第41話 Ema Shiina
私に大学前で声をかけてきた人物は自らを椎名恵麻と名乗った。
これまで調査してきた中で渋谷のスクランブル交差点で起きたことを認識する唯一の人物だ。話を聞かないわけにはいかなかった。
恵麻さんの紹介でカフェに入り話を聞くことにした。
「恵麻さんは、どうして私が見える人だと思ったんですか?そもそもなんで渋谷のスクランブル交差点で起きたことをご存じなんですか?」
「簡単な話よ。私もあそこにいたの。正しくは近くのビルのカフェで窓際の席に座っていたの。私も驚いたわ。あんな街中に妖が出るだなんて。それに周りの人には見えず、あなたしか見えてないようだった。運命的なことに、あなたが誰かすぐにわかったわ。最近有名なバンドの歌手さんなんだもの」
恵麻さんは落ち着いた様子でそう話した。落ち着いた様子?それはおかしい。あんなものを見て落ち着いていられるのか?そもそもなぜ私に接触してきたのか?
「ちょっと待ってください。妖?恵麻さんはあれが何かわかっているのですか?」
「いいえ。でも、”私たち”はああいうものを大雑把に妖って呼んでるの」
「ごめんなさい恵麻さん。私はさっぱり話についていけなくて」
恵麻さんははっとした顔をして口を開けた。
「ごめんなさいね。改めて自己紹介するわ。私は椎名恵麻。全日本大祓連盟の祓い師をしています。端的に言えば妖怪とか幽霊とかの対処ね。それで、あなたにも協力を願いたいの」
全日本大祓連盟。浜野から聞いたことがある。日本中の霊能力や超能力のある人が集まった組織で化け物の対応をしていると。
「あら、意外ね。もっと驚いたりするものかと思ったわ」
「はい、以前ならそうだったと思います。でも、私も経験したことがあるんです。そういう存在の」
「なら話は早いわね」
「でもどうして私の助けが必要なんですか?連盟で何とかできないんですか?」
「そこが問題なのよ。どうやら、あの妖を知覚できるのは限られた人だけみたいなの」
恵麻さんはそう答える。言ってることに矛盾はない。そうだと思う。あれは浜野の目でも見ることが出来なかった。となると何か条件が必要であると考えてもいいのかもしれない。
昨日見たものについて確認を取ってみる。
「恵麻さんは角くんアンド雨ちゃんチャンネルっていう動画配信者知ってます?」
「ええ、あの危なっかしいことをしている心霊チャンネルでしょ?」
「昨日偶然配信見ていたんですけど、雨ちゃんがあの化け物になって角くんが襲われたんです。それで、いつもの動画みたいに呪文を唱えたけど意味なくてそのまま食い殺されたんです。そしたら渋谷の時みたいに存在が消えちゃって」
「まって?そんなこと知らないわ!ない!確かにネットから存在が消えている!」
スマホを慌てたように触りながら恵麻さんは話す。
「もしもし、師匠ですか?はい、椎名です」
恵麻さんはちょっと待ってと言い、おもむろに電話をかけ始める。店内の目線を集めるが気にしていないようだった。
「ええ、それで角くんアンド雨ちゃんチャンネルの事ですが。いや、前に話した。いえ、師匠の方からです。そんなことはありません。半端な力で妖の元に行く、いえ、そうでなく。わかりました。いえ、大丈夫です。必要な確認は取れました。お時間を頂戴しました」
そう言って電話を切る。恵麻さんは、顔を真っ青にしていた。
「もしかしたら、私以外の人間の記憶から、いえ、存在そのものが消えているのかもしれない。私の師匠が話したこと忘れるなんてあり得ないもの」
驚愕だった。そんなことがありうるのか。
「もし、もしですよ。それが正しいとしたら、これまでに一体どれだけの人間が消されてきたのですか!!!」
そう。それが問題だ。私が気づかないうちに誰かを忘れているのかもしれない。私にとって大切な誰かが。
「それに関してならそんなに多くない可能性が高いわ」
恵麻さんは、そう答える。
「どうしてそう思うんですか?」
「まず、どうして私たちがあの妖が見えるのか。そこが大事だと思うの。ねえ、明日香さん身の回りでおかしなことは起きていない?”いないはずの人間”がいるってことが。起こらないようなことが起きてることがない?」
何を言っているのだろうか。そんなことはないはずだ。
「私はね。あるのよ」
恵麻さんは、そう言う。
「家で瞑想しているときに気が付いたの。家に夫がいるって。そして二人で住もうと思っていた世田谷の一等地にいることを。おかしいのよ、私はこんな仕事をしているから呪いで赤ちゃんを生めなくなって、それが原因で彼との関係は破談になったのに。あと、最近自分の力が強まっているように感じるの。渋谷でも、角くんの件も話を聞く限り2人組の片方が姿を変貌させて襲い掛かっているわよね?そして、犠牲者は私たちと同じように妖が見えている。そうなるとある仮説を立てられるわ。多分、私の場合夫、いえ正確には元婚約者ね。彼が妖なんじゃないかと思う。あり得ない存在がいるのだもの。そこに何かあると考えるべきよ。つまりよ、あれが見えた私たちは次のターゲットなんじゃないかしら?」
その言葉に驚愕した。私はいつの間にか何か、気が付かないうちに認識が歪んでいる?だとしてもどうすれば気が付けるのか?何がおかしいのか一切の心当たりがなかった。
「私は、あの怪物についてネットに流すわ。誰か一人でも同じ状態になっている人を見つけたいの。そして、対策を考えなきゃ」
恵麻さんはそういう。私も協力することにした。メッセージアプリのアカウントを交換する。何かあればすぐに連絡をするように伝えられた。
そしてその場は解散となった。支払いを恵麻さんがしている時、私は席で唖然としていた。あの化け物はすでに私の周りにいる?そして、私が知らないうちに私の記憶が書き換えられている?私には何ができるのか?いや、記憶がおかしくなっているなら対応をする術がない。
私は絶望していた。
その時メッセ-ジが届いた。昨日遊ぶ約束をした友人からのものだった。そう、幼馴染の”坂上祭”《さかがみまつり》である。




