第30話 炎の中で②
私の目の前で祭が倒れる。
「祭!!」
駆け寄り、その体を持ち上げる祭の体は力がもう入っておらずピクリとも動かなかった。その表情は幸せそうであった。その瞼を閉じてあげる。
「西おじさん!!どうして!!」
私は声を荒げる。
「どうしてもこうしてもあるか。おやしろ様がそうせいっていうんやから。しゃーないやろ」
「そんなことはない!!別にあいつらは人間の意志をコントロールする力とかはなかった!!でも!!どうして!!!」
西が困った顔をしながら頭を掻いた。
「そんなこと言われましてもなあ。俺も大橋の息子やし」
「おじさんは東京に行ったことあるんでしょ?笹見さんにも会ったんでしょ。今やってることがおかしいってことはわからないはずないでしょう!」
後ろで真夜が戦う音が減ってきている、そして近づいてきていることがわかった。それとともに火の手もどんどん近づいてきており辺りの温度はどんどんと高くなってきていた。
私は祭の亡骸を抱き寄せるようにする。後ろでは何かが爆発するような音が何回かした。
「笹見かあ、あいつはええ女やったな」
「ねえ、西おじさん?笹見さん、笹見さんはどうしたの?」
私は震えるような声で聞く。私は思い出したのだ。西が祭に手をかける前から血に濡れていたことを。
「ああ、あの女は殺したで」
絶句、それしかなかった。なんでこんなことになってしまったのか、どこで私は間違いを犯したのか。
「どうして」
それしか言うことはできなかった。
「おやしろ様がそうしろ言い張りましたしな。ここから移るんやろ?じゃあ部外者は邪魔になってしまうさかい」
淡々と西は話す。
「おじさんは、痣が出てるの?」
「いいやでとらんで、おやしろ様にも会ったことあらへん」
「じゃあ、じゃあ!」
「逆になあ。なんで明日香ちゃんはおやしろ様の言う事聞かへんねん。せっかく痣出たんやろ?」
私は理解した。この人とは分かり合えない。化け物の血が濃いとか薄いとかではないのだ。この土地が、この家が化け物を生むのだ。
私たちのすぐ横で大きな爆発が起きた。夏樹さんの家のプロパンガスに引火したのだ。その瞬間私の手を浜野が引く。ダメだ。祭を置いていくわけにはいかない。この村に、こんな呪われた場所に。咄嗟に私は祭の腕をつかむ。軽かった。肘より下しかなかった。その瞬間、祭の体は炎に包まれていった。
私は何の言葉も出なかった。ただ涙と嗚咽が漏れるだけだった。
炎と煙の奥に西の姿が見えた。けがはしているものの無事であったようだ。少しかがみ、姿が見えなくなる。何かを拾っているようだ。次に西が見えたときその手には散弾銃があった。
西が散弾銃を私たちに向ける。
「浜野さん!!」
浜野は何も答えなかった。
西の後ろから人影が近づいてくる。
それはおばあ様だった。
額には2本の角が出ていた。
「おばあ様!無事でおったか!村のものがやらかしもうしてこんなことになってもうしわけあらへん。わたしら村人の不始末やわ」
「そう、何人生きとる?」
「わからへん、白い女にぎょーさん殺されてもうたわ」
遠くで誰かの悲鳴が聞こえる。
西は散弾銃の銃口をいつの間にか下げていた。
「おばあ様。全部、全部おばあ様が始めたことなの?」
私は震えるように聞く。
「そうや」
帰ってきたのはただそれだけだった。
「祭が死んだのも、祭の両親を殺すように言ったのもおばあ様なの?」
「血族をこの地に集めろゆーたんのも私や」
「私も、私も殺すの?」
震える声で私は問う。いや震えているのは声だけでなく私の体が震えているようだった。
すがるように私は浜野に抱きつくようにした。幼いころ優しかったおばあ様、どんな小さなことにも耳を傾けてくれたおばあ様はもういない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。
祭が、何のために私をかばったのか。死なないようにだ。死にたくない。
「助けて浜野さん」
すがるように私は口にしていた。浜野は動じることなく私を抱きかかえるようにした。
「西」
おばあ様の冷たい声が聞こえる。
「じゃあ、殺しますわ」
そう言って西は散弾銃を構える。死にたくない。
「もう終わりにしようや」
おばあ様はそう口にして”引き金”を引く。西が腹から血を流しながら倒れる。
「なんでや!」
「潮時や。初めから私のわがままやったんや」
「ここまで俺たちの人生を愚弄して最後まで踏みにじるのか!!!」
西の叫びが村に響く。
西は散弾銃をおばあ様へ、おばあ様は幸三おじいさんのライフルを西に向ける。
「明日香」
おばあ様が静かに微笑みながら語りかけてきた。
「お行きなさい」
銃声が2つ同時に鳴り響いた。2人は炎に包まれていった。
私と浜野は車のほうに駆けて行った。すぐに炎のなかから真夜が出てくる。
車の運転席に座り見様見真似でエンジンをかけながら私は真夜に叫ぶ。
「真夜さん!急いで!!すぐに逃げましょう!!」
真夜はゆっくり歩いて炎から出てきた。
「明日香、もう終わったんだ。全部終わったんだよ」
真夜はそう言った。
私の目から涙があふれていた。祭の血でぐしゃぐしゃになったシャツ。残された祭の左手。救えなかった。誰も、何も。この地に来て私は何も得られなかった。ただ大切なものをいくつも失ってしまった。




