ消してくれるのはありがたいんだけどさ?」
浜野は俺の話を聞く気がないらしい。それを見かねてか渡辺が補足を入れてくれた。もみ消してくれるとはあの女がいつも持ち歩いている両手剣のことだ。銃刀法違反で捕まえるべきなのだろうが、命の恩もあり見て見ぬふりをすることにした。
「話だけでも聞いてくれないか?日本各地で起きてる集団昏睡事件についてなんだ」
俺がそう言うと初めて浜野は資料から目を離してこちらを見た。
「続けて」
「まず、日本全国で原因不明の昏睡事件が起きてる。コロナの後遺症でもなく完全に現代医学では解明できないそうだ」
浜野に促され俺は説明を始めた。
「それは知ってる」
なんと。ならば話は早い。いや、どこで話を聞いたのだろうが?これは医者や警察しか知らないようなマイナーな話のはずなのだが。
「24日に起きた西巣鴨の猟奇殺人。あんたならニュースで見てるだろ?あの犯人を俺たちは捕まえた。だがそいつが件の昏睡状態に陥ってしまってね。それで目覚めさせるにあたり力を借りたい」
これで協力を得ることができるのだろうか?花田医師の話によると昏睡者に死亡者も出ているようだ。大番が亡くなる前に何とか目覚めさせたい。
「なるほど。残念ながら助けにはなれなそうだ」
煙草を吹かしながら浜野は答えた。なんて生意気な子供なんだ!
「どうして?」
「僕を恨むなよ?情報は提供してやる。だが、”目覚めさせる”助けにはなれない。そう言ってるんですよ」
「すまんがまるで意味がわからない。情報を提供する?何を知っているんだお前は」
妙な言い草につい語気が荒くなってしまった。でも許してほしい。情報を知っているのに助けないとはどういうことなのか。
「まず、今の調べていることはその昏睡についてなんだ」
なるほどな。それで情報を持っているわけか。
「それで、先約の依頼主、清水明日香っていうんだが一回会ったことありますよね。ほら、下のソミールでバイトしてる学生ですよ」
「ああ、覚えてる。T大で民俗学だか、人類学を専攻してるんだったな」
おぼろげながら覚えていた。確か髪を染めて、明るい性格の少女だったはずだ。だがあの子がどう関係するのか?
「今、彼女がまさにその昏睡状態なんです」




