第29話 私がお姉ちゃんだから
私は最近誰かの視線を感じる気がしていた。時期としては佐々木ゼミの合宿以来だろうか?元カレである中野の顔に浮かんだ。彼はストーカー気質がありそれが原因で私と別れることになった。ただ彼とは普通に連絡をとることもあり、またストーカー行為をしているとは到底思えなかった。
可能性としてあるならネットストーカーだろうか?私は昔雑誌の読者モデルをしていたことがある。あまり自分で言う事ではないが容姿は優れているほうである。佐々木ゼミでの飲みの際に撮った写真を確か林道里佳子(確かアカウント名はリリ@なんやらだったはず)がSNSで投稿していたのを見て再投稿した。私はあまりSNSをするほうではないし写真は読者モデルの際の編集部とのトラブルから苦手意識を持ってしまった。ただ同い年の反応を見る限り林道さんのような運用が一般的らしい。私としてはプライバシーが気になるし、ストーカーとかが怖くないかと思ってしまう。
そんなことを考えながら私は帰路についた。視線を感じる時間が最近増えている気がする。どんどんと家にも近づいている気がした。なので毎日面倒ではあったが、道を変えて帰っていたし、遠回りをするように心がけていた。
今日もそんなことをしているうちに日をまたぎそうになっていた。
鍵を開け、扉を開ける時急に声をかけられた。
「坂上祭さんですね?」
飛び跳ねそうになるほど驚いた。
見たことのない男だった。
「最近つけていたのはあなたですか?警察、呼びます」
毅然と対応した。こういうのは慌てたほうが負けなのである。
「待ってください。私は大橋村の者です。黒塚と申します。その肩の痣、それについて伺いに来ました」
彼はそう言った。
肩の痣。これは私が千葉に引っ越したあたりから出始めてどんどんと三つ巴のような形になっていった。母はその姿がはっきり見えるようになるたび血の気が引くような顔をしていた。母に言われ隠すようにして、明日香にも言うなといわれていたが、最近はタトゥーのようにある意味おしゃれじゃないかと思い始めて隠さなくなっていたのだ。
この痣は、あの村と関係があったのか。道理で母がこれを見るたびに血相を変えるわけだと納得した。あの人は恐れていたのだ。大橋村を。
だから気になってしまった。この痣が何なのか。たかが痣のためになぜ人をよこすのか。
私は黒塚を家に上げて話を聞くことにした。話を聞いて私は驚愕した。
曰く、痣を持つ者は偉大なる血を引く証だと。
曰く、強大な力を目覚めさせることができると。
曰く、大橋村とはその血族のための村であると。
私は最初は信じなかった。しかしその男が角を出し村まで来てもらうと腕をつかまれたとき、その尋常ではない力を前に事実であると心から理解した。
いきなり村に来いなど言われて断る気であったが、無理やりにでも連れていくといわれ声を荒げてしまった。しかし黒塚という男は、痣を持つものは血が薄れているにしろほかの人のようには過ごせないと。そう説得してきた。その説得を聞いたわけではない。この男は決してあきらめない。そう感じたことから村へ行くこととした。なぜならこの痣は私だけじゃない。明日香にも出ているのだ。条件として、親に先に挨拶すること、名残惜しく感じてしまうためこの部屋から出ていくことを約束付けた。部屋から出る時、私は明日香にメッセージを送った。
「さようなら。探さないでください。」
2018年8月8日23:32
本当は痣を見つけられるなとか、大橋村に近づくなとか言いたいことはあったがその男の目の前である。そんなことを打ち込む余裕はなかった。
私は明日香程賢くない。でも、部屋に帰らないことを条件にしてスマホを部屋に置いてきたのは英断だったと思う。これで明日香の情報が大橋村にバレるリスクは減った。
部屋のカギは男の目の前で日本橋から川に投げ捨てた。
想定外のことは実家に帰ったときに起きた。両親が男に抵抗したのである。おそらく母がこういうことがあるかもしれないと父に相談していたのだろう。父は果敢に挑み吹き飛ばされた。一瞬のうちに母が殺されて、父も殺された。信じたくなかった。私が流山に来て大学に行くまでに過ごした家で、私のせいで父と母が死んだ。私のせいだった。私が会いたいなど言ったから。
家の前に停めてあった男の車で私は東京から離れていった。もう、きっと帰ってくることはできないんだろう。私の人生はこれで終わりだ。ここからは化け物たちと化け物としての生活が始まる。そう考えるとどうにも言えない気持ちがあふれてきた。でもちょうどいいのかもしれない。私のせいで両親は死んだ。私は、両親を殺した。化け物にふさわしい末路かもしれない。そう言い聞かせることにした。
今の私に残された願いは1つ。こんな私にもたった1つだけ残っていた。明日香が。私の妹のようにかわいがっていた幼馴染がこんな思いをすることなく過ごすことだった。明日香の痣は袖で隠しやすいし、彼女も隠そうとしていた。
あのメッセージは、そんな私からの願いであり希望となったのだ。




