第28話 炎の中で①
私は炎に包まれた屋敷の横を歩き進める。浜野のいる方にむかって歩みを進めていた。屋敷は完全に火の手に飲まれていた。おばあ様は無事なのだろうか?いや、黒塚の言う話ではおばあ様こそが浜野のいう鬼の祖だという。おばあ様がすべて始めたことなのだろうか?
十三郎の商店の前までつき浜野がこちらに手を貸そうとしたとき目の前に刀が振り下ろされる。大吾だった。手には刀を、後ろには散弾銃を背負っている。
「明日香、なんで俺らのことをわかってくれへんの?」
「わかるわけ、わかるわけないじゃん。私は、東京で暮らしてみんなと過ごして生きてきて、いきなり化け物の仲間になれ?人間に寄生する化け物になれなんて言われて納得できるわけなんかないじゃん!」
私は言う。
「そうか、じゃあ去ね」
無表情のまま大吾は私たちに刀を振ろうと高く振りかざす。
「うわっ」
大吾は声を出し右手を押さえる。大吾の右腕には細長い金属の棒のようなものが刺さっていた。
後ろで浜野が何かを投げるような動作をして大吾は右ひざから崩れ落ちた。右ひざにも同じ金属が刺さり、血を流している。
「明日香、力を貸すぞ」
私とは反対から祭の腕を肩に回し体を支える。
「浜野さん今のは?」
「和釘だよ。五寸釘のほうが伝わるか?まあ護身用だ」
浜野は言う。浜野は左目の辺りを左手で押さえるようにしていた。その手からは出血していた。
「浜野さんそれは!」
「ああ、僕の左目は使いすぎると頭痛がひどくなるんだ。ただこんな状態だからね。使わないわけにはいかない。」
「違います!左手!何かで切りつけられています。」
「ん?ああ、本当だ。気が付かなかった」
浜野は今気づいたかのような反応だった。私たちのほうも大変であったが、こっちもこっちで大変な事になっていたのだろう。おそらくアドレナリンで痛みに気づかなかったのだと思った。
「車の鍵は持ってるか?」
「うん持ってる」
ポケットを確かめ答える。
「車まで行くぞ」
「真夜さんは!」
「あいつなら大丈夫だ!」
後ろから怒号が聞こえる。
私は振り返って後ろを見た。幸三おじいさん達が山から降りてきて真夜を取り囲もうとしていた。
幸三おじいさんがライフルを撃つ。真夜は身をひねるようにそれを避けて目の前にいる鬼に斬りかかる。鬼も手に持っている刀で防御しようとする。真夜はすぐに剣の持ち手を変え、相手の剣先をもぐりこむようにして両腕と首を両断する。一瞬のことだった。美しい無駄のない動きであった。それと同時に、いともたやすく命を奪う洗練されたその技に恐怖を覚えた。
真夜は懐に手を入れ何かを取り出した。それは黒い塊、拳銃だった。2発幸三おじいさんに撃ち、流れるようにもう2発近くの弓を持った鬼に発砲した。そして後ろ手に私たちに散弾銃を向けていた大吾に残りの2発を撃ち込んだ。真夜の拳銃はライフルと比べてはるかに多い量の白い煙を出していた。
いつのまにか大吾は私たちの命を奪う寸前まで来ていた。不思議と恐怖はしなかった。もう目の前の光景で冷静にさえなっていた。
真夜は拳銃を懐にしまった。その途中、背中を狙うように女が長刀を振るった。その顔をどこかで見たことがあった。そうだ、幸三おじいさんの奥さん理恵子さんの若いころとそっくりなんだ。私の目は暗闇の中でもはっきりとその顔が見えていた。
背後からの攻撃を真夜は剣の腹で受けてそらす。そのまま左に大きく回り胴を両断した。次から次へと迫りくる鬼を真夜は撃退していた。そのたび、白い巫女装束は返り血に染まっていった。恐ろしい命のやり取りが後ろで行われている。だが真夜のその舞いのような戦いぶりは心強い味方に思えた。
「明日香、前を見て走れ」
浜野の言葉にはっとして前を向く。車まではもう少しの距離だった。道の横には夏樹さんの家があった。玄関には夏樹さんがその2人の子供に覆いかぶさるようになっていた。一目見てわかった。みんな、もう事切れていた。
草陰から私たちの行く手を阻むように人影が出てくる。西おじさんだった。
西おじさんは手に短めの刀を持ち、服と刃には血がついていた。西おじさんの頭には角が生えていなかった。
「西おじさん?」
私は声をかけた。
「堪忍してな明日香」
そういうと思いっきり刀を振り下ろした。私達は避けられなかった。祭を支えていたからだ。そして、それは祭が誰よりもわかっていた。
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私はもう長くない。
もう気づいていた。胸から流れる血が止まらないし、四肢の末端は痺れてきた。
なんだかもう眠い気がしてきた。後ろのほうで明日香が呼んだ人が戦っている音が聞こえる。
でも、その人が勝つかどうかに関わらず私は死ぬのだろう。目の前に西が飛び出す。何かを言って手に持つ刃物を振りかざす。
明日香も、明日香が連れてきた助っ人もこのままではやられてしまう。
最後の力をふり絞って二人を振り払い、私は足を前に進める。全身が激痛で痛い。もう横になっていたい。でも、明日香を守らなくてはいけない。
だって私はお姉ちゃんだから。
咄嗟に左手が前に出た。
もう死に体なのに体は反射で防御するのだな。私の左腕は簡単に切り飛ばされた。そして左から右に大きく袈裟切りにされた。
痛みなんかよりも達成感のほうが大きかった。
そして、私、坂上祭の命はここで尽きた。




